『地下都市』一

 現場は落ち着きを取り戻し、場所は牢の中。


「アタイの名前はユリ。で、こっちはパートナーのシズハだよ」

「……どうも」

「さっきの話しぶりからするに金髪美少女ちゃんは日本人だよね。あんたらは?」

「私の事はオッサンと呼んでください」

「貴様に名乗る名は無い! って、ヨウ君が居ないと突っ込みが居ないね。ニコラだよ」

「ヨウ……? ニコラ……? ――ッ! まさか対人ランキング三位の『狂乱蝙蝠』!!?」

「ユリおねぇちゃん、気づくの遅い」


 驚愕の表情をして固まっているユリさんと、それにジト目を向けているシズハさん。


「プレイヤーのヨウは?」

「別行動中だよ」

「なんだ、それなら勝てたじゃん……」

「ちなみに私は死んでも生き返るので、最終的には必ず勝ちますよ」

「チーターじゃん!! ……はぁ。ライゼリックでもあんな化け物見なかったって……」

「じゃあまずは迷惑料をくれないかな。一ヶ月分の生活費でいいからさ」

「……ぐぅ、仕方ないか……」


 ニコラさんにお金を手渡しているユリさん。

 そして受け取った半分のお金を、私に手渡してくれたニコラさん。

 ついうっかり美少女からお小遣いを貰ってしまいました。


「次は私が質問をする番ですね。全部答えてくれたらパンツをあげますよ」

「――!? 何でも聞いてくれッ!!」

「ユリさん。最近入れられた人が何処にいるのか、知りませんか?」

「いきなり難しい質問だなぁ。この地下奴隷都市は表のグラーゼンよりも広いし」

「情報は無いと?」

「一応はある。奴隷はまず、各区画に牢屋にランダムに入れられるんだ」

「……ふむ」

「そこから地下生活スタートになるんだけど、特定するには数が多すぎる」

「子供達を引率する美しい金髪のシスターさんなのですが……」

「……ロング?」

「いえ、髪の長さで言えば肩に届くくらいです」

「むぅ。それじゃあ知らないね。でも幸運な部分もある」

「何ですか?」


 今はどんな些細な情報でも欲しいところ。

 流石に手がかり無しで町の中を歩き回るのは、無謀が過ぎます。


「子供連れという事は同じ場所に降ろされてる可能性が高い。その子供を庇うために動いたり体を差し出したりと目の前で子供が酷い事をされるのを……そういった事が大好きなグラーゼンの頭が、その機会を逃さすはずない」


 確かに。確かにそれなら通常よりは目立つでしょう。

 が、それを目印にするというのは、あまりにも……。


「酷い趣味ですね……」

「ああ、でも見つけ出す参考にはなるだろ?」


 何の手掛かりも無しで探すよりは見つけ出すのが容易になるかもしれません。

 ですが可能であれば、そのような事態になる前に助けてあげたいところです。


「その衛兵のような恰好は、この都市の中で動きやすくなったりするのですか?」

「んーにゃ、女の子とレズハッピーする時にこの方が興奮するから」

「そ、そうですか……」


 ユリさんの偽衛兵スタイルは意味の無い、ただの趣味からくる恰好だったようです。


「こっちもいいかな?」

「ん、パンツくれるのかな?」

「あげないけど、ちゃんと答えてね」

「ちぇっ。……それで?」


 ニコラさんのそっけない対応に残念そうな顔をしたユリさん。

 普通にしていれば美人なのですが、妙な残念感が滲み出ています。


「ササナキっていう女の子を探してるんだけど、知らない?」

「ササナキ……もしかしてハイエルフ?」

「うん。クリーム色の髪色をしてて、剣の腕がかなり立つ女の子らしいんだけど」

「ササナキかぁ……うーん……」


 腕を組みんで小さく唸りながら考え込んでいるユリさん。


「まぁ、ハイエルフの女の子なら一人知ってるんだけどなぁ……」

「その言い方ってもしかして、助け出すのが困難な場所に?」

「そっ。今は景品闘技場の剣闘士をさせられてるね。タブンそいつがそう」

「……闘技場かぁ……」

「ちなみに、ここから脱走する方法を知ってる数少ない住民の一人さ」


 ――脱出方法の手がかり?

 最優先目標はエルティーナさんたちですが、覚えておきましょう。


「地面スレスレを高速移動して相手を翻弄する、スピード型の剣闘士。当然のように魔法も使ってくるんだけど……あんまりにも強くってね。今じゃササナキに挑戦するまでに何勝もしなくちゃいけないそうだよ」


 言葉からも伝わってくる時間が掛かりそうな予感。

 まぁ脱出の情報を持ってる人物だと広まっているのなら、それも仕方が無いのでしょう。


「……戦い方は聞いてた通りだね。剣は旅人の師匠に教わったって情報を貰ってる」

「こりゃ当たりか?」

「うん。その人に会えないかな?」

「普通には無理だね」

「なんで?」

「剣闘士と会って話せるとしたら闘技場で戦っている最中か、手に入れてからだね」

「どっちにせよ戦わないとダメなのね」

「あと一応言っておくと、景品闘技場は挑戦するのに白金貨五枚も必要だ」

「高いね」

「そう。金が有り余ってる奴じゃないと挑戦するのも難しい」

「地下で挑戦出来る人なんているの?」


 ――奴隷が白金貨を五枚集める。

 地上でだって難しいそれが、この地下奴隷都市で可能なのでしょうか。


「闘技場を観戦してた限りだと結構居る。でも殆どは地上の貴族が剣闘士を差し向けてくるパターンかな。その貴族は地上のグラーゼンで、その試合を観戦出来るようにしてるらしいね」


 親切に一から十まで答えてくれたユリさん。

 ですが――。


「ユリさん、妙に詳しいですね」


 ライゼリック組がこの世界にやってきたのは、私が来てから少し経ってからの筈。

 異世界の新参であるユリさんが、この場所で情報通なのはおかしな話です。


「アタイはギャンブル仲間と色々と話すからさ。古参が何かと教えてくれるんだよ」

「ユリおねぇちゃんはね……って、言ってもいい?」

「いいよー」

「この世界に来て最速でギャンブルして借金をした挙句、地下に送られたの……」

「ギャンブル依存症というヤツですか?」

「たはは、恥ずかしいね」

「恥ずかしいと思うなら、控えてもいいんだけど……?」

「それは無理っ!」


 ユリさんからは半端ではない駄目人間の香りがします。

 ……くんくん……意外と良い匂いでした。


「ユリおねぇちゃんはゲーム時代も凄かったよ。お馬レースで五万円くらい勝った日の事なんだけど――『五万円までなら無料だから!!』って言いながら追課金をして、ライゼリックの課金ガチャ引いてたもん」


 深過ぎるギャンブルの沼。

 色んな意味でお友達にはなりたくないタイプです。


「ゲーム時代のボクらって課金意欲を下げるような事は言えなかったからね」

「だけど、今は違う」

「ちゃんと止めてあげてる?」

「ユリおねぇちゃんがギャンブルで負ける以上にジズハか勝つから、大丈夫……!」

「う、うわぁ……」

「だからね。思いっきり、ギャンブルをさせてあげれる」


 完全にドン引きしているニコラさん。

 シズハさんはどうやら、ダメ人間発生装置であったようです。

 これには流石の私も、一歩引かざるを得ません。

 妖精さんのクスクスという笑い声が、牢屋内に響きました。

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