『風の中で散りぬるを』一
魔導バイクに乗って道を進み続けることしばらく。
唐突にシルヴィアさんが後ろを警戒しだしました。
「むっ、後ろから何か来るぞ」
「本当ですか?」
ジッと後ろを見てみると確かに何かが迫ってきています。
その正体は……巨大な機械兵。
「――なッ!? マキロンさん!! あれが警備兵ってやつですか!?」
「警備兵は人型だ。だから、あれはただの……殲滅型魔導機械だな」
「名前からかなり物騒ですね!!?」
「まぁ待て。この区画を巡回しているだけで、ターゲットにされていない可能性もある」
「本当ですか?」
そう言葉を返しながら後ろから迫ってきている魔導機械を見てみます。
その外見はタイヤ戦車の上に人型ロボットの上半身を乗せているようなもの。
機体のあちこちにミサイルポットが付いています。
その両腕はバルカンのように――あっ、ミサイルポットが開きました。
当然のように、ミサイルが飛んできています。
「撃ってきましたけど!?」
「そういう事もある。……飛ばすぞ!」
そう言うなり速度を上げて安全とは程遠いスピードに移行しました。
私が乗っている魔導バイクも速度を上げます。
背後から迫って来ていたミサイルは――。
「【
正確に放たれた氷の槍によって、迎撃に成功しました。
ミサイルは爆発するタイプではなかったのでしょう。
黒い光が、ギュオォォォォという音と共に広がって収縮しています。
消えて無くなるタイプなのでしょう。
「爆縮ミサイルだ。当たれば骨も残らんぞ」
「ふんっ、安心しろ。もう次弾は撃たせん。【
背後から聞こえてきたのは氷が砕ける音と爆発音。
シルヴィアさんの理不尽な攻撃は相変わらずです。
瞬く間に脅威を殲滅してしまいました。
「仲間でなら心強いとはこの事か。防衛設備全般がオモチャの水鉄砲に見えてくる」
マキロンさんがそのように言った次の瞬間――。
『スピード違反をしやがった輩を検知。直ちに投降して死にやがれ下さい』
そんなアナウンスと共に灯された赤い緊急灯の光。
「…………」
「マキロンさん? 無法地帯だとか言ってませんでしたか?」
「……どうやら、ホープの管理領域になっていたらしい」
申し訳なさそうにそう言ってきたマキロンさん。
マキロンさんは長い事眠っていたので施設内の細かな情報が違っていたのでしょう。
「背後から襲わせて、スピードを上げさせた上でのこの扱い。どう思います?」
「酷いな……」
「ホープさんは一体どんな教育を受けてきたのでしょうね?」
「全く、親の顔を見たついでに破壊してみたかったところだ」
「口調ノ教育ハ、住民階級ガ高階級ノ、皆様ニヨッテ行ワレマシタ」
「……マキロンさん?」
「お、俺は知らん! 本当だ!!」
そうこう言っている間にも前と後ろから大量の無人魔導バイクが迫って来ました。
現在の進行方向から来ている魔導バイクは、かなりの速度で迫って来ています。
魔導バイクの前方は槍のような形になっていて、その両脇には――銃。
『ピーポーピーポーピーポー。違反者は直ちにバイクを路肩に寄せやがれ下さい。両手を上げさせて、フルボッコ。ヒュー気持ちいい」
――ダカダカダカダカッ! っと響く銃声。
「両手を上げる暇もないのですが!!?」
「お、俺は知らんぞ……!! 他の連中が悪い!」
魔導バイクはかなり丈夫なのか、あまり傷ついてはいません。
私に当たりそうな銃弾も、キサラさんが羽毛で弾くれています。
まさか鶏の羽毛は……銃弾をも跳ね返す強度を持っていた……?
私はまた一つ鶏への知識を高める事ができました。
「ふんっ、豆鉄砲だな。【
何故か前方に形成された無数の氷柱。
どう考えても避けられるスペースがありません。
今砕かれてしまえば、私達も破片で死にます。
このまま進んでも岩より固い氷と激突して死んでしまうのは必至。
シルヴィアさんは一体どういうつもりなのでしょうか。
「……ふんっ」
シルヴィアさんが指をクイッと動かすと――。
私達の一行が乗っていた魔導バイクは壁際へと移動して壁を走りだしました。
見れば、マキロンさんの方も壁を走っています。
この角度は控えめに言っても……怖いと言わざるを得ません。
重力を無視して走る魔導バイクに旧魔導文明の技術力の高さが窺い知れます。
そのまま高度を上げていく魔導バイクに、強くなる下へと落ちようとする重力。
恐怖のあまり、ナターリアへと抱き付いてしまいました。
「きゃっ! ゅ、勇者様? えっと……あのそのこの……!」
「こけぇ~?」
何かを言っているナターリアと疑問の声を上げているキサラさん。
キサラさんに掴まっていた鶏が二羽、うしろに向かって飛び立ちました。
その直後――爆発。
多くの追撃者を巻き込んで鶏が爆発をしたようです。
その爆発領域は食肉プラント内で起こった爆発よりもかなり大きなもの。
全力で爆発したように感じられました。
そして何故か……魔導バイクは天井を走り始めています。
現在の私が下を見上げてみれば、当然のように存在している氷柱の数々。
この速度で動く魔導バイクから落下したら、普通に命はありません。
私は大人気なく、全力でナターリアにしがみ付きます。
「ゅ、ゆうしゃしゃまぁっ!!? えっと、あのその……さ、さっきからずっと、わたしのおっぱい掴んでいるわっ! レディーの胸は、もう少し優しく扱って欲しいのだけれど……!」
――ッ!!?
私は慌てて手を離しました。
「あっ……」
当然のように体は重力に従って下への降下を始めました。
速度はかなり出ていたので落下するまでは置いて行かれる事はありません。
が、地面に激突してしまうのは時間の問題。
なぜ私は、手に意識を集中させていなかったのでしょうか。
咄嗟に体を捻って右手を伸ばしたのですが――掴めません。
「――こけっ!」
伸びてきたキサラさんの右手。それが見事に私をキャッチします。
ですが何故……私の右手を掴んで下さらなかったのでしょうか。
左手を伸ばさなかった、私が悪かったのでしょうか……?
キサラさんが人の手で掴んでいる私の部位は――便座カバーヘッド。
ガッシリと掴まれている便座カバー毛髪は……。
ブチブチと音を立てながらも奇跡的に私の全体重を支えています。
ですが……ですが――!!
「は、放してください!! か、髪が! 髪の毛モッケモケが!!」
「こ、こけぇ?」
私の声に困惑の声を上げたキサラさん。
「放しちゃだめぇ!!」
それに対してナターリアの必死な声が上がりました。
「ですがリア、このままでは! 髪が……私の髪の毛が!!」
「そんなのあっても無くても変わらないわっ! わたしは、勇者様が好きなのだものッ!!」
「り、リア……!」
「……勇者様ぁ……」
響く、妖精さんの笑い声。
――ブチッ。
響く、私の便座カバーヘッド。
――何故髪様は……いつも私を見放すのでしょうか。
私が髪様に……何か悪い事をしてしまったのでしょうか……?
キサラさんの手にあった毛髪が、風に乗って後ろへと流れていきました。
……散りゆくものは美しい……。
この言葉を最初に使った人は、一体何を思って、この言葉を使ったのでしょうか。
散りゆく髪の毛は、本当に美しいのでしょうか……?
教えてください女神様。
私の便座カバーヘッドは、本当に美しいと言えるのでしょうか。
『死に――』
「ふんっ、面倒なニンゲンだ。前を掴んでいる事も出来ないのか?」
『――ませんでしたー』
いつものパターンだと思ったのか、フライング気味に言葉を響かせた女神様。
私を受け止めて下さったのは、なんと――シルヴィアさんの御足です。
私はシルヴィアさんのダブル御足に挟まれて間一髪のところで助かりました。
白くて柔らかく、上質過ぎるシルヴィアさんのキラー御足。
オーバーニーソックス越しでも判る程のそれは、思わず頬を押し付けたくります。
霊峰の頂では振り抜かれた御足でしたが、ここでは優しく受け止めて下さいました。
――嬉しいみ。
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