『再会』三

「それではヨウ様、オッサン様。タケル様は助けた方々を護衛しながら町へ向かいます」

「ヨウ様、オッサン様。タケシ様は戻りたいと願った方々を護衛して町に向かいます」

「じゃあなぁあああああああああああ! また会おうぜぇええええええええええええ!!」

「へイヨウ、ヘイヨウ! この世界では善人側だから宜しくなヨウ!!」

「ああ、またな!!」


 そうしてこの場を後にした襲撃者の方々。

 襲撃した側とされた側だと言うのに……。

 こんなにも爽やかな別れを果たす事が出来るとは思ってもみませんでした。

 現在残っているのは奴隷を運搬する馬車が二台に、護衛者の馬車が一台。

 奴隷は……思っていた以上の頭数が残っています。

 様々な事情があって奴隷に落ちた者が多いのでしょう。

 馬車内の奴隷は載せ替えがあったので、ある程度の融通が利いています。

 ナターリアやニコラさんを始めに――。

 仕組まれて用意された者が先頭の馬車に乗っています。

 道中は多少の会話を楽しむ事ができました。

 その後は二度の魔物による襲撃がありましたが、それは難なく撃退。

 無事に廃都グラーゼンの入り口にまでやってくる事に成功します。

 一応は城門付近に衛兵らしき人物が立っていました。


「おっ、奴隷商か」

「地下都市に出荷予定の奴隷達になります」

「ふむ……数は少ないが結構な粒揃いだな。勿体ない。どれ、俺が一つ味見でも――」

「お止め下さい。道中襲撃を受けて、ただでさえ数が減っているのです」

「んあ?」

「これ以上傷物を増やされて売値が下がったら……ね?」

「チッ。地下都市に送られて一週間もすりゃあ全員メチャクチャになるだろうに」

「買い手からの要望を聞くだけの商人には、その後は関係ありませんね」

「〝アンドビィ〟の旦那は何で綺麗な状態のもんを欲するのかねぇ」

「絶望して堕ちていく過程を楽しんでいるのでは?」

「へぇ?」

「慣れている人物では楽しめない、と聞いた覚えがあります」

「だろうな。あーあ、早く地下勤務のローテーションが回ってこねェかなァ!」

「大変そうですね」

「外勤務だと奴隷の首輪を付けられて煩わしいンだよ!」

「奴隷を買って鬱憤晴らしをすればいいかと」

「馬鹿! あんなのただの壊れた人形じゃねェか。死体としてるようなもンだ」

「ふむ……」

「死体と〝したい〟ヤツなんかいねェ……ってか!!」

「禁欲生活ご愁傷様です。では、通過して頂いても?」

「ああ、問題ねぇよ。俺が地下勤務してる時も、これくらいのを連れて来てくれよな」

「努力はしますが、これ程となるとなかなか。道中で殺された貴族令嬢が惜しまれます」

「カー! 勿体ねェ!! 次の仕入れではもっと腕利きの護衛を連れていけ! じゃあな!!」

「……では」


 リュリュさんの魅了を受けた御者さんと門番さんのそんな会話。

 嘘も混じっているようですが、本当の事も混ざっているように感じられました。

 地下奴隷都市……。

 判明している情報だけでも相当な無法地帯である事が予想されます。

 エルティーナさんや子供達が無事である事を願いましょう。

 そうして町の中を進む事しばらく。

 核シェルターの入り口のような場所へと辿り着きました。

 シャッターが開き、馬車が中へと進んで行きます。

 少しすると煙のようなものがそこらかしこから注入され……――意識が途絶えました。



 ◆



「起きて。ねぇ起きてってば」

「んっ……ハッ!」


 目が覚めるとそこは……実家のような安心感のある牢屋の中。

 同じ牢屋に入っていたのはニコラさんです。


「やっと起きた。オッサンって、状態異常耐性はあまり無いんだね」


 彼女は私よりも、かなり先に目が覚めていたのかもしれません。


「ここは……?」

「見ての通り牢屋。一応は目的地に入れたって事になるのかな」


 立ち上がって牢の扉に触れてみると――。

 キィ……と小さな音を立てて鉄格子の扉が開きました。

 何故か鍵が掛けられていません。


「えっと。さっき女の子が杖を吐きだしてたけど、キミのだよね」

「あっ、そうです」


 ニコラさんから杖を受け取ってはみましたが、この体系では持ちにくいです。


「ん……? 首輪は一体どこに?」

「ボクは狸寝入りしてたから知ってるんだけど、ここに入れられてから外されたよ」

「……何故?」

「それは知らない」


 そんな話をしていると魔石が光って、シルヴィアさんが姿を現しました。


「ふんっ。間違いない、ここがタイプζの管理領域だ」

「……管理領域?」

「ああ。今は極限まで力を絞っているが、私が力を使えば即座に気づかれるだろう」

「そうなのですか?」

「ここにはそれを探知する力場が存在している」

「……つまりエルティーナさんを救いだして安全に脱出がしたいのなら……」

「私の力には頼らない方がいい。当然、対価の支払いも我慢しておいてやる」

「ありがとうございます」

「私ではあのシェルターの壁を破れない。脱出の方法は自分で考えろ」

「そちらも了解です」

「まぁせいぜい頑張ってくれ。――ふんっ」


 そう言葉を残して姿を消したシルヴィアさん。


「それじゃあニコラさん、私は行動を開始しますが……」

「ん、しばらくは同行してあげる」


 そんな会話をしながら牢屋から一歩踏み出すと――。


「――止まれぇッ!!」


 衛兵? の格好をしている黒髪の女性が左側の通路から駆け寄ってきました。

 恐らく、そちら側に出口があるのでしょう。


「なにか御用ですか?」

「ぐヘヘヘヘ、二人とも上玉だ。お前たち、ここから出て行きたくば通行料を支払え」

「お金は持っていませんよ」

「なら回れ右をして牢屋に戻るんだな」

「うわぁ。お手本のような、ってやつだね」

「ぐへへへへ。アタイとレズハッピーして、体で支払ってくれても構わんっ!」


 ――響く、妖精さんの笑い声。

 ビクリと一瞬だけ怯んだ衛兵? でしたが――。

 性欲の方が恐怖心に勝ったのでしょう。力強く槍を構えました。

 黒髪の女性の顔は情欲に歪んでいるのですが、かなりの美人である事が判ります。

 体の方も筋肉が引き締まっていて……はい。

 私だけであれば、彼女の条件は悪くない提案だったかもしれません。


「ボク、そんなルールは聞いてないんだけど?」

「ルール? 私は本当に何も聞いていないのですが……」

「ここは基本的に無法地帯だよ」

「無法地帯……」

「暴力とお金が支配する世界の果て。町を巡回する衛兵にもそれは適用されてるんだって」

「確かにその通りではあるんだが、アタイに手を上げれば休まる場所が無くなるよ」

「何故ですか?」

「夜晩に牢にまで犯しに来る輩が――」

「つまり、此処で殺してしまっても?」

「問題は無いはず。ねえキミ」

「――!? ま、まちな!」

「なにかな?」

「アタイとレズハッピーしてくれれば、あんた達を他の男から守ってやる!」

「ふーん。で?」

「アタイは強いが力加減が苦手でね。できる事なら二人を傷つけたくは無いんだ!」

「全身が千切れて死ぬのと壁に叩きつけられて死ぬの――どっちがいい?」


 空の牢の鉄格子を殴り、吹き飛ばしてしまったニコラさん。

 恐らくはシルヴィアさんクラスの筋力があるのでしょう。

 ……ハグだけには気を付けなくてはなりません。


「――!? 力が強いねぇ、お嬢ちゃん! でも、そんなところも――アタイは好きだ!!」

「ユリおねぇちゃん。その二人は止めた方がいいよ」


 別の牢屋から出て来たのは、ピンクのフリルワンピースを着たピンク髪の少女。

 垂れ目ぎみなピンクの瞳は愛らしくあるのですが、妙な威圧感を感じられます。


「なんでだ!!? というかシズハ、お前はアタイがピンチになるまで出て来ちゃダメだ!」

「でも……」

「もっと雰囲気ってものを考えてくれないと!!」

「今がピンチなんだよ? そっちの白髪の子、見覚えない?」

「…………じゅるり。……えろい子だなぁ……」

「駄目だコリャ」

「もしかしてフル装備……? 自前の服って持ち込めたんだね」


 息を呑んで数歩後退りしたニコラさん。

 その手にはいつの間にか牢屋の鉄格子が一本握られています。

 二人組……そしてニコラさんが怯んでいる。

 つまり彼女らは――ライゼリックオンライン組。

 褐色幼女形体になった妖精さんが降り立ち、私の手を取ってきました。

 ――嬉しいみ。


「お、おおおおおっ!? 美幼女が増えたぞ!!?」


 妖精さんはそんなユリさん? の姿をジト目で見ています。


「うっへっへっへっ……シズハを入れて五Pの大乱交も悪くないなぁ……」

「ふーん。……で、遺言はそれでいいんだね?」

「えっ?」

「ボクの貞操は、ヨウ君だけのもの。キミみたいな女にあげる程――安くはないよ」


 一歩、前へと踏み出したニコラさん。

 その表情に油断は無く、迫力が凄まじいです。

 シルヴィアさんが戦えない今、戦えるのはニコラさんとおっさん花のみ。

 少々狭くはありますが、ギリギリ呼び出せる広さがあります。


「一つだけ言っておきますが、私はあなた方とは違った方法でこの世界にやって来た者です。同じ法則、同じ技を使うと思っていると――痛い目を見ますよ。妖精さん、力を貸して下さい」


 ――響く、妖精さんの笑い声。

 ズルリッと地面から這い出してきたのは、一体のおっさん花。

 おっさん花は空間にギッチリ詰まっていて、一体しか呼び出せません。

 ……しかもいろんな部分がギッチギチになっているせいで凄い事になっています。


「……ゑ……?」

「ユ、ユリおねぇちゃん。だから止めようって言ったのに……」


 口を開きっぱなしにして尻餅を突いてしまったユリさん。

 しかし冷や汗を流しながらも一歩前に出たのは、シズハと呼ばれた少女。


「ユリさんとシズハさん、まずは落ち着いて話し合いましょう」

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