『食肉プラント』三
現在は食肉プラントのとある通路を移動中。
食肉プラントを道順に進む事しばらく。
二手に分かれている通路に出ました。
「どっちですか?」
「左だ。右は野菜プラントになっている」
「……その野菜、動いて話したりはしませんよね?」
「何を馬鹿な事を……」
「で、ですよね。野菜が話すわけ――」
「当然、話すに決まっている。今の野菜は話さないのか?」
「……はい」
「ふむ。よくそんな生きているのかも判らない野菜が食べられるな」
なぜ昔の人と今の人とで、こんなにも感性が違うのでしょうか。
野菜は動いて話すのが当然……?
――否。そんなお野菜は嫌です。
「私からすれば、あのドM野菜が開発された経緯を知りたいですね」
「その辺は俺も知らん。だが調理されるのを嫌がられるよりは良いだろう?」
――確かに。
万が一野菜娘たちが調理されるのを拒み、命乞いをして懇願して来たら。
私は果たして、調理する事ができたでしょうか? それは……断じて否。
人語を解すというだけでもダメージは大きいのです。
その上で命乞いまでされてしまえば調理する事など不可能。
余程のドS人間か精神的にアレな方にしか扱えない素材です。
私では服脱がせ……ではなく、皮剥きしかできません。
手で優しく、むきむきして差し上げたい。
「……ケホッ……それでパンちゃん。野菜プラントの管理者は?」
「不明。デスガ彼ハ狡賢イノデ、生キ残ッテイル可能性ハ高イカト」
「ふむ。キサラのように仲間へと加えることが出来れば心強い、か……?」
マキロンさんはそんな事を言いながら横目で私を見てきました。
身格好から値踏みをされているような、そんな視線です。
「オッサン、今の手持ちはどのくらいある」
「全然。そのお金を手に入れる手段として、ここに来ているわけですし」
「むぅ……仕方がないか。召喚施設の区画に暴走した警備兵が居ない事を祈ろう」
「ちなみにですが、この場所全体の総称は無いのですか?」
「あるぞ。星王国地下シェルターNo.002、通称『ノア』。シングルナンバーだぞ?」
自慢げにそう言ってきたマキロンさん。
恐らくは本当にすごい場所なのでしょう。
ですが私には、いまいちそのスゴさが伝わってきません。
「最も巨大で最も戦う力が残っていた場所だ」
「――ふんっ。ここ所属の食料供給型タイプα改良型なら、この施設の外で見たぞ」
「なに?」
「恐らく戦争の衝撃で施設が動き出し、その間に出て行ったのだろう」
姿を現したのはシルヴィアさん。
シルヴィアさんが一睨みするとキサラさんは怯み、私との距離を空けました。
「戦争? 戦争だと?? 今度は人類同士で戦争を始めたのか??」
「魔物だとか魔族といった魔王軍が主な相手……だと思います」
「魔物? 魔族?? 魔王軍??? 物語上の化け物が今じゃ平然と地上に蔓延っている訳か」
――物語上の化け物?
もしかして昔はいなかったのでしょうか。
かなり気になる言葉です。
「ふむ。そいつらが人類共通の敵になっている御かげで人類は平和を保てているのか」
「マキロンさん、まるで魔王軍の御かげで世界が平和だとでも言いたげですね」
「そう言ったつもりだ……ケホッ」
「……貴方は一体どれだけの人が、それの被害で苦しんでいると思っているのですか?」
「多いのか? 人類同士の被害者よりも??」
「それは……わかりませんが……」
冷たく濁った瞳を向けてきたマキロンさん。
彼は今まで、一体何を見てきたと言うのでしょうか。
「オッサン、人間という生き物を甘く見ない方が良い」
「…………」
「お前はまだ人間というものに希望を持っているから、そんな事が言えるんだ」
「ヒトにだって、良い人はたくさんいますよ……」
「本当にそうか?」
「私はこの世界で多くの者に助けられ、今ここに来る事ができています」
「……ああいや、すまない、余計なお世話だったな。オッサンの考え方は正しい」
「取ってつけたような同調ですね」
「いいや本心だ。俺からしたら眩しすぎる程にな」
「……そうですか」
「俺は地下に長く居すぎて……いや、長く眠り過ぎて卑屈になってしまったらしい」
「…………」
無理矢理に明るい顔をしたマキロンさん。
私には黙っている事しか出来ません。
「えっと……わたし、少し疲れてしまったのだけれど……」
「あ、ああ、すみません。少し休憩を取りましょう」
私達の一行は適当な一室に陣取って食事の時間を取りました。
ナターリアはさり気なく私の隣を陣取ったのですが……。
キサラさんはシルヴィアさんに近づきたくないのでしょう。
あっちへうろうろ、こっちにうろうろと忙しなく動いています。
妖精さんには蜂蜜ミルクを渡して、他の皆には固パンと干し肉を配りました。
シルヴィアさんは断ってきたのですが、キサラさんは美味しそうに食べています。
「……美味い。今の地上では普通にこういった食事が食べられるのか?」
「地上では、ありとあらゆる料理を作る事ができますよ」
「おぉ……!」
「それと干し肉はともかく、固パンはあまり美味しくないと思います」
「これが美味しくないだと?? 随分と贅沢な世界になったものだ……ゲホッ……」
「なんでしたら今度、私特性の白シチューをご馳走しましょう」
「本当か!? 残り少ない俺の寿命だが地上に出れば一生分の幸せを掴む事が出来そうだ」
柔らかい笑みを浮かべてそう言ったマキロンさん。
この時私は……彼を救ってあげたいと心の底から思いました。
無事に帰る事ができて報酬を入手する事ができたのなら……。
何とか、サタンちゃんにお願いしてみるとしましょう。
かなりの対価を要求されるかもしれません。
ですが、それで一人の命が助かるのなら安い物です。
「さて、あまり長居していても気持ちのいい場所じゃないからな。適当に出発しよう」
それからしばらくの休憩を取り、全員が準備万端になったところで出発しました。
◆
「マキロンさん」
「なんだ?」
「コレは何ですか?」
「魔導バイクだ」
「この先が見えない通路は?」
「ただの通路だ」
「…………」
現在私達の居る場所は、バイクの駐車場。
それは途轍もなく長い通路の横に設置されているものです。
通路は円形……を少し欠けさせたような、カマボコ型のトンネルになっていました。
「バイク……運転した事が無いのですが……」
「ふんっ、安心しろ。私がハッキングして動かしてやる」
――嫌な予感しかしません。
「一番でかいバイクなら三人で乗れる。オッサンと少女とキサラで三人乗りすればいい」
ナターリアはともかく美少女鶏のキサラさんとは嫌です。
特に肩に乗っている二羽の鶏が嫌で嫌でたまりません。
私は一番大きなバイクに跨りながら、マキロンさんの言葉に突っ込みを入れます。
「ほ……法律が……」
「……ケホッ。気にするな、ここは管理者の居ない無法地帯だ」
ニィッと楽しそうな笑みを浮かべたマキロンさん。
マキロンさんは既にバイクへと跨っていて、その前に座っているのは――パンちゃん。
「良い笑顔を浮かべていても、パンちゃんの腰に抱きついているせいで台無しですよ」
「そうかそうか。それで……オッサンは誰の腰に捕まっているんだ?」
「うふふ。前がわたしで後ろがキサラなら完璧な防御態勢ねっ!」
「こけぇ~?」
……そう。前に座っているのはナターリア。
後ろに座っているのはキサラさん。
私の鳥肌が止まりません。
鳥であるキサラさんよりも鳥肌になっているような気がします。
とはいえ初のバイクで夢のようなサンドイッチ状態。
――これが美少女? 二人にサンドイッチされた気持ちなのでしょうか。
ちなみにナターリアは足が地面に届いていません。
まぁその辺りはシルヴィアさんが操縦をするので問題はないのでしょう。
それにしても……何時の間にか随分と良い感触になったものです。
ナターリアの腰回りは出会った頃など、かなり痩せていました。
力を入れたら折れてしまいそうな危うさが彼女にはありました。
が、今のナターリアときたら――素晴らしい。
としか言いようのない完璧少女ボディー。
妖精さんの褐色幼女形体は、凹凸の無い完璧ロリータボディー。
それに対してナターリアには、しっかりとしたくびれがあります。
同じ少女であるというのに、ナターリアの女性らしさは一体なんなのでしょうか。
もう少し甘い物を食べさせ続ければ、むっちり太腿を手にする日も近いでしょう。
……もちろん太ってしまわないよう注意は必要ですが……。
「あうっ! ゆ、ゆうしゃさま?」
――ハッ!
「す、すいません! 随分と健康的な体になったなと……つい……」
無意識にナターリアのお腹を弄っていたようです。
ナターリアでなければ衛兵さんに突き出されていたかもしれません。
「あれっ? もしかして……太り過ぎちゃった……?」
赤面していた表情から一変して固い笑みのまま私を見てくるナターリア。
体の状態を気にする辺り、少女と言うよりは大人の女性なのかもしれません。
「いえ、ナターリアはまだまだ軽いですよ。――では、そろそろ出発しましょう」
「【ハッキング】……成功」
ヒュオーという音と共に、エンジンの掛かった魔導バイク。
「よし、先導は任せてくれ」
「はい」
と言っても操縦するのはシルヴィアさんなのですが。
「本当は使えないと思っていたが、キサラと鶏が居る御かげで特別な通路を使える」
そう言って出発したマキロンさんとパンちゃん。
私の乗る魔導バイクも、それに続いて出発しました。
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