『強襲作戦』三

 城門の方から再度聞こえてきた爆発音。

 魔王軍の部隊は三点に集中しています。

 行くなら今しかありません。


「強襲部隊――進撃開始ッッ!!」


 私の声を合図に動き出した巨大魔導機械。

 それを先導するはホープさんとシルヴィアさん。

 巨大魔導機械を盾にして、二列を維持しながら進む魔導バイク。

 思っていた以上の加速力とスピードに、ハンドルを握る手に力が入ります。

 それはアロエさんも同じなのでしょう。

 私は今、苦しいくらいに抱き着かれています。

 一瞬で百キロを超えたのではないでしょうか?

 ――迫る城壁。


『グッドラック!』


 そんなマキロンさんの声が聞こえてきた直後、巨大魔導兵器が急停止しました。

 魔導バイクは当然のように速度を上げて、ジャンプ台を駆け上がり……。

 ――飛んだ。

 確かな浮遊感。

 ジャンプ台というよりかは、発射台でした。

 壁までの距離は、まだ五十メートル以上あります。

 勢いもありますが、浮遊しているのは魔導バイクの力もあるでしょう。

 マキロンさん達の事です。壁まで届かないという事はありえません。

 高度となどの浮遊力的に考えて、普通に町の中に落ちるでしょう。

 少し奥まったところに落とされるという事は陽動の意味もあるのかもしれません。


「ふんっ、援護してやる」


 高速で空を飛ぶ魔導バイクに、当然のように並走して飛んでいるシルヴィアさん。

 魔導バイクに気が付いた弓手からの矢が飛んできますが、当たる訳がありません。

 魔導バイクの両側部からアサルトライフルのようなものが出てきて、掃射を開始。

 ――バラララララララッ! とばら撒かれる銃弾の嵐。

 城壁の上にいる多くの者に命中していますが、倒せるのは弱い相手だけ。

 純魔族の者なんかは殆どが魔力障壁で防いでいます。

 城壁の真上に差し掛かった頃――背後で爆発音。

 私の後ろを飛んでいたのは確か、ヨウさん&ニコラさんのペア。

 後ろを見てみると、見る見る高度を落としていく彼等の魔導バイク。

 乗っていた二人へのダメージは大きくなさそうですが、囲まれるのは必然です。


「シルヴィアさん、彼等の戦闘と離脱を助けてください!」

「了解した」


 墜ちていく魔導バイクを狙った攻撃を弾くシルヴィアさん。

 二人の乗っている魔導バイクは、シルヴィアさんと共に町の中に落ちました。


「彼等はシルヴィアさんが居れば大丈夫です。私達は任務にしましょう!」

「ああ」


 現在乗っている魔導バイクも高度が落ち始めました。

 狙っていての事なのかは判りませんが、着陸地点は直線の大通り。

 高度が建物と同じくらいになった頃。

 魔導バイクからワイヤーが射出され、両脇の建築物に突き刺さりました。

 それが着地の衝撃を和らげ、着地と同時に切り離されます。

 他の全員が大通りに着陸したのを確認し、私は声を張り上げました。


「ホープさんはシルヴィアさん達の援護に行ってあげてください!」

「それでは魔導バイクの機銃制御が困難になりやがります、このハゲ」


 シルヴィアさんが居ないからなのか、ホープさんの口調が厳しめです。

 しかし今は――それを気にするだけの余裕がありません。

 魔族側にあるかもしれない、セイレイ無力化の陣。

 本当に持っているのかどころかも、発動方法も不明ですが……。

 演算に特化しているホープさんであれば、なんとかなるでしょう。

 確かにヨウさんとニコラさんが同じ場所に居る筈。

 ですがシルヴィアさんを単体で行動させるのは、なんとなく嫌な予感がします。


「通路で私達を追い回した時のような動きは可能なんですか!?」

「可能。ですが、ほぼ無差別での攻撃になりやがります、ハーゲ」


 口調は厳しいですが、これはきっと調教の結果です。

 対話が通じない訳でもなければ、理性を優先する様子もありません。

 仕事さえこなしてくれるのであれば、問題はないでしょう。


「では全員魔導バイクを降り、各自作戦行動をお願いします!」


 全員が魔導バイクを降りると同時に、独りでに走り出した魔導バイク。

 魔導バイクの両側からはアサルトライフルのようなものが出ています。

 猛スピードで魔導バイクが走り去った方向から――パラララララッッ! という銃声。


「城門解放の作戦はフレイル兄弟の指示に従って下さい!」

「フレイル兄弟ってあの、闘技場ランキング一位と二位……?」

「そうだぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ヘイタケル、ヘイタケル! 俺らが、ナンバーワンだぜ!!」

「指示は私が飛ばします、タケル様」

「お二人の心を読み取って指示を出します、タケシ様」


 僅かに湧くライゼリック組の戦争参加者たち。

 オンラインゲームの上位ランカー。

 恐らくライゼリック組にとっては、それだけで上の人という感じなのでしょう。

 二人はギルドを率いていた経験がある筈なので、任せておいても問題はない筈。


「城門解放組は、可能であれば落下した二人と合流してください!」

「当然だぁあああああ! 任せておけぇえええええええええええええ!!」

「ホープさんはシルヴィアさんの援護! 妖精さんは敵司令部までの案内を!」


 ――響く、妖精さんの笑い声。

 体内から何かが抜けた感覚はありましたが、死ぬ程ではありません。


「それでは――行動開始!!」


 シルヴィアさんの方へと飛んでいくホープさん。


「よぉおおおおおおおし! 俺達はこっちだぁあああああああああああああ!!」


 ライゼリック組はフレイル兄弟先導の元、右の通路に入っていきました。

 妖精さんが指示する先は左の通路なので、いきなり別行動です。


「では、私達も行きますよ!」


 私は妖精さんの後ろ姿を追いかけて駆け出しました。

 その後を付いてきてくれる、裏社会組。


「なんだオッサン、そんな顔もできるんじゃないか」

「ゆうしゃさま、かっこいい……」

「ポーっとしてないで行くわよぉ~」

「……まぁ、真面目な時のオッサンだけは、信用できるな」

「お師匠の方が……いい」


 この都市が終わりではありません。

 ここで戦力を欠いてしまえば、後に響くのは確実です。

 私達一行は、自然と薄暗くて狭い路地を進みました。

 今回の戦争を――最低限の死傷者で済ませる為に。

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