『殿の町』二
汚い花火が打ち上げられ、ドレイクンが無力化された敵司令部。
ここはもう完全に制圧したと言っても良いでしょう。
「今回の敵で最も戦闘能力の高いヤツはソイツだ。で、次はどうする?」
「ではシルヴィアさん、シルヴィアさんは敵の残りを倒しに行ってください」
「了解だ、ご主人様」
そう言い残したシルヴィアさんは戦闘音のする方へ飛んでいきました。
この場に残っているのは私とホープさんだけ。
いえ、千切られ続けているドレイクンのレバンノンという名の者も居ました。
ドレイクンは鼻から炎の息を出して、少しずつ氷を溶かしています。
「ホープさん、それは大丈夫なのですか?」
「魔力は殆ど急襲済みですハゲ。氷が溶けても制圧は可能ハゲ」
「その語尾は止めてください」
だから、まだ完全なハゲじゃないのに――悲しいみ。
「勇者様っ!!」
「リア、無事でよかったです」
戻って来るなりノーストップ抱き着いてきたナターリア。
こういう部分はやはり、まだ見た目相応な子供なのかもしれません。
「……思っていたよりも早かったな」
「オッサンお前、強いのは知ってたが、こんなに強かったのか」
「あらぁ、楽しそうなコトやってるわねぇ~」
他の四人も帰ってきました。
そして、おもむろに切れ味の良さそうなナイフを取り出したリュリュさん。
「そのドレイクン、何やら情報を持っているようなのですが……」
「拷問なら任せてくれてもいいわよぉ」
「勇者様の為だものっ! わたしも全力で手伝うわっ!」
「じゃあまずは、自分の腸を見せてあげるところからはじめましょぉ~」
危険な空気。
「話すぅうううう!!」
「あれ?」
「あら?」
そんなタイミングで口元の氷が溶けたのか、ドレイクンが騒ぎ出しました。
「何でも話す!!! だからヤメテくれェ!!」
「ホープさん、ストップしてください」
「…………」
――グブチャッ。
「ギャアアアアアアアアアア――――ッッ!!」
「止めないとシルヴィアさんとマキロンさんにチクります」
「魔力吸収だけを維持してやりやがります。だから、マキロン様はヤメロください」
「はい」
何やら残念そうなリュリュさんを尻目に、私はドレイクンに近づきました。
ドレイクンは顔色が悪く、その目には恐怖の色が色濃く出ています。
「我々は魔王様の城周辺にて決戦を行う為に戦力を集中させている! ここはその足止めだ!! だからこの先は、どれだけ行っても魔王様の城までは殆ど抵抗も無いだろう! この私が先程ほんの少し退却しようとしたのは、その決戦場にて人類軍に備える為なんだ!!!」
早口でそのようにまくしたてたドレイクン。
言える時に全部言っておこうと言わんばかりの早口言葉です。
「ホープさん、コレは嘘ではないのですか?」
「嘘じゃない! 本当だ!! だからこれ以上私を辱めるのはヤメテクレ!!」
「嘘」
「えっ、嘘なのですか!?」
「……じゃない」
微妙間を空けてのその言葉。
ドレイクンは、さぞや肝が冷えた事でしょう。
事実を言ったのに嘘だと思われたという事は、拷問が継続されるということ。
ホープさんはシルヴィアさんとは違って、意図してイジワルです。
やっぱりマキロンさんにチクりましょう。
「えっと、彼はどうしましょうか……」
「一思いに殺せ! もう私は疲れた」
このドレイクン、なんだか一気に顔が老けたような気がします。
……可哀想になってきました。
「勇者様。わたしなら痛くないように殺すのも得意よ?」
「ちょっと待ってください」
トドメの申し出をしてくれたナターリアを手で制し、私は彼の前に座りました。
レバンノンの目を真っ直ぐに見て……確信します。
もう彼には、闘争の炎が全く残っていません。
「殺さなかったら、またヒトを殺しますか?」
「拷問されず生かされるのなら、私は貴様の指示に従おう」
「わかりました。では、今戦っている者たちを止めてください」
「それは……むりだ」
「何故? 貴方は指揮官なのですよね?」
「確かにその通りではあるのだが、交戦の命令以外は受け入れられないだろう」
交戦以外の命令を受け付けない足止め部隊……?
という事は、まさか――。
「決死隊ですか」
「……この私以外は、だがな」
「では逆に、貴方に出来る事は?」
「降伏した者と住民を平和的に纏め上げる事くらいだ」
「なるほど……」
どちらにせよ完全に殲滅しないのであれば、舵取りは必要です。
戦争を継続する意志のない彼に頭を任せるというのも悪くありません。
「ちなみにですが、アークデュークは人間でいうと、どのくらいの地位なのですか?」
「公爵だとは思うが、魔族と人族とでは階級の形態が違う」
本当にお偉い方でした。
階級と実力だけで言えば、リュポフさんよりも上なのではないでしょうか?
「魔王様は、ここ千年で大きく変わられた」
「……?」
「もう、あまり正気ではないのだよ」
「正気じゃないのに戦争を仕掛けてきたのですか?」
逆に正気を失ったから戦争を仕掛けてきた、という可能性もあります。
が、どうなのでしょうか。
「侵攻を開始した原因は幾つかある。が、一番大きな理由は、スパイが殺された事」
「魔王は?」
「無関係な筈だったのだが、黒騎士が動いているという事は……」
「今は参戦していると」
「そうだ」
この時代における魔王軍からのスパイ。
まぁ……心当たりが一つだけあります。
「数年前から各所のスパイが見つかりだして処理されていったのだが……ついほんの少し前、アークレリックという町の領主とすり替わっていた最後のスパイの者が、殺された」
やっぱりですか。
……黒騎士というのは、あの村で撃退した黒騎士の事なのでしょう。
あの黒騎士は魔王のお抱え騎士?
では何故あの時、ナターリアを切るのを躊躇したのでしょうか?
わかりません。
黒騎士だけは情報が無さすぎます。
「我々は人間領での情報を完全に遮断され、焦った好戦派の者達が動き出したというワケだ」
アークレリックの偽領主。
不思議なことに、バッチリと殺した覚えがあります。
その時の事を知っているリュリユさんとポロロッカさんに視線を向けてみると……。
目を逸らされました。
「まぁ好戦派が動き出すのは、どのみち時間の問題であったがな」
「で、ですよね!」
「……?」
決して、私が戦争のトリガーを引いたワケではない筈です。
心の底からそう信じたいところ。
「もう少し時間を掛けて戦争の準備をしていれば、こう押し込まれることも無かった」
「もしや魔王軍は、戦争の準備が万端ではなかったと?」
「当然だ。焦った交戦派が考え無しに動き出したと言っても過言じゃない」
魔王軍が戦争の準備を整えて攻めてきたと考えられていた、アークレリック防衛戦。
では、あれは何の準備もされていなかった無策の侵攻だった?
とは言え、それで色々と納得です。
撃退後の冬季再侵攻が無かったのにも説明がつきました。
「ポロロッカさん」
「……ああ、あとで中継ぎに伝えておく」
「お願いします」
人類軍が想定以上の快進撃を見せているのも、コレが原因でしょう。
場合によっては本当に、魔族を絶滅させてしまうかもしれません。
「せめて〝神剣〟の用意ができていれば……」
「神剣……?」
「あれが動いていれば、魔族軍は絶対に負けなかった」
――神剣。
名前だけでもその強力さが伝わってくるようです。
もしその何かが、決戦時に人族軍に向けられたら――。
「安心しろ。準備には最低でも、もう五年は掛かる」
……五年。
戦争が変に長引かなければ問題ない期間です。
しかしこの戦争が突発的なものであるとすれば、この戦争は――止められる?
「停戦の道は……?」
「好戦派の殆どは最初の侵攻で死んだが、もう止められはせんよ」
「そう、ですか」
「少なくとも、魔王様が討ち取られるまではな」
「魔王を討ちとれば、戦争は終わるのですね?」
「当然だ。なんせ我々魔族と魔物は――*******んだ。……ああ、禁止ワードか」
「……???」
最後の言葉が、まともな言葉になっていませんでした。
――禁止ワード?
という事はつまり、何かを誰かに伝えるのを禁じられている??
わかりません。
わからない事だらけで私の頭では整理する事も出来ません。
「ここはホープさんに任せ、私達も味方を援護しましょう。降伏した者は殺さないように!」
私は仲間達と共に、この町に残った魔王軍を制圧しました。
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