『殿の町』一
情けない私の声の後に響く、妖精さんの笑い声。
お相手のドレイクンも間の抜けたような顔をしています。
が、次の瞬間――。
「ふんっ、助けにきてやったぞ」
「ついでに来てやりやがりました、このハ……シルヴィア様のマスター」
さらっとハゲと言いかけたホープさん。
ですが、シルヴィアさんの前ではハゲとは言わないようです。
「――ッッ!? セイレイ!!? 【対セイレイ、無力化術式起動!】」
ドレイクンが懐から何かを取り出したかと思えば、広がる魔方陣。
これは……見覚えのある魔方陣です。
一度目は領主様の屋敷。
二度目は輸送隊を襲撃された時。
三度目は攻撃した村での戦闘中。
どうして私は、この魔方陣の事を忘れていたのでしょうか。
このままでは二人が無力化されて――。
「【11000010110100001011100110110011】……制圧完了」
「よくやった」
「ハイ」
超速早口で謎の数列を述べたホープさん。
展開された魔方陣は薄れていったかと思えば、消えて無くなりました。
ホープさんとシルヴィアさんの、微妙な上下関係が見え隠れしています。
……それにしても。
ホープさんは一体、何語を話しているのでしょうか。
「あ、ありえん……!」
先程までの自信が嘘のように目を見開いて後退りをするドレイクン。
それに対して手をかざしたシルヴィアさんと、武器を向けるホープさん。
「……チッ。【転送術式!】」
何やら小さな水晶を地面に叩きつけたドレイクン。
次の瞬間、地面に小さめな魔方陣が広がりました。
「逃がすな」
「【10110101110100011011001010111100】」
「よくやった」
「ハイ」
「……は? えっ? ……なッ!!?」
魔方陣が消えた無くなった事に目を白黒させているドレイクン。
ホープさんが言った謎の数字の羅列。
当然、私では何が起こったのか理解できません。
しかし何と言うか。
シルヴィアさんとホープさんが、上司と部下の関係であるように見えました。
一度で良いので、シルヴィアさんのような上司に優しく罵倒されてみたいところ。
「シルヴィアさん?」
「ホープは〝却下〟と言ったんだ。まさか、とうとう言語も理解できなく……」
憐れな者を見るような目でこちらを見てきたシルヴィアさん。
たった二文字の言葉が、どうしてあんな長い数列になるのでしょうか。
理解出来ません。
――ぐやじぃ。
とても悔しいので、シルヴィアさんの純白おパンツを覗き見ます。
……白ッ! ――真っ白ッッ!!
シルヴィアさんの下着を見ていると、悔しさがほんの少し薄れるようです。
「フザけるな! アークデュークであるこの私が逃げるだと!? 私は次の――」
「どうでもいい」
相手の言葉を、〝どいでもいい〟、とバッサリと切り捨てたシルヴィアさん。
このドレイクンの性格は、簡単な拷問では口を割らないタイプです。
が、場の勢いと流れではペラペラと情報を漏らすタイプと見ました。
今のは……何か重要な事を聞きのがしたような気がしてなりません。
「し、シルヴィアさん!」
「了解だ。おい、続きを話していいぞ」
「クソォオオオオオオオオオ!!」
上から目線のシルヴィアさんに口から炎を漏らしながらキレるドレイクン。
プライドの高い者であれば、これはキレても仕方がありません。
もう少し言い方というものを考えて頂きたかったところです。
「話すのを許可すると言っているんだ。……まさか聞こえなかったのか?」
「この私を、ここまでコケにして……! 絶対に、ヌッ殺すッッ!!」
「コケ!? 鶏だったのですか!!?」
「うおぉぉぉおおぉおおおああああアアアアアアアア――ッッッ!!! 【龍化!!】」
何やら発狂しながら龍化したドレイクン。
これが最近の、キレる若者というやつなのでしょうか。
……古い?
そんなバナナ。
「ふんっ。ホープ、殺すなよ」
「ハイ。【モード、パルスマシンガン】――ファイアッ!」
ホープさんの銃口が輝いて連続した光弾が打ち出されました。
それがドレイクンの鱗を破り、肉を貫通。
翼、両前足、両後ろ足。
致命傷になり得ない、その全て。
が、全ての穴が途轍もない速度で再生していっています。
――パルスマシンガン。
ゲーマーだった友人が歳によるアクション限界を教えてくれたと言っていた……。
そのゲームの、例の敵が使っていたという銃と同じ武器。
絶え間ない弾幕のような射撃が可能なのに、その単発威力の高さ。
現実に目で見てみると武器としてはインチキだと言わざるを得ません。
「グガァアアアッッ! 【ブレス!!】」
「【
吹き荒れる炎。
珍しく私をも守ってくれている氷の壁。
おっさん花は巻き添えで溶けています。
そんな中でも銃口を上に向けて射撃を続けているホープさん。
その弾は空中で向きを変え、ドレイクンに降り注ぎました。
あの威力とこの弾幕に……更には追尾性能まで。
ホープさんの小細工を許さない演算能力。
こんな彼女らが人類に牙を剥いて空を支配していたとあっては……ええ。
旧人類が滅んだのも納得です。
「【
唐突に止んだ炎による攻撃。
氷の壁は一応持ってはいましたが、かなり薄くなっています。
そんな状況で眼前にいるドレイクンの姿を見てみると――。
口を開いたまま無数の氷球体に凍らされている口回り、足、翼、尻尾。
口回りは顎から上顎まで。
鼻から炎が吹き出している姿は間抜けの一言です。
しかし一応は、鼻で呼吸が出来るように配慮しているのかもしれません。
「――ふんっ!」
身動きが取れないドレイクンの尻尾を蹴って切断したシルヴィアさん。
尻尾はいくつかの建物を破壊しながら、かなり遠くに落ちました。
痛みにもがきながら倒れたドレイクンの真上に移動したシルヴィアさん。
一体、なにをするつもりなのでしょうか。
「【
「――!? ――――!!?」
地面から突き出した氷の棘はドレイクンを刺し貫いて地面に固定しました。
絶妙に急所を避けているシルヴィアさんの氷の棘。
「話したくなったら話せ」
「――!!?」
そう一言だけ言った後――。
「ふんっ!」
「ッッッッッ!!?」
爆裂シルヴィアさんキックがドレイクンの足に炸裂。
鱗が割れ、肉が弾け、辺りにドレイクンの血が飛び散りました。
しかし足が吹き飛んでいないのを不満に思ったのか、シルヴィアさんはしかめっ面。
「ふんッッ!」
「――ッ! ――ッッッ!!!」
シルヴィアさんは千切れかけの足を思い切り踏みつけて、切断。
――理不尽です。
話せと言っておきながら、ドレイクンの口は塞がっています。
ドレイクンが話す気になったとしても、あれでは話す事ができません。
いえ、そもそも……。
何を話せと言われているのかすら、彼は理解していない可能性があります。
「シルヴィアさん、もう安全ですか?」
「いや、まだダメだ――ふんッッ!」
「――――――――!!!」
白目を剥いて悶えているドレイクンに危険があるとは思えません。
「ちょっとシル――」
彼女の攻撃を止めようとした、次の瞬間。
ドレイクンの全身が一瞬だけ炎に包まれました。
その炎が晴れると、そこに立っていたのは人型のドレイクン。
「は、話す! だからもうやめろ!」
「シルヴィア様。このトカゲは嘘を吐くつもりでありやがります」
「そうか」
瞬時にドレイクンの思考を読み取ったホープさん。
どうやって嘘を吐くつもりなのかを判断しているのか判りません。
が、彼女に嘘が通じない事だけは理解しました。
「……で、ヤメロだと? お前は一体、何を話すつもりなんだ?」
シルヴィアさんは首を傾げながら、人化したドレイクンとの距離を詰めました。
「ヒッ!!」
「私が戻ってくるまでに、キチンと考えておけ」
放たれる、シルヴィア☆パンチ。
ドレイクンの下顎が消し飛び、再び話せない状態になりました。
「アアアァァァアアアア――ッッ!! はあう! はあうははッッ!! はうははは!!!」
「【
またもや両手両足、尻尾、それから口を氷で固定したシルヴィアさん。
大きかった時と同じように蹴り倒し、氷の杭で地面に固定しました。
「ホープ、魔力を吸収しながら回復しきならない程度に肉を削っておけ」
「ハイ」
シルヴィアさんに言われるがまま、動けないドレイクンの肉を千切り始めたホープさん。
しかしドレイクンの生命力も相当なものなのでしょう。
千切った傍から肉体が再生していっています。
シルヴィアさんはそれを一瞥し、私の元に帰ってきました。
「もう安全だ」
「……わかりました。では離れて行った仲間達が戻って来れるような、何かを……」
「アイツの肉でも打ち上げてみるか?」
コテン、と首を傾げて言ったシルヴィアさん。
仕草は魅力的なのに発言の内容は超ヘビー級。
汚い花火は嫌です。
「別の方法で」
「そうか。……それなら……ホープ!」
「ハイ」
ホープさんはドレイクンを千切る手を一旦止め、空に向かって光の弾を撃ち上げました。
光の弾が弾けた後の空には、謎の文字。
私には読む事ができませんが、この世界の文字なのは間違いありません。
「何て書いてあるのですか?」
「ん? 〝ハゲ好きは戻れ〟って書いてあるな」
「私は完全なハゲじゃないのに……悲しいみ」
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