『主を無くしたマリオネット』二
周囲を警戒しながら歩き続ける事しばらく。
魔導アンドロイドとの遭遇が一度ありましたが危険は皆無でした。
特に問題は起こらず、巨大な扉の前へと辿り着くことに成功です。
マキロンさんの話では、この扉一枚を挟んだ先にホープさんが居るとの事。
「……よし、俺のカードキーでなら開きそうだ。簡単に作戦を話しておくぞ」
「はい」
「ふんっ」
「なんだかドキドキするわねっ!」
「こけぇー?」
「まずは俺とパンちゃんとシルヴィアで、ホープに演算戦を仕掛ける」
「了解だ」
「そのあとは不具合を取り除いた上で、ホープと施設との繋がりを解除」
「マタ、オ腹ヲ弄ラレルノデスネ」
「おいくねくねするな。何処の馬鹿だ、そんな思考ルーチンを埋め込んだヤツは」
「グランドマスターデス」
「……グッ、お前、それが全てを許される免罪符だとは思うなよ?」
「事実シカ、言ッテイマセン」
「貴様の肉身は随分とご主人様寄りの思考をしているらしいな」
「馬鹿をいうな! 俺の娘は変態じゃない!!」
「一応言っておきますが、私も変態じゃないですよ」
「「「…………」」」
「勇者様の真面目な時は、すっごく格好いいわっ!」
「こけぇー?」
黙ってしまった三人と頑張ってフォーローしてくれようとしているナターリア。
……〝真面目な時は〟と言う事は、普段は変態だと思っているのでしょうか……?
妖精さんのクスクスという笑い声が、この場に響きました。
「ま、まぁ、話を続けるぞ。……αは最高出力で演算戦をしながらでも攻撃してくる筈だ。他のメンバーには、その時間稼ぎを頼みたい」
苦笑いを浮かべながらもきっちりと説明をしてくれたマキロンさん。
時間稼ぎであれば、この私の得意分野です。
「わかりました」
「任せておいてっ!」
「こけぇ~?」
常にアホな振りをしているキサラさん。
泣き声は確かにアホっぽいのですが、表情は無表情なのであまりそうは見えません。
妖精さんに次ぐ無表情キャラ。
アホの振りをしていなくて鶏的な部分が無ければ、かなり私の好みです。
「作戦は以上。それじゃあ――開けるぞ」
全員がその言葉に頷きと、マキロンさんがカードキーを黒い部分に押し当てました。
――プシューという音共に横へとスライド移動して開いていく扉。
『管理者室への侵入者を確認。これより迎撃を開始しようかと思ったり思わなかったりします。迎撃成功確率……絶望的。生存者、並びにそれを守る皆様は、ただちに地下シェルターからの脱出を開始して下さい』
扉の先に待ち受けていたホープさん。
彼女は、部屋の最奥で数えきれない程のケーブルに繋がれていました。
一切の身動きが取れないように見えます。
が、その一方でケーブルが繋がっている先には様々に武器が繋がっていて……。
それらは既に戦闘態勢といった状態です。
「そのアナウンス、さては二回目だな? それでδが外に行った訳だ」
部屋の壁際には見慣れない機械がぎっしりと設置されていました。
管理室というのも納得の設備状況です。
召喚施設で召喚された何者かは、この場所には来ていないのでしょうか。
召喚施設から出た右側には派手に暴れ回った痕跡がありました。
が、この場所付近は随分と綺麗な状態だったのです。
彼女が見つからずに残っていたのは運が良かったのか、それとも悪かったのか。
『戦術システム起動。並列充填開始。攻撃誘導システム起動』
目元まで隠しているヘルメットのせいで、彼女の表情は読み取れません。
が、恐らくは気が狂ってしまう程の苦行が待ち受けていたはずです。
果たして私達一行は、そんな彼女の心を解放してあげられるのでしょうか。
……私にできるのは時間稼ぎのみ。
他の事はマキロンさん、パンちゃん、シルヴィアさんにお任せしましょう。
褐色幼女形体の妖精さんがクスクスと笑うと、四体のおっさん花が姿を現しました。
私に操作権があるのは二体です。
『最高権利者マキロンお兄ちゃん様。パルデラレリック公国に寝返りやがったのですか?』
「対話が出来るのか? 彼女らは敵じゃない。今すぐ臨戦態勢を解け」
『ホープは侵入者を殲滅し、住民を守るだけ。それがホープに与えられた最後の命令です』
「話が通じている訳では……無さそうだな」
『住民の皆様……皆様は何処に行きやがって、いつ帰ってきやがるのですか……?』
「ホープ……」
『ホープは……今日もお仕事を頑張っていますよ……』
「…………」
機械的な部屋の中で、二人の声だけが聞こえています。
『生体兵器は眠らない。眠らなければ、夢を見る事も無い。だから住民の皆様の夢を、ホープは叶えたい。それがホープの夢。ホープは常に夢を見ているのに、夢を見たことがありません。唯一の生存者が敵になってしまった今のホープは……いったい何の為に、存在していやがるのですか?』
ホープさんは、マキロンさんが敵に回ったと認識しているのかもしれません。
「なら……抵抗せずに解放されてはくれないか?」
だというのに、目の前にいるマキロンさんの声は届いていない様子です。
悲すぎる深刻なエラーの発生。
『ホープは〝人〟という醜い種を滅ぼす為に、この世界に作り出されました。消え去るのが人の宿命だと、ブルーエッグに教え込まれて生れてきたのです。ホープは、この世界から多くを奪ってきた奢り高き者を殲滅する者。ですがホープは……鹵獲されてから、この地下シェルターで多くの調教をされやがりました。だからホープは――生体兵器を殲滅します』
四つのビットが何処からともなく射出され、ホープさんの周囲を飛び交います。
ビットの先から現れたのはビームソード。
空を自由自在に飛び回るソレは、私にとってはかなりの脅威です。
「随分と酷い言語教育をされたものだ。俺が今から――メンテナンスをしてやろう!」
「【ハッキング!】」
「施設へノ接続ヲ完了シマシタ。マキロン様、アトハヨロシクオネガイシマス」
ホープさんの側に手をかざして、カシカシと音を立てているシルヴィアさん。
そして何時の間にかケーブルを施設に繋いでいたパンちゃん。
マキロンさんはパンちゃんの入力部分に張り付いて、ハッキング作業を開始しました。
「うふふ、勇者様っ! いっぱい足止めしてあげましょっ!」
「――ええ!」
妖精さんが黒い玉を地面へと投げつけると、薄い霧状の闇が広がります。
ナターリアは数歩後ろに跳んだかと思えば……闇の中に溶けて消えました。
響く、妖精さんの笑い声と、ナターリアの笑い声。
『不正なシステムアクセス、同時に魔力浸透ハッキングを検知。【魔力対抗演算術式起動】、並びに並列演算戦を開始。侵入者への攻撃を開始します』
ホープさんの平坦な声。
ですが、そこからは余裕の無さが伝わってきています。
「ホープさん、忙しそうですね」
『ハゲは死にやがれください』
――悲しいみ。
一斉に動き出した魔力兵器の数々。
アーム型の触手が迫って来ますが、それに対するは私の操るおっさん花。
飛び交うビットにはナターリアと妖精さんが対抗していました。
触手も千切られていますが、今のところは抑え込めています。
遠距離から飛んでくる魔力兵器は――。
「【こけぇー】」
なんと、キサラさんが打ち消してくれました。
闇の中から現れては消えてを繰り返し、ホープさんのケーブルを切断するナターリア。
演算特化型タイプα系統、固体名称ホープ。
確かに強いのでしょうが、シルヴィアさん程の理不尽さが感じられません。
ホープさんの攻撃は驚く程に抑え込めていて、もはや勝ちは揺るがないでしょう。
圧倒的な戦力差と、圧倒的な頭数の差。
自分に与えられた使命を全うする為に必死に戦っているホープさん。
しかしホープさん自身が言ったように、まず負けはありません。
私の胸に突き刺さっているような……僅かな痛みにも似たこの感情は……。
この戦闘に勝利すれば、一緒に消えて無くなってくれるのでしょうか。
「あ……?」
――否。触手が一本、私に突き刺さっていました。
痛みはありませんが、これは死にます。
『死にましたー』
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