『主を無くしたマリオネット』一

 一通り部屋の中を探索した結果。

 何もかもが破壊され尽くされているせいで目ぼしい物は見つかりませんでした。


「さて……中枢は、もうすぐそこだ。覚悟はいいか?」

「はい」

「勿論っ!」

「オトイレハ、イイデスカ?」

「ここにもお便所があるのですか?」

「……大破シテオリ、有リマセン」

「まさか野ションをしろと……!?」

「話に水を差すようで悪いが、パンちゃん」

「ハイ」

「一度メンテナンスをさせてくれ。言語系統に深刻なエラーが発生している可能性が高い」

「私ハ、至ッテ健康デス」

「安心しろ、ポンコツはみんなそう言うんだ」


 にこやかな笑みを浮かべてそう言ったマキロンさん。

 パンちゃんは話していて楽しいので、そのままにしておいてほしいところです。


「ふんっ、わたしも健康だぞ」

「あっ、わたしも元気いっぱい!」

「勿論、私も元気です」

「生体兵器と変態は元気じゃない時がないからな」


 ――私は変態じゃないのに……悲しいみ。

 そんなやり取りの後。

 私はシルヴィアと先行して外の様子を確認しました。

 顔を出して確認した限りでは安全そうです。

 通路がボロボロになっていたり遺体が転がっている以外の異常はありません。

 そのまま外へと踏み出した、その時――。


『中枢区画への侵入者を確認。侵入者の内一体は所属不明のニンゲン。もう一体はタイプυ系統固体名称シルヴィア。近くの警備兵は直ちに対処に向かいやがれ下さい。お兄ちゃんお姉ちゃんの皆様は、直ちに退避をお願いします』


 響く、ホープさんのアナウンス。

 それと同時に赤い警報灯が点って全ての通路が赤くライトアップされました。


『脅威判定SSS++、排除成功確率0.00000000001%。これより対処を開始しやがります』


 そんなアナウンスを聞いていると――。

 右の通路の曲がり角から人型のアンドロイドが現れました。

 その姿は既にボロボロで片腕も無ければ首も取れかけです。


「【氷結晶槍ダイアモンドランス】」


 シルヴィアさんがそう言い終えた直後。

 一本の氷槍が人型アンドロイドを破壊しました。


「ふんっ。向かってくる反応は八体。五体は下半身が無いのか随分と移動速度が遅い」

「泣きっ面に蜂、という言葉がありますが、私達がその蜂になった気分ですね」

「いい得て妙な言葉だ。まぁ俺たちが蜂なら、蜂蜜を渡せば許してくれるだろう」


 召喚施設から出て来たマキロンさんは顰めっ面です。

 状況から判断するに昔は蜂蜜が高価だったのでしょう。

 それ故の古代人ジョークかもしれません。

 大破したアンドロイドを見ながら、チラリとシルヴィアさんを見たマキロンさん。


「都市防衛型生体兵器タイプδ、固体名称バンケンの反応は無いのか?」

「バンケンに隠密改造を施したりしていないのなら、ここには居ない」

「……そうか」

「一応言っておくが、この真上にある地上の都市でδを一体見かけたぞ」

「ノアに居たのはバンケン一体だけだ。恐らくは、そいつがそうなのだろう」


 ――都市防衛型生体兵器タイプδ、固体名称バンケン。

 もしその生体兵器が残っていたら、激戦になっていたに違いありません。


「だが、どうやって外に出た? 何故破壊されていない? それに真上に都市があるだと?」

「そうだ」

「なんでそんな事になってるんだ……」

「ふんっ、私が知るか」


 マキロンさんの疑問をバッサリと切り捨てたシルヴィアさん。

 堂々としていて格好良いいのですが、相談相手としては頼りないような気もします。


「ヤツは設定された地点から離れる程に性能が落ちる。中央区画の真上は街の何処だ?」

「オッサンが生活をしている場所はスラム、とか呼ばれていたぞ」


 スラム……生体兵器……それから、距離があると弱体化する?

 つまり――町の中なら強い?

 この条件に当て嵌まる者を、私は一人だけ知っています。


「シルヴィアさん。まさかその人物は、衛兵さんの格好をしていたりは……」

「事情は知らんが、していたな」


 ――衛兵さん、通りで強い訳です。

 なんせ、シルヴィアさんと同じ時代の戦闘型のタイプなのですから。

 どんな犯罪者でも町の中で捕まってしまっては逃げる術などないでしょう。

 派手な戦闘になった場合は筋力で爆殺されること間違いなしです。


「まぁ大体の状況は読み込めた。が、そうなってくるとバンケンは、地上の誰かをマスターとして動いている可能性が高いな。でなければαの呼び掛けで戻ってきて既に交戦していてもおかしくない」


 ――誰かをマスターに……?

 思えば、防衛戦では常にダイアナさんの傍に居たような気がします。

 まさか……えっ? ダイアナさんが??


「勿論、私が勝つがな」

「この中枢区画でαと二体一になったとしても、お前は勝てるのか?」

「……答える必要は無い」


 明後日の方向を向いてそう答えたシルヴィアさん。

 無駄にプライドが高いので無理だとは言いたくないのでしょう。


「まぁいい、先に進もう」


 マキロンさんがそう言って進み出したその時。

 右側の通路から二体のアンドロイドが姿を見せました。

 その姿は先程の一体と同様にボロボロで、一体には両腕がありません。


「排除シマズ。排除シマズ」

「ニンゲン様ヲ……守ル為ニッ」

「相手が悪かったな、【氷結牢獄アイシクルプリズン】」


 瞬く間に完成したのは二つの氷柱。

 魔導アンドロイドが言い放った最後の言葉のせいで、妙な罪悪感が残ります。


「……進みましょう。これ以上の無駄な戦闘は避けるべきです」

「ああ、そうだな」


 私達の一行は、このシェルターの中心部へ向かって進みます。

 ……ホープさんの、暴走を止める為に。

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