『紫紺の瞳』一

 次の日の昼頃。今日もやってきました闘技場。


「よぉ、昨日の試合じゃ一気に評判を落としたみてぇだな」

「私の目的はただ一人ですからね」

「まっ、別に構わんよ」


 そう言って必要事項を受付用紙に記入していった受付さん。


「っし、登録完了だ」

「では左の部屋ですね」

「ん? リクエストはもういいのか?」

「……魔改造されるので、もういいです」

「そっか。……おい」

「まだ何か?」

「俺はお前のこと、そんなに嫌いじゃないぜ」

「……有難うございます」


 剣闘士の待機場所でじっと待機している事しばらく。

 不思議と心は穏やかで、これから戦いに赴くというのに強い感情を感じません。


『続きましては……なんと――! 賞品剣闘士アロエ! これに挑戦者するは――』


 名前を呼ばれたので闘技場へと進みます。

 賞品剣闘士を読み上げる実況の声が何時もと違いました。

 そういった情報から考えるに、今回の相手は恐らく強敵なのでしょう。


『破竹の勢いで進むはこの男。こいつは悪魔か偽善者か!!? 地の底より這いだす嘲笑を纏うは闇の中より生み出された明星か!! 今回もこの男が勝ってしまうのか!? オッサァァァアアアアアン――!!』


 飛び交うブーイング。

 まぁ、それはそうでしょう。

 なんせ、この地下奴隷都市の闘技場を見に来ている大半の客は挑戦者が死ぬか。

 相手剣闘士が凌辱される姿を見に来ているのです。

 投げ込まれたゴミが私に当たって地面に落ちました。

 賞品剣闘士の少女も、これには苦笑いを浮かべています

 アロエという選手の特徴は、そのアメジストのような紫紺の瞳。

 背中まであるストレートヘアーも薄紫色です。

 その額の少し上からは……黒紫色の角が生えていました。


『それでは――試合開始ィィィイイイ!!』


 試合開始のゴングが鳴り響くと同時に、アロエさんが話しかけてきました。


「私は本来、五戦目の剣闘士なんだ。だが、お前が強すぎるせいで出番が回ってきた」

「そんなのアリなのですか? 妖精さん、力を貸して下さい」


 妖精さんの笑い声が響き、地面からは通常のおっさん花が這い出しました。

 セカンドが出てきそうな気配もありました。

 が、意識せずとも何故か通常のおっさん花。

 妖精さんがセーブしてくれたのでしょうか。


「実際に起こっているんだ、アリなんだろう」

「アロエさんの角は、私の知り合いよりも大きいですね」

「醜いだろ?」

「いえ、艶があって綺麗です」

「……! ……くくっ! そんな風に言われたのは生まれて初めてだ」

「そうなのですか?」

「見た目はあまり好みじゃないが、仲間としてなら悪くない」


 一瞬だけ目を見開いて楽しげに笑い出したアロエさん。

 付け足された言葉が無ければ、惚れていたかもしれません。


「降参、しては頂けませんか?」

「嫌だが?」

「私は負けた相手に暴行を働いたりなんてしませんよ」


 アルダさんに対しては少しだけ危なかったのですが、ギリギリ出していません。


「お前は知らないみたいだから教えておいてやる。私たち賞品剣闘士はな、実は負けられる回数に上限が存在しているんだ。そして、その回数が一定数を上回っても引き取られていない場合は……公衆トイレとして、この町に設置される事になっている」


 ――負けられる回数に制限? 公衆トイレ? 設置される??


「……馬鹿な。そんな非人道的な行為が許されるわけが……」

「それが許されているのが、ココさ」

「…………」

「上のランクであるほどに敗北で身請けされなかった時のデメリットがデカイ」

「性的な暴行、とかですか……?」

「いや。私の場合は……まぁ簡単な拷問だ」

「拷問……」


 フラッシュバックする出会ってすぐの頃の、ナターリアの体。

 今まで勝ってきた相手剣闘士さんは、もしかして……。


「体に傷が付かない方法ではあるが、水攻めを始めとした多岐に渡った手法が用いられる」

「――ッ」

「……その顔、本当に知らなかったのか」

「はい。……ですが、私は負けませんよ。負けられない理由がありますから」

「良い目だ。私を下して私を手に入れる者が、お前と同じ目をしている事を祈ろう」

「きっと居ますよ。もっと良い目をしている男性が」

「ククッ。まぁ、魔力吸収体質の忌み子を欲しがるヤツなんて居ないだろうがな」

「そんな事は――」

「いいやあるね。なんせ余程の早漏じゃなきゃ、行為そのものが成立しないんだ」


 私の言葉を遮るように発されたその言葉。

 アロエさんの瞳の中には、憂いのような感情が見えた気がしました。


「せいぜいゴミのようにサンドバックにされたあと、捨てられるのがオチさ」


 自嘲気味な笑みを浮かべたアロエさん。

 アロエさんには、あと何回のチャンスが残っているのでしょうか。

 この試合がアロエさんに、トドメを刺す事にならないと願うばかりです。


「私個人としては貴方が欲しいです」

「なに?」

「その美しい瞳の中に私が映っているだけで、私は満たされた気持ちになるでしょう」

「ふっ、嘘でも嬉しいな。早漏なら体を許してやってもいいくらいには気に入った」

「御冗談を」

「もちろん冗談だ」

「…………」


 この世界の人たちは、こういう冗談が好きな人が多すぎなのではないでしょうか。

 期待させておいて、最後に落とす。

 焦らしプレイの上級者しかいません。


「さて、そろそろ行くぞ――【アクセル!】」


 残像を残すように高速移動して、ジグザグに移動するアロエさん。


『出たぁあああ! アロエ選手得意の、高速移動!! オッサンは付いて行けるのかァ!?』


 私はおっさん花を操り、その一帯を薙ぎ払うように触手を放ちます。

 下手な回避で避けられないように触手を並べの面攻撃。

 が、彼女の機動力は想像を遥かに超えていて、ジャンプで回避されました。

 攻撃を回避した直後、一直線に私へと向かってきます。

 慌てておっさん花を割り込ませましたが、当然のように避けられました。

 目と鼻の先にまで迫って来たアロエさん。

 ――ワンナウト、でしょうか。

 死を覚悟して身構えましたが……アロエさんの剣は首筋に添えられ、停止。


「……斬らないのですか?」

「お前の負けだ」

「それを振り抜いて私を殺さなければ、貴方の勝ちではありません」

「死にたくたければリタイアしろ。お前の知り合いである忌み子を悲しませたくは無い」

「お優しいのですね」


 私はアロエさんに向かって小さく笑い掛け、頭を軽く撫でます。

 動いた瞬間斬られるかと思っていたのですが、アロエさんは素直に撫でられました。


「……言っておくが、この状況から私を身請けする事はできないぞ。お前の負けだ」

「それは残念」

「私は、私よりも弱い者に貰われるつもりはない」

「勝ったつもりですか?」

「もう、お前に勝ちは無い」

「私を殺さなければ、貴方の勝ちではないと言いましたよね?」

「――ッ。言っておくが私は、お前が思っているほど優しい女じゃない!」


 怒っているのか、表情を険しくして怒鳴りつけてくるアロエさん。

 本当に……優しい女性です。


「見ろ! この化け物みたいな肌と角を!!」


 色の薄い白い肌と、黒紫色の吸い込まれそうな美しいツノ。


「肌も角も、どちらも美しいですよ。仲間のシルヴィアさんに迫る程の綺麗さです」


 その言葉にピクリ、と表情を動かしたアロエさん。

 嘘で言ったと思われているかもしれませんが、今の言葉はただの本心。

 思った事を言うだけなら、私にでも相手を褒められます。

 特にこの世界に来てからは、素直に言葉にできるようになりました。

 ――まぁ、それで負けるつもりは無いのですが。


「あと知らないようなので言っておきますが、私を物理で殺す事など――不可能です!」


 私はおっさん花の触手を伸ばし、アロエさんへと襲い掛からせます。


「チィッ! 【ストライク!】」


 ドチュッ、と私の頭部を貫通したグラディウス。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると、少し離れた位置に復帰しました。


「手応えはあったんだけどな?」

「トリックですよ」

「何で全裸なんだ?」

「見せつけたいと思いまして」

「くくっ。自慢できるようなモノか?」


 私のメンタルに百のダメージ。

 ――響く、妖精さんの笑い声。

 それと同時に私のマイサンが謎の黒い光に隠されました。


「お、男は大きさじゃなくて、包容力で決まるものなのですよ!」

「そうか。それは良い事を聞いた」


 アロエさんは手を前へとかざし、それを私の方へと向けてきました。

 私は飛び込み回避――からのベシャリと着地。


「【マジックランス!!】」


 光の槍が正確に私の頭部へと命中。


『死にましたー』


 暗闇から復帰すると、少し離れた地点に。

 実況が何かを言っていますが、途中からなのでよく分かりません。

 一つ判る事があるとすれば、私が苦戦していると言われているという事だけ。


「おいっ、魔法もダメなのか!?」

「私は無敵ですからね」

「ぐぅぅっ、面倒な相手だ――っと!」


 こっそり触手を伸ばしていたのですが、華麗に回避されてしまいました。

 アロエさんの動きは素早くて動く度に幻覚のような残像が見えています。


「まぁ事前に想像していた通り、本気を出さないと倒せないらしい。【顕化!!】」


 アロエさんがそう口にするなり、元々白かった肌が更に白くなりました。

 体は大人のものになって角が肥大化していっています。

 口元には牙のようなものが僅かに見えていて、首を噛まれたら致命傷になるでしょう。

 人というよりかは……魔族と呼んだ方が正しいような見た目でしょうか。

 体が大きくなる関係で皮鎧を脱ぎ捨てたアロエさん。

 現在の彼女が身にまとっているのは、白生地の下着のような衣類のみです。

 胸が……意外と大きかったのには驚きました。

 私は、どっちの形体も好き好きが。

 観客席が沸き、実況も興奮しています。


「お前の知人よりも角がでかいのは、この化け物の形体を使うせいだ――【短駆け】」


 瞬く間に私の背後へと移動したアロエさん。

 そう来ると予想していた私もただではやられません。


「とうっ!」


 前方への飛び込み前転を放ちます。

 からの、背後への、おっさん花による触手突き刺し攻撃。


「【ソードダンス!】」


 見事に全ての触手を弾いて見せた、アロエさんのスキル。

 私はいつものように地面にベシャリと着地します。


「【韋駄天!】【ペネトレイト!!】」


 私の頭側へと高速移動したアロエさんが光を纏う剣を振りおろしました。

 その際に近くで見れたアロエさんの太腿が、白くてお美しかったです。


『死にましたー』


 再度離れた位置に湧いた私は、おっさん花の触手で攻撃を仕掛けます。

 残像を残して移動するアロエさんに軽々と回避されていくおっさん花の触手。

 これは――単純に強敵です。

 シルヴィアさん無しのおっさん花単体では、かなり手こずるでしょう。


「素早いですね……」

「どこを見ている?」


 アロエさんの残像を見ていた私の背後を取ったアロエさん。

 彼女は、そのまま背後から剣を突き立ててきました。

 的確に心臓を破壊してくるアロエさん。

 だんだん遠慮が無くなってきました。


『死にましたー』


 離れた位置に復帰した私は、しかめっ面のアロエさんを見ます。


「アロエさんの残像が穿いていた下着を見ていました」

「……変態め」


 ――有難うございます!

 と反射的に言いそうになりましたが、なんとか堪えました。


「それともた、だの強がりか? 目の前に居るオリジナルを目で追えない事に対する」

「どちらでも構いませんよ」


 こういった悪意の無い戦闘は、この世界に来てから始めてのことでした。

 意外に気分が高揚するもので、少しだけ楽しいです。

 これを自身で鍛え上げた剣技などで戦えたなら、どれだけ楽しい事か。

 ――まぁ、無いものねだりをしても仕方ありませんが。


「ふぅ……あまり使いたくは無かったが、とっておきを見せてやる」


 そう言って手に持っていた剣を地面に捨てたアロエさん。

 次は一体、何を見せてくれるのでしょうか。

 常に負けられない戦いをしているというのに、心が熱くなります。


「【マジックウェポン・複製・タイプ刀剣】」


 アロエさんの両手には、それぞれ五本を超えるカタナ。

 そして彼女は、それを全て――上に放り投げました。

 突撃を仕掛けてくると思っていた私は、それを思わず目で追ってしまいます。

 適当に空中へとばら撒かれた十本を超えるカタナは、一つも私に当たりません。


「【マジックウェポン・複製・タイプ刀剣】――フッ!!」


 再度そんな声が聞こえてきたかと思えば、私の体を刺し貫いていたカタナ。


「油断しすぎだ、バカめ」


 アロエさんの方を見てみると、カタナを投げた態勢で停止していました。


『死にましたー』


 離れた位置に復帰した私は、近くへとおっさん花を呼び寄せました。

 闘技場内に落ちたり刺さったりしている刀剣の数が増えています。

 アロエさんの手にも一つのカタナが握られていました。

 彼女は、それを左後方に流すように構えています。


「なるほど、アロエさんのメイン武器はカタナでしたか」

「ああ、コレの切れ味はすごいぞ」

「知っていますよ」


 ――しかも体で。


「サイコロステーキにされても生きていられるか試してやる――【アクセル!】」


 地面に落ちているカタナの間を縫うように接近してくるアロエさん。

 おっさん花の触手で薙ぎ払おうとしましたが――地面に刺さっているカタナが邪魔。

 結局アロエさんの接近許してしまった私は、うしろに大きく飛び退きます。

 が――。


「【五月雨切り】」


 飛び退き空しく、私はサイコロ状にバラバラにされて――。


『死にましたー』


 が、離れた位置で何事もなかったように復帰しました。

 アロエさんは何時の日かのシルヴィアさんのような目を向けてきています。

 実況も私の事を化け物だとか、好き勝手に言っているのが聞こえてきました。


「どうやらお前の魔力が残っている内には、私は勝てないらしいな?」

「魔力は関係ありません」

「嘘を言うな、この全裸杖男め」


 私の体内には魔力というものが存在していません。

 事実を言っているのですが、アロエさんはその言葉を信じてはいないご様子。

 地味に嬉しい、アロエさんの罵倒を頂いてしまいました。

 私はMでは無い筈なのですが、相手が美少女であれば嬉しくなって当然でしょう。


「アロエさん、そろそろ降参しませんか?」

「ふっ。冗談!」

「……ですよね」

「だが、私でなければ、降参するしかなかっただろうな」


 アロエさんの瞳には、まだ闘志が残っていました。

 それは、まるで勝ちへの手段を発見したかのような――そんな目です。

 ですが私は何故だか負ける気がしませんでした。

 なんとなく既視感を覚えるような……そんな空気。


「私は忌み子。何人たりとも、この魔力吸収体質は防げない!! 【韋駄天!】」


 高速移動して視界内から完全に消えたアロエさん。


「何処に!!?」

「こっちだ」


 ――後ろ!?

 咄嗟に振り向こうとした私でしたが、背後から羽交い絞めにされて動けません。

 私は裸体であり、アロエさんもかなりの薄着。

 えっちコンロ――点火! エッチチチチチチチチッ!

 そのため、アロエさんの胸が私の背中に当たって形を変えています。

 アロエさんを何を考えているのか、太腿部分も私の足に押し当ててきました。

 それは可能な限り体を密着させようとしているかのような――。


「…………」

「…………」

「ん? おかしいな……」


 疑問の声を上げるアロエさん。

 私の下腹部を覆う黒い光が、少しだけ広がりました。

 マイサンも疑問の産声を上げているのでしょう。

 とは言え私には、この拘束を振り払う手段などありはしません。

 なんせ……そう。

 振り払いたいという気持ちすら、全く湧きあがってこないのです。


「魔力を吸収できない? 魔力を空にしてやれば倒せると思っていたのだが……」


 シルヴィアさんが敵対中の最後に見せた、背後からの抱き付きに似ています。

 この世界において魔力とは、それほど致命的になり得るものなのでしょうか。


「アロエさんの同族である知人も、私から魔力を吸い出せませんでしたよ」

「まじかー……」

「まじです」

「…………」

「…………」


 沈黙する事三分。この妙な空気に観客からのヤジも止んでいます。


「あの、一体何時まで拘束しているつもりなのですか?」

「いッ!!? あ、ああ、お前がリタイアするまでだな! く、くそっ! 魔力が吸えないぞ!」


 アロエさんの体温がじんわり広がってきていて、マイサンを刺激してきます。

 今の彼女におっさん花の触手を叩き込めば、決着になるのは確実でしょう。

 ――なのに、なぜかそれをする気が全く起きないのです。

 アロエさんはある意味、シルヴィアさんの死なないバージョンであると言えるでしょう。

 私が嫌がっていない事を知ってか否か、その温かい手が前へとのびてきました。

 拘束というよりかは、背後からの立ちバックハグ。

 ぎゅうぎゅうと押し付けられている胸は柔らかく、足に当たる太腿は滑らかです。

 ま、まけたー! と衝動的に言ってしまい、されるがままになってしまいたいところ。

 これは――激戦の予感がします。


「はぁ、はぁ……」


 息が荒くなっているのは私ではありません。

 背後からハグをして体を弄ってきているアロエさんの吐息です。


「く、くそぉ、魔力が吸えないぞぉ」


 えろえろえろえろえろえろえろえろえろアロエエロ。

 私の下腹部を覆う黒い光が一段階、光度を増しました。


「くっ! や、やりますねアロエさん! 今までで一番の強敵です……!」

「そ、そうだろぅ! こうして……こうっ!」


 アロエロエロさん、渾身のまさぐり攻撃。


「くっ……かぁっッ……!!」

「はぁ、はぁ……本当に、私に対して嫌悪感を抱いていないのか?」

「ご覧の通りですよ……!」

「魔力吸収体質を完全に防がれたのは、初めてだ……!」


 その力を強くして更に肌を密着させてきたアロエさん。


「なるほど、私の同族と一緒に居られるワケだ……!!」


 このまま押し切られるのはまずいです。抵抗しなくては……!

 私は強引に体の向きを変えて、アロエさんに抱き付き返し――――!?!?!?

 不意に、観客的の一角に座っている人物と目が合いました。

 圧倒的な殺意と黒い影を纏って私をガン見していたのは――ナターリア。

 周囲の観客がナターリアから距離を取っているのを見えます。

 その殺意は凄まじい領域に到達している事でしょう。

 傍にいるユリさんも距離を取っていて、もう危険な状態であるのは必至。

 現に、私の全身からは嫌な汗が出てきました。

 ――響く、妖精さんの笑い声。


「おっ、おいっ! ここまでキて、今更止めるだなんて言わないだろう!?」


 なにやら怒り出してしまったアロエロエロさん。


「特別に負けを認めてやる! 好きにしろ!!」


 アロエさんの体から力が抜けて、少女の姿へと戻りました。

 一度大きくなった事によって少し伸びていた衣類が緩い具合になっています。

 私は……おっさんはおっさんはおっさんはおっさんは――!!

 ――ヤケクソです!!


「うおおおおおおおおおおおお――――!!」

「へっ? ちょっ――」


 おっさん花の触手でアロエさんを拘束します。

 そのままグルグル巻きにしてしまい、触手による繭を形成しました。


「い、いやぁ、危ないところでした。魅了の魔法に負けてしまうところでしたよ」

「私はそんな――モゴォッ!!?」


 触手に巻かれてなお、何事かを言おうとしたアロエさん。

 その口の中へと触手を突っ込んで黙らせます。


「ふ、ふぅ。私はいつも思うのですよ」


 私は脳細胞をフル活動させて言葉を絞り出します。


「正義を完全に拘束した悪役は、なぜ正義の味方を投げて自由にしてしまうのかと!」


 私はおっさん花を操りって触手の繭を地面に何度も叩き付けました。

 当然、中には衝撃が伝わらないように触手でクッションにしています。

 それでも多少はシェイクされている筈なので、少し続ければ動けなくはなるでしょう。


 ――アロエさんを地面に叩き付け続ける事、五分――。


 ナターリアの厳しい視線が緩和されてきた事を感じ取りました。

 そんなところで、アロエさんエッグを開封します。

 傍から見ている分では容赦なく攻撃しているように見えたのでしょう。

 アロウさんの拘束を解いた頃には、観客からの悪感情も殆ど消えていました。

 甘くみられない最低限のラインを確保したと言えるでしょう。

 アロエさんエッグから出て来たアロエさんはと言うと……酷い状態でした。


「……ぁぇー……」


 通報されてしまいかねない程のジョビジョバ具合。

 薄目を開けて意識を失っている様などは、正に犯罪そのもの。

 罪悪感が凄まじいです。

 私はちょっとした歓声の中、闘技場を後にしました。

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