『強襲作戦』一

 ホープさんに連れられてやってきたのは、本体中央の右側面。

 そこに存在していたのは、やっぱりあの巨大な魔導機械。

 マキロンさんが殲滅型魔導機械と呼んでいた代物です。

 近くで見るとやはり大きいと言わざるを得ません。

 更には、その場に来た事で存在を確認できた――二十機の魔導バイク。

 その更に横には、横一列で並べられた八機の移動型魔力バリスタが確認できました。

 四輪タイプの魔力バリスタの銃座は六席が埋まっています。

 リュポフさんを始めとした、お偉い感じの方々は何やら話し合いをしていました。

 私達以外で集められているのは、ライゼリック組が中心でしょうか?

 見知った顔としては、フレイル兄弟、ヨウさん&ニコラさんのペア。

 忍者っぽい格好をした女の子を連れているのは、ヨウさんと知り合いなのでしょう。

 何やら楽しそうに雑談をしています。

 見れば、ポロロッカさんとリュリュさんも居ました。

 この顔ぶれで彼らが居るという事は、私に対する配慮、もしくは――。

 そういった立ち位置の者が必要になるのかです。


「こけぇー!」


 ……キサラさんまでいました。

 シルヴィアさんの言っていた二体目は彼女の事なのでしょう。

 私に飛びついて来ようとしたキサラさんでしたが、シルヴィアさんを見て停止。

 まるで蛇に睨まれた蛙のような関係性です。


「これは……って、マキロンさんは何処に?」


 ホープさんとキサラさんが居るのにマキロンさんが居ないという事はありえません。

 そもそもキサラさんは、私かマキロンさんが居ないと暴走する危険があります。

 鶏的な部分がなければ常に傍に置いておいてもいいのですが……ダメです。

 キサラさんの鶏的な部分を見ると、今でも鳥肌が止まりません。

 そんな事を考えていると……巨大魔導機械の腹部が開きました。


「俺ならここだ」

「……マキロンさん。それ、中に乗れるのですね」

「ホープが居れば無人でも動かせるが、この中の方が外よりも安全だからな」

「なるほど」


 この分厚そうな装甲。

 シルヴィアさんクラスの攻撃を受けなければ相当な耐久力があるでしょう。


「しかし、どうしてマキロンさんが此処に?」

「なに、町を散策していたら話の合う研究者と出会ってな」

「研究者……?」


 マキロンさんと話が合うレベルの研究者。

 それって、まさか――。


「やぁオッサン、この前ぶりだねぇ」

「オッサン様、お久しぶりです」

「ソフィーさんに……えっと、ヨームルさん?」

「えっ!? 忘れられかけてた!!?」

「あー、キミは影が薄いからねぇ。仕方ない仕方ない」

「酷い! 先生まで!!」


 巨大魔導機械の影から出てきたのは、見覚えのある研究者の二人組。

 もしかして、この魔導機械の調整でもしていたのでしょうか。

 二人はじゃれ合いのような口論をしながら、魔力バリスタの方に歩いていきました。


「しかしこんなモノ、どうやって前線まで……」

「飛行船で運んで貰ったんだが、知らなかったのか?」


 巨大魔導機械に近づきながら疑問を呟くと、マキロンさんが答えを返してくれました。

 存在は知っています。

 ただ、空を飛んでいるところは一度も見た事がありません。

 その為、実際にはどのようになっているのかを知らないのです。


「実際に空を飛んでいるところは見ていませんが、あるらしいですね」

「戦闘能力が実践運用に耐えられないと判断され、現在は輸送運搬に使われている」


 ――運搬特化の飛行船。

 多少の不安が残る構造飛行船ではありましたが、確かにそれなら使えます。

 この巨大な魔導機械を運搬できるという事は、相当大きな飛行船があるのでしょう。


「よし! 総員、傾注ッ!!」

「【エリアサイレス】」


 リュポフさんの声。

 それと同時に、その傍に居た魔術師が魔術の膜を展開しました。

 恐らくは作戦が敵側に漏れる事に対する対策行為。

 傾注の意味はわかりませんが、状況を考えるに耳を傾けろという意味なのでしょう。

 その証拠に集められた四十人前後は黙ってリュポフさんの方を向いています。


「これより我々は、三方面からの都市攻略作戦を開始する!」


 三方面からの都市攻略作戦。

 部隊の配置を見れば判るので、それは敵側も理解しているであろう作戦です。


「リスレイの攻略によって総数は十万を切ってしまったが、ここで引く訳にはいかない!」


 前線都市〝リスレイ〟の攻略。

 その戦闘が終わった後の地を見ただけでしたが、夥しい血痕が残されていました。

 一定以上の被害が出ているのは明白です。


「そこで精鋭のみで編成されたこの強襲部隊には、この魔導バイクに乗って城壁を超えて敵司令部と、可能であれば城門の開放を頼みたい! 司令部の破壊は絶対的な探知能力に長けたオッサン組。彼等との連携が可能な者は、一組でいいから志願してくれ!」


 突っ込みどころが満載です。

 魔導バイクで城壁を超える?

 地下遺跡では一応、この魔導バイクが壁面を走れるというのは確認しました。

 が、垂直の壁をも登る事が可能なのでしょうか?

 それに城壁の上からの攻撃に耐えられるのかも判りません。

 ……少なくとも、シルヴィアさんの攻撃には耐えられていませんでした。


「まっ、俺たちだな」

「オッサンと動くのも久しぶりねぇ~」

「……師匠と乗りたいわ」

「あらぁ~。それじゃあ私は、誰と乗ろうかしらぁ?」


 声を上げてくれたのはポロロッカさんとリュリユさんの二人組。

 見知らぬ誰がと比べれば圧倒的に信頼できる相棒です。

 ボロロッカさんとササナキさんが一つのバイクに乗るのは確定。

 リュリュさんは、こっちで余った誰かと乗るつもりなのでしょう。

 私達の方の様子を窺い見ていました。

 とは言っても、このメンバーでは同乗する相手は決まっています。


「アロエさんと私。リアとリュリュさんで決まりですね」

「うぅ、残念だわ……」

「空を飛ぶ短い時間だ。取って食ったりする時間はないさ」


 落ち込むナターリアを慰めているアロエさん。

 二人で並んで歩いていれば、姉妹に見えない事もありません。


「他の者達は街の中での攪乱、及び城門開放の援助を頼む!!」

「城壁を飛び越えるって、どうやるんだぁあああああああああああああああ!!?」

「ヘいタケル、ヘいタケル! うちの子らに投げてもらうんだろ、ヘイタケル!!」

「リスレイ攻略ではパートナーがパートナーを投げていたそうですね、タケル様」

「そうね。人間発射台でドレイクンを撃ち落としていたらしいですね、タケシ様」


 ――人間発射体。

 リスレイの攻略でそんな奇策がとられていたという情報は、やはり事実。

 しかしフレイル兄弟は遊撃隊として動いていた筈。

 という事は、情報提供をしたのはヨウさん&ニコラさんペアでしょうか。


「いやぁー、アレは酷い作戦でござったな!」

「霧が出てきたな?」

「シュンヤくん。わたし、そろそろエッチな事がしたいですわ」

「むっはぁああああ――ッッ!! でござるっ!」

「オイ馬鹿二人、ヤるのは好きにしていいけどな、あ・と・に・し・ろッ!!」

「ボクもヨウくんと……」

「お前までボケに回るのかニコラ!!? 頼むから突っ込みをもう一人くれ!!」

「ヨウに呼ばれた声がする! 俺を――呼んだかぁああああああああああああああ!!」

「ヘイヨウ、ヘイヨウ! 突っ込みなら任せろよ、ヘーイヨウッ!!」

「お前らもボケだクソボケェッ!!」


 いえ、この場には話した事のないライゼリック組だって居ます。

 なんとなく話が合いそうなゴザル口調の青年。

 ヨウさんが突っ込みのしすぎで疲れている様子です。


「勇者様ぁ~」

「はい?」

「わたしも、勇者様とエッチなことしたいなぁー?」


 私にキュッと抱き付いてきたのは、ナターリア。

 しかし子供らしいのは口調だけ。

 ヨウさんならこんな時、お前もかブルータス、くらい言うかもしれません。

 あの忍者っぽい格好をした女の子はエッチな事と言っていましたが……。

 ナターリアはその上で、エッチがしたいと断言しています。

 とは言え今は、状況が状況。

 ナターリアが言っているのは、きっと冗談か何かでしょう。


「あのー皆さん、話しを聞いて頂けないでしょうか……?」

「すいませんリュポフさん。今から全員黙らせますんで」

「えっ……?」


 ヨウさんがバスターソードを構えました。

 刃先が向かう先は、先程まで楽しげに話していた他のライゼリック組。


「今から一言でも喋ってみろ? 俺が愛剣で突っ込みの手本をみせてやる」

『『『…………』』』


 お口チャックの動作をしたライゼリック組の全員。

 流石はヨウさん、たった一言で全員を黙らせました。

 この場に集まっている他の者等とは違い、彼等はあまり緊張していない様子。

 余程の場数を踏んでいるのかもしれません。

 ……余計な事を考えたせいで、こちらが今更ながらに緊張してきました。

 何かに気が付いた様子のナターリアが、耳元に口を近づけてきました。


「あー勇者様、かたくなってるー……」


 そう言って肩の辺りを優しくほぐしてくれた、ナターリア。

 それは嬉しいのですが、発言は別の意味に聞こえて危険です。

 マイサンは、マイサンは……まだギリギリ固くなってはいません。

 ――響く、妖精さんの笑い声。


「ヘイヨウ、ヘイヨウ! アイツ喋ったぞヘイヨウ!!」

「余所は余所、家はウチ」

「ママー」

「えー……コホン。それでは、本作戦の手順を説明する」


 静かになったこの場を見回し、リュポフさんが説明を再開しました。

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