『地下闘技場』三
次の日、とうとうやってきてしまいました闘技場。
現在の私は身格好を整え、珍妙なアクセサリーを首に掛けています。
ユリさん曰く。闘技場で戦う場合は機能性にプラスして見栄えも大事だとの事。
そのアドバイスを反映した結果、このようになってしまいました。
――何処からどう見ても完全な魔術師です。
現在は受付にてお金を払っている最中なのですが……。
中では現在、ササナキという剣闘士が試合をしている最中。
私以外はその偵察をしに観戦をしています。
「えーと、登録名は……オッサン? もう少しカッコイイ偽名はなかったのか?」
「では仕方が無いですね、『カッコイイオッサン』にして下さい」
「……『オッサン』で登録しておこう」
呆れたような顔でそう言った受付さん。
紙に何かを書き終えると、再び口を開きました。
「ここのシステム知ってるな?」
「大体は……」
「……一応言っとくか」
「お願いします」
「まず、ここで勝てば賞品剣闘士の女を自分の物にする事ができる」
「はい」
「勝った上でその相手を身請けしなければ、更に上の相手に挑戦することが可能だ」
「面倒なシステムですね。直接上の人とは戦えないのですか?」
「そんなこと言ったら挑戦者は全員、上質な賞品剣闘士を選らんじまうだろうが」
「悪いんですか? 結局は実力なんですよね?」
「連戦のさせ過ぎで負けられるってのは、つまらないだろ」
「なるほど……」
「まっ、大抵の雑魚は一瞬で殺されるだろうけどな」
受付さんがそのように言った直後。
闘技場の中から大きな歓声が響きました
「それにしても、すごい歓声ですね」
「挑戦者のエロ剣士が凄腕でな。負け知らずのササナキが珍しく押されてるって話だ」
「エロ剣士?」
なんとなく想像は付きますが、違うという可能性を信じて聞いてみました。
「ああそうだ。ササナキに挑戦するまでに四人の賞品剣闘士を倒さなきゃならないんだが、その全員を素っ裸に剥いてヤっちまったんだよ」
呆れたような目をしてそう言った受付さん。
とは言え戦闘中にそれだけエロい事が出来るという事は、腕はいいのでしょう。
「ここに来るのは初めてなのですが、やっぱりそういうルールなのですね」
「賭けも確かに盛り上がっちゃぁいるが、ここはそっちがメインになるな」
「何か注意点なんかは?」
「相手を殺したら次の賞品剣闘士には挑戦できねぇから注意しろ」
「殺しは禁止されている、とかなのですか?」
「いや、殺しちまった女を賞品として受け取らなきゃならねぇ」
「死人を……」
「ああ、だから勝ってもヤり過ぎには注意しな」
「……了解です」
そう答えた直後に聞こえてきた歓声。
アナウンスで『勝者、ササナキ!!』と言っているので決着がついたのでしょう。
「あーあ、負けちまったか。まっ、目玉商品が無くなるとこっちが困る」
「これから挑戦するつもりの私が居る前で言います? それ」
「おっ、もしかしてササナキ狙いなのか! 魔術師か?」
「召喚術師、という事になっています」
「ひゅう、いいねぇ! 触手でも呼び出してもらえりゃ、なおの事盛り上がる!!」
「……何故それを?」
「は? マジかお前……じゃあ、前口上に追加される一文は決まったな」
羊皮紙らしきものに何事かを記入した受付さんは、続けて口を開きました。
「で、戦いたい相手は居るのか? 可能な範囲で希望を聞いてやる」
「ササナキさんは……」
「四人を殺さず倒してから言え。一人目はこの中から選んでくれ」
そう言ってカウンターの上に置かれた紙を見てみます。
そこには名前らしき文字がぎっしりと書き込まれているのですが……読めません。
「誰でもいいので、適当に選んでおいてください」
「了解だ。お前さんから見て左手側の扉。そこが男剣闘士の待機場所になってる」
「では」
「ああ。まぁ適当に盛り上げてくれれば、それでいいぞー」
そんな言葉を発した受付さんを尻目に指示された左の部屋へと来てみると……。
三人の剣闘士らしき男性と、担架の上で呻いている血まみれの男性が一人。
そして闘技場の関係者と思わしき者が三人。
「こりゃダメだ、助からん」
「ゴミ捨て場に持ってくぞ! 持ち上げろ!!」
「あいよぉ!」
二人は担架を上げると、私が入ってきた扉から出て行ってしまいました。
この場に残っているのは、血と汗の臭気のみ。
「馬鹿だよなぁ、実力はあったのに」
「ああ。相手を全裸にする事にやっきになって、その隙を突かれて負けたらしいぜ」
「まぁ良いじゃねェか。あんなクズ野郎にササナキちゃんが貰われなくてよ!」
「ああその通り! ササナキちゃんを手に入れるのは、この……俺様だー!」
「「いや、俺だ!!」」
ササナキという剣闘士は、どうやら本当に人気があるのでしょう。
しばらく待っていると、三人は順次呼び出されて闘技場の中へと入って行き――。
一人は重傷、二人は死亡という形で帰ってきました。
実費で挑戦した方なのか貴族の代理で出ていた剣闘士なのかは判りません。
しかし賞品剣闘士の女性はみな、かなりの腕前である事が予想されます。
負けたら相手の所有物になる、と言われていれば必死にもなるでしょう。
『さぁ! 時間的にも本日最後の試合!! 賞品剣闘士のミルタンクに挑戦する剣闘士は――』
「オッサン様、出番ですので中へお進みください」
「わかりました」
私は待機場所の扉を開けて、薄暗い通路を直進します。
先に見えている光に近づくにつれて大きくなる、民衆の歓声。
『――本日初挑戦の新人剣闘士は――今闘技場始まって以来の初の召喚師だ!! その者は邪悪で悍ましい触手を召喚する悪の化身! 狙いは何と――ササナキだそうだ!! その邪道はこの地下闘技場で何処まで通用するのか……――挑戦者、闇の帳を被る者――その名も……――オッサンだぁあああああああああああ!!!』
私が登場しただけで、ワー! と盛り上がっている観客席。
今の前口上は、一体誰の事を言っているのでしょうか?
誰が悪の化身ですか! 誰が闇の帳を被る者ですか!! ……くっ……殺せ!!
……と、考えていても仕方が無いので軽く杖を振り上げて地面を突きます。
地面は一面土になっていて、血や雑多な液が混ざって赤茶色になっていました。
同時に響く、妖精さんの大きなクスクスという笑い声。
妖精さんの声を聞いた女性剣闘士ミルタンクさんは、顔面蒼白です。
「ひっ! なんでこんな相手にっ!!」
前方に見えますはミルクタンク……ではなく、ミルタンクという爆乳の剣闘士。
防具は布の下着に皮鎧といった見た目。
が、全ての着用物に紐が存在しているのを見て取れます。
闘技場の志向としては、あれを狙って服を脱がせ、という事なのでしょう。
ショートボブの赤髪をイヤイヤと横に振りながら後退りしているミルタンクさん。
『それでは――試合開始ィィィイイイ!!』
「妖精さん、力を貸して下さい」
――響く、妖精さんの笑い声。
褐色幼女形体の妖精さんは、何故か両手で顔を覆い隠していました。
その状態でクスクスと笑っています。
そうして地面から這い出してきたのは、一体のおっさん花。
何故か、ドゥンッ! と空気が数段重くなるような――。
重すぎる重圧を、おっさん花が放っています。
「妖精さん……?」
「……ふんいきだそうとおもって、そのままの顔みせてる……」
「この重圧のような迫力は?」
「……この場所の闇が濃すぎて、おはなが強くなってるよ」
「なねほど」
「それと昨日の夜、ろりこんの決意が強まったか――モゴモゴモゴ……」
私は慌てて妖精さんの口を押さえました。
「な、なるほど? あっ、もし良かったらカッコイイ演出とかお願いします」
「……わかった……」
シンと静まり返る闘技場の空気。
私の体から黒いモヤモヤが立ち昇りました。
……くさそう……。
あまりカッコイイ演出ではありません。
が、おっさん花の迫力が十分なのでそれはいいでしょう。
お相手のミルタンクさんは顔を真っ青にして内股気味にガタガタと震えていました。
剣を持つ手さえも震えていて、このままでは勝負以前の問題です。
彼女に勝って、是非とも身請けしたいところ――ッッ。
「……掛かってこないのですか?」
「ヒッ!!? ゆ、ゆるひてっ!?」
「許すも何も、ここは勝負の場ですよ」
相手から向かってきてくれないと、攻撃しにくいのです。
『おおっとぉ! オッサン選手!! 早くも鬼畜な言葉攻めか!? 前口上以上の邪悪さに、この道三十年の私が実況を忘れておりましたぁああああ!!』
何故か沸き立つ歓声。
私は別に、そういうつもりで言ったワケではありません。
「う、うわぁぁぁああああああああああああああああ――――ッッ!!」
ミルタンクさんが剣を振りかぶって向かってきます。
私はおっさん花を操り、その剣を取り上げました。
そのついでに、ミルタンクさんも触手で絡め捕ります。
強く拘束してしまうと四肢が弾け飛ぶ危険があるので、優しく……優しく……。
「ングゥ! そこっ――ッ!!? や、やだっ! 放して!! ――ッッ!! つぶりぇちゃ――うッ!」
これでも強かったのでしょうか……?
今までは戦う相手が頑丈過ぎたので、力加減が判りません。
シルヴィアさんなんかは見た目で判断出来ない代表格です。
もう少し優しく……優しく……。
「ぬ、ぬるぬるがッ!!? はうっ!! たひゅッッ――けてっ!!」
ミルタンクさんが暴れるのを止め抵抗が無くなったところで……。
ゆっくりと地面に降ろして、解放してあげました。
地面に横たわるミルタンクさんの衣類は、もがいていたせいで乱れています。
彼女はお漏らしをしていたのか、ジョビジョバ状態。
目は裏返っていて完全に気絶している様子です。
特に何かをしたつもりはないのですが、状況は完全に何かを致した後。
闘技場の観客席を見渡してみると――。
歓声を上げている観客の間で白い目を向けてきている、ナターリアとニコラさん。
――ち、違います! わざとではありません!!
『しょ、勝者オッサン!!』
沸き立つ歓声を尻目に。
くさそうな黒いモヤを立ち昇らせる私は控室へと帰りました。
控室に戻ると黒いモヤは消え――暗転。
――『死にましたー』
サタンちゃんの天幕の中では、サタンちゃんに白い視線に晒されました。
こういうのは嬉しくありません。
――悲しいみ。
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