番外編 『ロードオブ・ヒロイン・レインボー』

番外編1 『バレンタインデーチッス』

 まだ雪景色に彩られている町の中。

 少女? は御機嫌な雰囲気で町の中を歩いていた。


「バレンタインデーチィッス♪ バレンタインデーチィッス♪ うふふ、勇者様喜んでくれるかしらっ!」


 今日はバレンタインデー。

 お世話になっている人や好きな人にチョコを贈る日だ。

 異世界からの旅人が伝えた文化なのだが、それはこの世界でも一般化していた。

 この少女の名前は――ナターリア。

 彼女もまた、恋する乙女だった。


「普通のチョコじゃダメね、勇者様の心を鷲掴みにできる特別なチョコじゃなきゃ!」


 が、既に先行きが不安である。


「最近すごく色々あったものね。勇者様には元気でいてほしいわ」


 地下奴隷都市グラーゼンから帰ってきてから早数日。

 思案気な表情で材料を探していた彼女の目に、何かが入ってした。

 彼女の目に留まったのは――〝金物専門の道具屋〟。

 ――おいやめろ、そこに食べ物は無いぞ。

 そんな外なる神の声は届かず、ナターリアは店の中に入っていった。


「いらっしゃい! ……っと、随分かわいい子が来たな。おつかいかな?」


 道具屋の店主は、オーリッヒ。

 厳つい頑固親父のような風貌だが、子供には甘い男だ。


「いいえ、好きな人にプレゼントを贈りたいの! 〝釘〟を十本ちょうだいっ!」

「へぇー、何を作るのかは知らないけど失敗しちゃいけないからね。オマケだ」

「まぁ! ……うふふふ! ありがとう、貴方はいい人ねっ!」


 オマケで三本の釘をつけてあげたオーリッヒ。

 満面の笑みで受け取った少女の顔は、正しく天使のようだった。

 片目が眼帯に覆われているのは気になった店主だったが、そこはスルー。

 この世界ではそこまで珍しいというワケでもない。

 こんな少女からプレゼントを貰える男は、きっと幸せ者だろう。

 男の事を考えて恋する乙女の表情を浮かべているナターリア。


「ちなみに何をつくるんだい?」


 店主のオーリッヒは、そんな少女が何を作るのか気になって聞いてみた。


「バレンタインデーのチョコよ!」

「…………ゑ?」


 店主は真顔だった。

 残った真実は、スキップしながら出て行った少女の手は釘があるという事実。

 だが店主は祈った。

 アレが、チョコに使われる材料ではない事を。

 オマケで付けてしまった釘が、殺人の片棒を担がない事を……。

 思えば今日はバレンタインデー。

 恋する乙女が暴走クッキングをする日だった。

 店主は頭を抱え、チョコを食べるであろう者のために祈りを捧げる。


「……マンマミーア」


 ◆


 更なるチョコの材料を探して町の中を練り歩くナターリア。


「んと、〝てつぶん〟はこのくらいでいいよね?」


 鉄分とは、決して鉄から直接摂取するものではない。

 ましてや釘は、チョコの材料にはなり得ない。

 ――誰か少女に教えてあげてほしい。


「あっ、リュリュ!」

「あらぁ~、お買いものぉ?」


 ――頼むリュリュさん。


「勇者様にチョコをあげようと思って、その材料を探しているのっ!」

「あら、じゃあ惚れ薬は用意したかしらぁ?」

「勇者様が奴隷都市から持ち帰って、ゴミ箱に捨ててたのを拾ったわ!」

「バレンタインチョコにそれは必須よねぇ」

「でもお薬で好きになってもらうのは、少しだけ気が引けるわ……」

「大丈夫、ちょびっとだけなら恋のスパイスよぉ」

「少しだけなら恋のスパイス……そっか。うん、そうよね!」


 そう、おっさんは前日、地下奴隷都市から持ち帰った薬を捨てている。

 使い道に困っていたところをエルティーナに見つかって、その流れで捨てたのだ。

 そしてその会話を聞いていたナターリアが、こっそりソレを回収。

 しかも、ナターリアは知らない。

 その惚れ薬の効果は、嫌われている相手でないと効果を発揮しない事を。

 つまり元々ナターリアの事が好きな相手に使っても――効果が無い。

 そして、リュリュさんはダメそうだ。

 ――あとポロロッカさん逃げて。


「んー、それじゃあ精力のつく材料がいいわねぇ」

「いいとこ知ってる?」

「ダヌアの魔道具店がオススメよぉ~」

「ありがとっ! 場所も教えてくれるっ?」

「ええ勿論」


 ……。

 …………。

 ………………。


 リュリュから店の場所を聞いたナターリアは、ダヌアの魔道具店へと移動した。


「いらっしゃい! ……っと、始めて見る子だね」

「リュリュの紹介で来たのっ!」

「なるほど、それで何が欲しいのかな?」

「チョコの材料に精力の出るモノを入れたいのだけれど、いいものなぁい?」

「んー……ちょっとまってね」


 そう言って店の奥に引っ込んでいった黒魔法の少女。

 まだ辛うじて、少しはまともなチョコになる可能性は存在している。

 ここで釘を相殺するような材料を、ダヌアが持って来れば――。


「はい、オークの睾丸と定番でヤモリの干物。それから蝙蝠の目玉ね!」

「まぁ素敵っ!」

「チョコレートを作るなら、フルーツなんかも良いかもね」

「ありがとっ、参考にしてみるわっ!」


 ――悲しいなぁ。

 ダヌアの味覚感覚と料理知識は、すこしおかしいのだ。

 フルーツはまだまともな材料なのだが、もう後戻りはできない。

 ナターリアはその他にも〝オリジナル〟を色々と購入して帰宅した。


 ◆


 廃教会の台所。

 恋する少女は歌を口ずさみながら料理……っぽいものを作っていた。


「バレンタインデーチィッス♪ バレンタインデーチィッス♪」


 溶かしていたチョコレートに釘を投入したところで――台所に新たな影。


「おやっ? 何を作っているのですか?」

「勇者様! 手作りのチョコを作ってるから、もう少し待ってね!」


 入ってきたのは少女の想い人である――おっさん。

 ナターリアの彼を見る目は、瞬く間に恋する乙女へと変化していた。


「手作りチョコ……? 今日のオヤツにですか?」

「今日はバレンタインデーよ。好きな人にチョコをあげる日なのっ!」

「バレン……タインデー? こっちの世界にもそんな文化が……?」

「異世界からの旅人が伝えた文化なのだけれど、もしかして知らない?」

「いえ知っています。……それで、もしかして、そのチョコは私に?」

「勇者様にしかあげないわっ!」


 チョコを貰えると知って思わずといった様子で笑みを浮かべたおっさん。

 それを見たナターリアにも喜んでもらえると知って気合いが入る。


「ん? その棒状のモノはチョコステックですか? それともクッキー?」

「釘よっ!」

「…………ん? んんんんんん?? く、クッギー?」

「釘よっ!

「……………………釘? チョコにですか?? 流石に釘は……」


 おっさんの背筋に走る嫌な予感。

 おっさんの脳裏によぎったのは――〝毒沼料理ポイズンクッキング

 台所に響く、不気味なナニカの笑い声。

 第三者から聞くと背筋が泡立つような不気味な声だが、おっさんに近しい人は慣れた。

 それ以上にナターリアは元から、その声を不気味だとは感じていない。


「釘が食べられないのは知っているわっ! 鉄分を入れるダシを取るだけよ!」

「ダ、ダシにですか……」


 料理が得意なおっさんは知っていた。

 釘で料理のダシを取ってはいけない事を。

 食べられる食べられない以前に錆の味がして、ただマズくなるのだ。

 だがおっさんは、敢えてそれを指摘しない。

 満面の笑みを浮かべて上目遣いで見てくる少女に、そんな事は言えない。

 まぁ何より、もう全てが手遅れなのだ。

 彼は多少の鉄錆の味を覚悟の上で、楽しく料理してもらう為に黙ったのだ。

 メシマズ属性までなら、おっさんの好物に入る。

 ――だが、それが全ての間違いである事を、おっさんはまだ知らない。


「手伝いましょうか?」

「ダメ! あげる相手に手伝ってもらうだなんて、すっごくダメだわっ!」

「ですよね……」

「勇者様はいつもの食卓で待っていてほしいのだけれど、待っててくれりゅ?」


 ナターリア渾身の可愛い仕草。

 撃ち抜かれる、おっさんのハート。

 それに抗うガッツなど、おっさんは持ち合わせていない。


「まってりゅ~」


 言われるがままに台所から出て行くおっさんを尻目に惚れ薬が投入された。

 ただし手が滑って――全部。

 更におっさんの嬉しそうな顔を見たせいで、ナターリアは致命的な部分を忘れる。

 そう――釘を取り出し忘れたのだ。


「バレンタインデーチィッス♪ バレンタインデーチィッス♪」


 そんな歌が歌われながら投入されたのは――蝙蝠の目玉。

 ナターリアはチョコをかき混ぜながら、想像する。

 チョコを受け取ったおっさんがどう行動するのかを……。



 ……少女、美化妄想中……。


 ――なんて想いの込もったチョコなんだ。嬉しいよリア。

 ――うふふ、大好きよ勇者様。

 ――私も好きですよ。キスしてもいいですか?

 ――いいわっ!


 貪るような、ディーブキッス。からの燃えるようなティンダーキッス。


 ――はぁ、はぁ……勇者さまぁ、もっとぉ! もっとちょーらいっ!

 ――ふふ、可愛い子猫ちゃんだ。(妄想定番の迷言)

 ――勇者様、しゅきぃ……。

 ――ほら、優しく脱がせてあげますよ。下のお口もかき回して差し上げます。

 ――たまってる、ってやつなのかな? しょうがないにゃあ……。


 ……。

 …………。

 ………………。


【自主規制】



 ◇


「うふっ、うふふふふふふふふふふふふっ!」


 妄想トリップでアブナイ表情をしているナターリア。

 そこでチョコだった何かに投入されたのは、オークの睾丸。

 チョコの色は既にドブ色だ。

 工業用水が垂れ流された水のような虹色の光沢が稀に見えるチョコモドキ。

 既に危険な状態なのは誰の目からみても明らかだ。


「あらっ、木ベラが溶けちゃったわ。うふふ、すごいチョコができそう!」


 普段なら、そのチョコが異常な物体である事に気が付けただろう。

 が、恋と妄想で盲者と化していたナターリアには――もう見えていない。

 目がハートである。

 木ベラを溶かすこと数本。



 ――すごいチョコが完成した――。



◇◆◇



 私はナターリアのチョコが完成するのを、食卓で大人しく待っていました。

 鉄錆の味は覚悟の上です。

 多少ゲテモノ料理でも、きっと美味しいと言って平らげてみせましょう。


「楽しみですね……」


 と呟いたその時、食卓の扉が開きました。


「勇者様! すごいチョコが完成したわ!」

「おお! ……ん……?」


 何故だか、チョコから途轍もなくかけ離れた異臭がします。

 私は豚の去勢を経験したことがありました。

 どれだけ手を綺麗にしても一週間以上取れなかった、アノ異臭。

 それを煮詰めて凝縮して開花させたかのような臭いが漂ってきました。

 僅かに香ってきたチョコの香りと、鉄錆の強い香りと、刺激臭。

 塩酸の上で深呼吸をしているのではないかという程の違和感です。

 テーブルの上に置かれたチョコは――ドブ虹色でした。

 このチョコ、なんと流体です。

 流石の私も、これ程とは予想外でした。

 メシマズ属性どころではありません。


「す、すごいチョコですね……!」

「うふふっ、勇者様のために頑張ったわっ!」


 これは流石に食べられません。

 口にした瞬間、女神様のお声を聞く事になるのは確実でしょう。


「これは食べら――」


 拒絶の言葉を口にしようと、ナターリアの顔を見てみたその瞬間。

 頬を赤らめ、満面の笑みを浮かべている彼女の顔が目に飛び込んできました。

 ――ッッ。


「……れる喜びで天にも昇ってしまいそうな気分です!」

「そう? すっっごく、嬉しいわっ!」


 こんな恋する乙女のような表情でチョコを渡された事が、何回あったでしょうか。

 ――いえ、そんな事は一度もありませんでした。

 真正面から、こんなにも好意を向けてきてくれている女の子からのチョコ。

 しかもこれは、バレンタインのチョコです。

 それを断る?

 それを食べない?

 私の側に問題があるので無理ですが――。

 もし無かったら結婚したいとさえ思い始めている、ナターリアからのチョコ。

 そんなの――ドロ団子だって食べるに決まってるじゃないですか。

 私は木の匙を手に取って一掬いして、じっと見てみました。

 変わらない見た目。漂う危険臭。

 ――響く、妖精さんの笑い声。


「あっ、はやく口に運ばないと……」

「……?」


 べちょり。

 木の匙が溶けて物体Xの容量が増えました。


「――ッッ!!?」

「ゆうしゃさまぁ……」


 胸の前で両手をグーにして不安げな表情で見てくる、ナターリア。

 その顔はズルです。

 彼女は、そっと代えの木の匙を差し出してきました。

 もうこれは……やけくそです。


「いただきます!!」


 勢いよく物体Xを口に運びました。

 噛まずに――飲み込む。


「――ッ! ――ッッ!!?」


 舌から全身に広がる異世界の味。

 ここが異世界だと理解させられる異次元の舌触り。

 喉の奥が焼かれているかのような凄まじい違和感。

 表現できないような危険な味が、脳に危険信号を送り続けています。

 腐ったドブ水? 血抜きしていない腐った死肉? 塩酸? 青酸カリ?

 ブタの睾丸? 煮詰めた親父の腋汗? いいえ、それ以上です。

 言葉にできいような……圧倒的それ以上。


 ――メーデー、メーデーメーデー! こちらおっさん七二!

 ――オートブレーキ、故障。ボイラー、故障。コンピュータ一番から五番も、故障。

 ――エンジン、動いていません!!

 ――緊急着陸を要請します!!

 ――こちらダストボックス国際空港、三番滑走路に緊急着陸してください。

 ――無理だ! 進路上にナターリア豪雨が発生する!!

 ――もうダメだ! 海への水上着陸を試みよう!!


 ……いったい、何がいけなかったのでしょうか。


 ――コックピット内に煙が充満! 客席で火災!!

 ――エラー数六十二!

 ――クソッ、何が生きている!!?

 ――制御不能! 墜落する!!

 ――もう助からないゾ。

 ――『『『うわぁああああああああああああああああ』』』



「……ハッ」

「勇者様?」

「り、リア」

「もしかして……美味しくなかった……?」

「お、おいしかったです」

「ほんとっ!? うれしいっ!!」


 反射的にそう答えた私を、誰か褒めてください。

 再び皿を見てみると、その物体Xは全く減っていませんでした。

 これを今から完食する……?

 不可能なのでは……?

 物語に登場する勇者や英雄や主人公は、稀に凄まじい試練に遭遇します。

 その中の一つにあるのが、ヒロインからの〝毒沼料理ポイズンクッキング〟。

 私では彼らのように完食するのは、不可能でしょう。

 だって見てくださいよ、この震える手。

 止まらずに溢れ出る冷や汗。

 足だってこんなに……ほらっ、ずっと震えています。

 コレに遭遇して食べきった勇者、英雄、主人公の皆さん。

 許して下さい。

 私では、これを食べきることはできません。


「お、おかわりは、あるのですか?」

「ごめんなさい、それだけなの……」


 しゅんとした表情で落ち込むナターリア。

 大丈夫。定番の――御代わりならいっぱいあるから! はありません。

 ですがそれでも……コレは……。

 でも……だって……ねぇ……?


「――ッ」


 瞬間的に脳裏によぎった、ナターリアの悲しむ顔。

 ――マズいから食べられない?

 ――食べたら死ぬかもしれないから食べられない?

 その言葉を告げたら、ナターリアは間違いなく悲しむ事でしょう。

 嫌です。

 それだけは、ナターリアの悲しむ表情だけは――見たくありません。

 だからせめて、もうひと口。

 もう一口だけでも……なんとか……。

 全世界の勇者、英雄、主人公の皆さん。

 この苦難を乗り越えられるだけ力を、私に分け与えてください。


「わ、わぁ……残念ですねぇ……」


 口に放り込んで、飲み込む。


「――ッッ!!?」


 ……。

 …………。

 ………………。


 キラキラと輝くお花畑。

 そこには一本の川が流れていて、その向こうには白い服を着た美男美女。


 ――オッサン、こっちは楽しいよー。

 ……タクミ。

 ――全部許してやるー。だからこっちに、来いよー。

 ……エッダさん。

 ――オッサンー。ほらぁーこっちにおいでー!

 ――ユリおねぇちゃん、もっと笑顔ー!


 ユリさん、シズハさん。


 ――オッサン、こっちで一緒に……冒険しないか?

 ……ジッグさん。


 ああ……みんな無事だったのですね。

 今すぐ私も行きますよ。

 また一緒に……冒険を、しましょう……。


 ――フハハハハハ! 吾輩との闘争、今一度楽しもうではないか!!

 ……アントビィ……?

 ――イヤンイヤン、ウフンウフン。うっふんばっかん、すっぽんぽーん。

 ……ポンププパンツ。


 帰りましょう。

 元の世界に。



 ……。

 …………。

 ………………。


「――ハッ!」

「勇者様?」


 どのくらい意識が飛んでいたのでしょうか。

 ナターリアの反応を見るに、そう長くはない筈です。

 三口目……いけるのでしょうか?

 三口目とサンクチュアリって、本当に似てますよね。

 いつだって私は、自分自身と戦ってきたじゃあないですか。

 私が最もスポーツマンだった……中学生陸上の長距離選手時代。

 その時に思っていた事は――。

 足は動かせば前に進む。

 苦しくても動くのなら、ちゃんと進める。

 だから動かなくなるまでは全力で走れる……筈なのです。

 お金が無かった私がボロボロの靴で走っていた、そんなある日。

 顧問の先生が新しいランニングシューズをプレゼントしてくれました。

 部内で一番早かった、その時代の私。

 その時の先生は照れたような表情で――「お前の活躍が俺の評価に繋がるからな」。

 と言っていたのを覚えています。

 恩義を感じさせないために、そう言って誤魔化した顧問の先生。

 私が尊敬している三人の人物の内の一人です。

 もしかしたら、本心も少しくらいは混じっていたのかもしれません。

 が、私は中学生時代の全体を通して、その人物が善人であると知っていました。

 そんな一部の尊敬できる人達が居たから、私は――歪まなかったのです。


「――ハッ!」

「勇者様?」


 現実逃避は止めましょう。

 ですが……その通り。

 手が動いて物体Xを飲み込めるのなら、まだ飲み込める筈なのです。

 三口目――暗転。


『ウルトラ☆気絶しましたー』



 ◇◆◇



 唐突にパタリと倒れたおっさん。


「ゆ、勇者様!?」


 慌ててナターリアが肩を揺らすも、おっさんは起きない。

 まさか、と思ってナターリアは呼吸を確認する。

 が、息はあった。


「眠っちゃった? 最初から少し変だったけれど勇者様、疲れてたのね」


 ナターリアは意識の無いおっさん毛布を掛け――物体Xを見た。


「勇者様は美味しいって言ってくれていたのだけど、ほんとかな……」


 ナターリアは一口だけと、物体Xをスプーンで掬った。

 そして――ぱくり。


「――ッッ!?!? っえッ!!? ――ぁっ…………」


 ――パタリ。

 掠れゆく意識の中で、ナターリアは再度強く想った。

 ――勇者様……大……好き……。



 ◆



 それからしばらくの時間が経過し、食卓の扉が開かれた。


「……おい、リュリュがオッサンの分も作ったが、食べ――ッッ!!?」


 扉を開けたのはポロロッカ。

 リュリュに渡された普通のチョコを食べ終え、おっさんにも渡しにやって来たのだ。

 だが、そんなポロロッカに襲い掛かる殺人的な刺激臭。

 人狼の魔族であるポロロッカは、ヒトの数百倍は嗅覚が鋭い。

 だからこそ――即倒した。


「……なん……だ……こりゃ…………」


 ――パタリ。



 ◆



 更に時間が経過し――エルティーナが入ってきた。


「――ッッ!?」


 目にしたのは凄惨な光景だった。

 そして不浄に満ちている、この空間。


「【不浄なる空気よ消え去れ――〈ピュリフィケイション!〉】」


 僅かに綺麗になった空気。


「っ……私の力だけでは……」


 たじろいで数歩後ずさるエルティーナ。

 決してエルティーナの実力が低いというワケではない。

 彼女の実力は一般的な神官レベルか、その少し上。

 おっさんの周囲の者が英雄クラスであるだけの事だった。

 それと同時に、この〝毒沼料理ポイズンクッキング〟も――英雄クラス。


「コレットー! フォスー! 加勢してください!!」


 ややあって駆け付けた二人。

 特にフォスの力によって、この部屋は浄化される。

 もちろん物体Xは不浄判定に含まれていて、この世から消え去った。

 ナターリアとおっさんのバレンタインデーは……こうして過ぎ去っていった。










――――特別あとがき――――(消すかも)





妖精さん:「……これが今日投稿したくて、連続投稿したらしいね」

おっさん:「それで、書き貯めは?」

妖精さん:「……まったく無いって」

おっさん:「全然ダメじゃないですか!!」

シルヴィア:「おい。しかも全体通しての大改稿作業をしてるらしいぞ」

おっさん:「ぬ、沼!」

妖精さん:「……4章まで終わって、酷い駄文だらけだったらしいね」

シルヴィア:「ふんっ。全体の改稿作業、これで何度目だ?」

おっさん:「五度目か六度目では?」

妖精さん:「……今まではスマホで改稿してたらしくて、今回初めてWord使ってるって」

おっさん:「奇妙な同じ言葉連続や、誤字脱字、蛇足文字が、恐ろしい数見つかってるそうですね」

妖精さん:「……スマホ改稿の弊害、もろじゃん……」

おっさん:「というワケで次回投稿、一週間空くそうですね」

妖精さん:「……駄文を乗り越えてきてくれたヒトたち。やるね、パチパチ」

おっさん:「投稿予定としては一週間おき投稿で番外編を二回投稿して、そのあとに本編(タブン終章)を投稿する予定だそうです」

シルヴィア:「もう少し早くならないのか?」

妖精さん:「……作者の仕事、基本的にお休みないからね……」

おっさん:「あと一週間で改稿作業を終え、もう一週間で本編執筆!」

妖精さん:「……あれ、いけるの?(現状の改稿ペースを見ながら)」

おっさん:「場合によっては、延期する可能性も……」

シルヴィア:「ダメじゃないか」

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