『オッサンと猟犬群』三
場所は廃教会の談話室。
現在は〝猟犬群〟の面々と侵攻作戦についての話をしている最中です。
「それで、トゥルー君たちは戦争に参加するのですか?」
「んー、正直悩んでるかな」
「……意外ですね」
「だってついこの前、おれたちが居ない時に家が襲われたし……」
「なるほど。そう動いてもらえるのなら、私も安心して戦えます」
廃教会の面々が襲撃に遭って地下奴隷都市に攫われたのは、つい少し前。
しかも、それは依頼で外出している最中の襲撃によるものでした。
離れたくないという気持ちが湧きあがっても仕方が無いでしょう。
それに廃教会の側に〝猟犬群〟の面々が残っていてくれるのなら――。
いざという時は、フォス君とナターリアが守ってくれる筈です。
「お金に余裕は?」
「遺物の売り上げをオッサンがくれたし、当分は大丈夫じゃないかな」
「それはよかった」
遺物の半分とお酒はジェンベルさんに。
残った遺物を売って得たお金は……。
ヨウさんに支払った経費以外を〝猟犬群〟に渡しています。
つまり私が現在持っている所持金は――依頼の報酬だけ。
少ないワケではないのですが、もう少しは持っておきたいところ。
「今回は、完全に単独での行動になりそうですね……」
決して悪い事ばかりではないと思うのですが、少しだけ心細いです。
――やはり、ポロロッカさん達にお願いするべきでしょうか?
「ナターリアちゃん」
「ん? なぁに?」
「ナターリアちゃんさえ良かったらなんだけど、オッサンに同行してあげてほしいな」
――っ!?
「私は勿論いいのだけれど、どうして?」
「単純におれたちじゃ足手まといになるからって理由もあるんだけど……」
俯き加減でそう言ったトゥルー君が、言葉を続けました。
「オッサンを一人にしたくないって理由が一番かな」
「……そっか。トゥルーにもそう見えたのね」
「うん。……だから、どうかな……?」
「私は勿論いいわ。勇者様が認めてくれるのなら酸の中にだって付いて行くものっ!」
輝いている瞳でそのように言ったナターリア。
「酸の中に私が落ちた時は追ってこないで下さいね」
「……はーい……」
確かに妖精さんやシルヴィアさんは居るので、一人ではありません。
が、他の誰かがいてくれるというのは、かなり心強いです。
「でも覚えておいて!」
「リア……」
「火の中でも水の中でも、血に濡れた真っ暗や道の中でも。私は付いて行けるわ」
その言葉には、確かな強い決意を感じ取る事ができました。
たぶん彼女は本当に、どこまでだって付いてきてくれるのでしょう。
たからこそ――足は踏み外せません。
「一緒にきてくれると、心強いです」
「うふふっ。ありがとっ!」
「いいなぁ。おれも本当は行きたいんだけど……」
「トゥルー君や他の〝猟犬群〟の皆さんも、本当に強くなっていますよ」
「……オッサン……」
「だからこの戦争が終わって魔王軍に勝てたら、また一緒に冒険しましょう」
「うんっ! おれたち、これからもっと強くなる! オッサンに負けないくらいに!!」
「その意気です」
もろにフラグっぽい台詞になってしまいましたが、大丈夫でしょうか……?
しかし自然と言葉が出てしまったので、仕方がありません。
ジンクスやフラグというもの。
それは実際には、現実に影響したりしない。
今だけは、そう思いたいところです。
「オッサンが加われば〝オッサンと猟犬群〟ってカッコイイ二つ名がつくかもなぁ!」
「そ、それは……」
「それいいわねっ!」
「うん、カッコイイよねっ!」
「……っ。は、はい」
嬉しそうに言ったトゥルー君とナターリア。
それから他の〝猟犬群〟の面々。
私がパーティーに入った場合、私だけ見た目の年齢が大きく離れてしまいます。
そう呼ばれてしまう可能性がある事は否定できないのがツラいところ。
パーティー名の格好よさが大幅に薄れてしまうような気がしました。
何としてでも、その二つ名は止めなくてはなりません。
「オッサンが『行け!』みたいな事言ってさ、おれらが飛び出すの!」
「うんうん!」
「ボクの体当たりで敵を怯ませて!」
「……みんなでタコ殴り? ヒュー気持ちいい」
「救世者オッサン様の手足になるそのポジション! 素晴らしい!!」
なにやらそんな話で盛り上がり出してしまっています。
――っ。
一瞬だけ、もし本当にそうなったら、という光景が脳裏に浮かびました。
ナターリアに鍛えられた〝猟犬群〟の面々。
全員の運動能力は、決して低くはありません。
統率のある動きで獲物に食らいつくその様は……正に猟犬そのもの。
その背後でボス狼宜しく、全体を鼓舞するようにたっている私の姿。
それはとても魅力的な光景で……。
――ハッ!
「でさでさ、高難易度の依頼もいっぱい達成して!」
「うふふ。とっても楽しそうねっ!」
「ボク等が有名になれたら、エルティーナさんも喜んでくれるかなぁ」
「……きっと喜んでくれる」
「救世者様と栄光の道を歩く! なんと素敵な響きなのでしょう!」
そんな子供らしい盛り上がりを見せている〝猟犬群〟の面々。
眩しくて、現実にしてあげたいところです。
無意識に死亡フラグの高速詠唱をしていた私とは大違いでしょう。
その光景を思い浮かべるのは、お爺ちゃんになってからでも遅くありません。
みんなが、キラキラと宝石のように輝いているように見えました。
私の進む先を明るく照らしいくれているような、そんな感覚。
――ハッ!
またもや死亡フラグの高速詠唱を始めてしまいそうになりました。
いけません。
「でさ――」
「うんうん――」
「だから――」
そんな楽しそうな会話を眺めながら、私は楽しい時を過ごしました。
◆
次の日の昼頃。
トゥルー君、ナターリアと共に〝春牝馬の酒場〟にまでやって来ました。
戦争でナターリアを中隊に入れるのには、パーティーに入る必要があります。
その為、パーティーリーダーのトゥルー君に同行してもらいました。
「このメンツで来たって事ァ、パーティーへの加入が決まったのか」
「実際に戦争で動くのは、私とリアだけですけどね」
私は冒険者証のドックタグをカウンターの上に提示します。
それに続いてトゥルー君、ナターリアも同じように渡していました。
「まぁ悪くねぇ選択だ。一番死人が少なくて済みそうだな」
そう言ってドックタグを受け取ったジェンベルさん。
カウンターの下で何やらゴソゴソと作業を始めました。
「私達の場合は見た目に威厳が無いので、隊長が務まるかは心配ですね」
「そりゃオメェ、最高位精霊を呼び出して、二、三回小突けばそれで一発だ」
「……破裂して死にますが?」
「おぅ……それはやばいな」
頬を引き攣らせながら言葉を返してきたジェンベルさん。
シルヴィアさんの殺人小突きで風穴が空かない事を願うばかりです。
「っし、これでパーティー加入の手続きは完了だな」
「ありがとうございます」
私は返されたドックタグを受け取り、バックパックの中へと突っこみました。
「〝猟犬群〟改め、〝オッサンと猟犬群〟の完成ってか?」
「ブッ!!?」
「うふふふっ!」
「だなっ!」
私は口に含んだ牛乳をジェンベルさんに吹き出してしまいました。
嬉しそうに笑っているナターリアと、トゥルー君。
昨夜に話していた目物語が現実になる日は、そう遠くないのかもしれません。
真顔で睨めつけてくるジェンベルさんの視線が、私の顔に突き刺さりました。
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