『見え透いた罠』三

 移動中に何度かの襲撃を難なく乗り超え……。

 休憩&防衛地点で一夜を乗り越えて――朝になりました。

 ポロロッカさんの部隊とは夜の本体防衛の陣形の時に別れています。

 魔王軍側も朝になる前に、ここでの攻撃を諦めたのでしょう。

 日が出る前に襲撃はピタリと止んでいました。

 となれば、町での防衛に切り替えた可能性も高いかもしれません。


「リア、よく眠れましたか?」

「うん。勇者様は?」

「まぁ……そこそこですね」


 夜の見張りは眠らなくてもいいシルヴィアさんに殆ど任せ、部隊を休ませていました。

 シルヴィアさんには負担を掛けてしまって申し訳ありませんが、本当に助かります。


「シルヴィアさん、疲労度と魔力残量はどのくらいですか?」

「……? 疲れる要素なんてなかったぞ。魔力も満タンだ」

「何度か敵を迎撃しましたよね?」

「ああ、ほんの数秒だ。殆どは休ませてもらっていた」

「ご苦労様です」

「――なぁ」

「はい?」

「もっと酷使してもいいんだぞ? この程度ならαでも休みながらできる」

「ですが――……いえ。本番は今日なので、今日は頑張ってもらいますよ」

「ふんっ、望むところだ」


 シルヴィアさんは流石の持久力です。

 通常の遊撃部隊であれば夜通し見張りをして、今日の攻撃には参加しないのが普通。

 しかし私達の部隊は戦功を稼がねばならない立場。

 本隊に居るであろうリュポフさんを探し出し、上手く使ってもらいましょう。


「伝令! 本体は移動を開始! 遊撃部隊で動ける者、戦功を稼ぎ更なる報酬を得たい者は本体の後に続いて移動を開始せよ! それ以外の者は各自休めとのこと!!」


 夜の間に本隊に戻り、朝になって伝達事項を持ってきてくれたイケメン伝令さん。

 彼等が居てくれると本当に助かります。

 何かに襲われて失わないように、一人か二人護衛を付けるべきなのでしょうか?


「私達の部隊は当然動きます! 全隊――移動開始!!」


 睡眠時間はバッチリ。

 下手をしたらリスレイの宿屋で寝た時以上に、深く眠っていたかもしれません。

 朝食もきちんと食べました。

 体調は……ほぼ万全です。


「っと、伝令さん」

「はい」

「移動時の護衛は必要ですか?」

「要りません。こういうのは単独行動の方がやりやすいので」

「……そうですか。死なないよう、気を付けてくださいね」

「ええ勿論」


 私の部隊は本隊の最後尾に移動し、魔族の町へと向かって移動を開始しました。



 ◆



 ややあって見えてきた魔族の都市は、アークレリックと同じくらいの規模でしょうか。

 魔族領にしては珍しく、かなり広い開けた平地の空間があります。

 土が紫色をしていなければ人間領と変わりありません。

 城壁の上には無数のバリスタと大砲。

 魔術師らしき影と射手の影も無数に見えています。

 目立つ影はオークにゴブリン、それからリザードマンと……純魔族。

 敵飛行戦力がどのくらいなのかは不明ですが、ゼロという事はあり得ません。

 城門の前には堅牢そうなバリケードが設置されています。

 その様子から見るに、防衛戦の準備は万全だと考えていいのでしょう。

 人族軍の部隊は三つに分けられています。

 破城槌も用意されているのですが、あの防衛陣を突破出来るのでしょうか?

 私達の部隊は本隊中央の後方に位置していました。

 荷馬車と馬は後方に設置された陣地に置いてきたので、現在は身軽なものです。

 しかしこの位置では最悪、大した武功を立てる事が出来ない可能性があるでしょう。

 まさか作戦を無視して突撃するワケにもいかないので、あまり良い位置ではありません。

 ……。

 ………。

 …………。

 それにしても、中央部隊の右側面付近にある物が気になります。

 見覚えのある――巨大な魔導機械。

 〝アレ〟を見たのは何時頃だったでしょうか。

 あれは確か……そう。

 地下遺跡でマキロンさん達と共に、魔導バイクに乗って移動していた時です。

 ――〝殲滅型魔導機械〟。

 マキロンさんは確か、そのように呼んでいました。

 あの時とは違い戦車のような下半身にはキャタピラが付いています。

 戦車の上に乗っている、ずんぐりむっくりな人型ロボットの上半身。

 数は減っていますが、複数のミサイルポットに、両腕のバルカン。

 あの時と違うのは、両肩に掛けられているジャンプ台のような鉄の板でしょうか。


「はてさて。お偉いさんがたは、どんな作戦を立ててくれるのかねー」


 時に気負いしている様子もなく、そのように呟いたアロエさん。

 あの巨大な兵器は気にならないのでしょうか……?


「アロエさん、アレは……」

「ん? あのでっかい兵器の事か?」

「はい。何なのか知っているのですか……?」

「知らん。だがまぁ、どっかの国が作った魔導兵器なんだろうよ」

「ぉ、大きいですね」

「ククッ。昔見た事があるんだが、空を飛ぶヤツはもっとデカかったぞ」


 得意そうな顔でそのように言ったアロエさん。

 ……〝空を飛ぶヤツ〟というのは、恐らくは飛行船。

 それの存在はお私も知っています。

 が、人族軍はアレを通常運用できるだけの技術力を持っている?

 ……わかりません。

 ただ遺跡から掘り出した遺物を持ってきたにしても、普通に動かせるとは思えません。

 地下遺跡で見つけた物を動かすのには総じてカードキーを要求されました。

 ――この世界の技術水準で、それに気が付いた者がいる?

 しかもあのレベルの兵器を動かすのには、高階級のカードキーが必要な筈です。

 シルヴィアさんのようにハッキングが可能な精霊がいれば話は別ですが……。


「シルヴィアさん」

「――なんだ?」


 声を掛けると姿を現してくれたシルヴィアさん。

 なんだ? と聞き返してくれましたが、聞きたい事は読まれているような気がします。


「今この場所に、シルヴィアさん以外の精霊は……」

「私以外のセイレイか? 一体……いや、二体はいるな」

「――っ」


 シルヴィアさん以外の精霊の存在。

 それも二体。

 人族軍の側に居る精霊は、シルヴィアさんだけではない。

 普通に考えれば喜ばしい事ではあるのですが……。

 これはもしかして、本格的に活躍の機会が無くなってしまうのではないでしょうか?


「け、系統は……」

「一体はタイプα改良型、固体名称――ホープだ」


 シルヴィアさんが言葉にした、その直後。

 光の翼を展開し、空へと舞い上がった白い影。

 その影は真っ直ぐに私達の居る場所にまでやってきて、ゆっくりと降り立ちました。

 姿格好は未来的なエロ格好。

 白いレオタードのような服に、白い鉄っぽい何も隠せていないスカート。

 胸部装甲も薄そうです。

 まともなのは足と腕の装甲くらいでしょうか?

 とはいえ、左腕は長く伸ばしたロック○スターみたいになっています。

 マキロンさんに戦闘型としてカスタムされたのかもしれません。


「マキロン様が戦力をご所望しやがっています。ご同行しやがれください」


 このメチャクチャな話し方。

 間違いなく本人です。

 どうしてこの場所にいるのかは判りませんが……。

 これは間違いなく――活躍のチャンス。


「必要な人員は?」

「タイプυと精鋭を三人程、寄越しやれください。このハゲ」


 最後の一言は間違いなく余計です。

 どことなくホープさんに嫌われているような気がするのは、気のせいでしょうか?


「おいポンコツ、ここでスクラップにされたいのか?」


 掌をホープさんの方に向けて睨みつけたシルヴィアさん。

 シルヴィアさんの目は本気そのもの。

 ホープさんが何もしなければ、本気でスクラップにしかねない目をしています。


「…………失礼しました。髪が少し薄い、υのマスター様」

「よし」


 シルヴィアさんに脅されて言い直したホープさん。

 今のなにが「よし」なのかが判りません。

 それはまるで……そう。

 数多のバグを残したまま〝これで良し!〟が出されてしまったバグゲーが如く。

 余計な気遣いをされた分、言い直された方がダメージは大きいです。


「三人……」


 精鋭ではありませんが、私で一枠は確定。

 二人目は……。


「一緒に行きたいわっ!」

「ええ、リアは確定です」

「やった!」


 問題なのはもう一人。

 普通に考えればアロエさんを連れて行くのが妥当なのですが。

 そうなった場合、この部隊の指揮は誰が取るのでしょうか?

 リオンさんとアルダさんであれば無難にやり遂げてくれるような気はします。

 が、彼女らは、地下闘技場では二回目と三回目の剣闘士。

 実質五回目剣闘士であるアロエさんとは、実力が違いすぎています。

 四回目以上の賞品剣闘士たちが、きちんと指示を聞いてくれるでしょうか。


「アロエさん、アロエさんが居なくてもこの部隊は大丈夫ですか?」

「ん? 多分大丈夫だぞ。アルダにリオンもいるじゃないか」

「そうなのですが。四回目以上の剣闘士たちは、きちんと指示に従うでしょうか?」

「んー……あー、そういう事か!」

「はい」

「命令に背いたらお前が闘技場で私にした事をするぞ、って言っておけば問題ない」


 ――響く、妖精さんの笑い声。

 声の届く範囲に居た賞品剣闘士たちが、ビクリと体を震わせました。


「ま、まぁそれはその時に考えます。問題が無いのなら行きましょう。時は金なりです」

「腕に掴まりやがってください」


 私は、ホープさんのロック○スターじゃない方の腕にしがみ付きました。

 これは間違いなく空を飛んで移動する流れです。

 振り落とされないよう、全力でしがみ付きました。

 反対側の砲が付いている方の腕には、ナターリアとアロエさんがしがみ付いています。


「――いきやがります」


 そんな言葉の直後――ズドンッ、と飛び上がったホープさん。

 勢いが強すぎて私は手を離してしまい――――ホープさんに掴まれました。


「手間をかけさるな下さい、髪の薄いυのマスター様」


 時は金なり、とも言いますが。

 ――急がば回れ。

 これもいい言葉です。

 今この時ばかりは、こちらの言葉が正しいような気がしました。

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