『風の中で散りぬるを』二
私を足にしがみ付かせたシルヴィアさんは、再び敵の方へと向き直ります。
「ふんっ、しっかり掴まっておけよ? 少し動くからな」
ご許可を得ました。
私は全身全霊でシルヴィアさんの御足を、だいしゅきホールドします。
「むっ、あったかいな……」
シルヴィアさんの御足は冷たいです。
が、美少女の完璧柔らか御足である事を加味すれば、それは百二十点の御足。
何時間でも抱き着いていられます。
手の平や指は僅かに沈み込んでいました。
暴力的なまでに上質な質感。
その天壌なる質感には、如何なる宝石も霞ませてしまうような価値があります。
全身で感じる、シルヴィアさんの御足。
こんな機会でもたなければ、このように抱き着く事は出来なかったでしょう。
この……御足で踏まれるのとは違った満足感。
ハグをされるのともまた違うこれは、何と言ったらいいのでしょうか。
――そう、基本は常にされる側であり、する側ではありませんでした。
これはもう……頬を押し付けてしまっても、いいのでしょうか……?
――何を言うか煩悩大臣! 彼女は厚意で助けてくれたのだぞ!!
――き、貴様は理性大臣!?
――彼女は好意を持って助けてくれたのです。慌てるべきではありません。
――じゅ、純愛大臣まで!?
――げへっ、げへっ、普段アレだけ色々されているんだ。
――へ、変態大臣! 私も貴方の意見に同意見です!!
――げへっ、げへっ、舐めまわすくらいしてもいいだろう。
――そう、シルヴィアさんはシリアルキラー。遠慮する必要などないはずです!
――いいえ、ゆっくり事を進めれば必ずやそれ以上の愛を見つけられるでしょう。
――その通り! 貴様らは彼女を純粋さを愛らしいと思った事がなかったのか!!?
――げへっ、げへっ……。
――そ、それは……。
――『いいんじゃね』――。
――あ、貴方様は……。
――『頬擦りくらいなら、いいんじゃね……』――
――あ、悪魔……タン。
――『彼女は……肌の接触があれば、満足じゃね……?』――。
――確かに……。
――『彼女が喜んでくれるのなら……いいんじゃね……』――。
この間、僅か三十秒。
「【アイス――――!?!?】」
私はシルヴィアさんの太腿に頬擦りをします。
シルヴィアさんの手から、ボシュン! という音が出て冷気の煙を吹き出しました。
私は、ついでに手も動かします。
……もみもみ。
「――ッ! 【
瞬く間に背後で形成された氷の壁。
無数の何かが衝突し、爆発する音が聞こえてきています。
そうして私達一行は無事に追跡者を振り切ることに成功。
無事に終着地点ほと辿り着く事ができたのです。
◆
「鶏を失ったのは想定外だ。……困ったな」
「こけぇー?」
駐車場から降りて扉の前でうんうんと唸っているマキロンさん。
一体どうしたと言うのでしょうか。
「いや、ここの扉を使うのには住民階級八のカードキーと、なんらかの生き物を殺害する必要がある。本当はこの場所で鶏を一匹締めて、それでこの扉を使うつもりだったのだが……仕方ない。引き返して順路を進もう」
――生物の死を検知して開く扉?
もう嫌な予感がします。
「ふんっ、その必要は無い」
口を開くシルヴィアさん。
今すぐにでもシルヴィアさんのお口に手を押し当てて止めたいところです。
「私のご主人様は高次元の存在から与えられた加護によって、死んでも生き返る」
――案の定きました。
嫌です。やめてください。
「そして私はまだ、さっきのタクシー代を貰っていない。戦闘の邪魔もされたからな」
両手を広げてにじり寄ってくるシルヴィアさん。
素晴らしいキチ○イスマイルです。
やはり、あれはやり過ぎだったのでしょうか?
もしかしてシルヴィアさんは、怒っているのでしょうか?
「お、お金なら……払いますよ?」
「要らん」
「払います! お金なら払いますからぁぁあああああ!!」
悪役になったら言ってみたい台詞のベスト百に入る言葉、たった今言えました。
「だから要らんと言っている」
――瞬く間に距離を詰めて私へのハグをキめたシルヴィアさん。
お返しだと言わんばかりに全身を弄り倒し、揉み、頬擦りをしてきます。
本来なら嬉しい筈の美少女からのハグ。
しかし、それは全身に広がる冷気と――。
鼓動を緩めていく心臓のせいで楽しむ余裕など全くありません。
死の恐怖と同時に押し寄せるエロスは、楽しむ事が出来ないのです。
「マスター、タクシー代ヲ下サイ」
「それじゃあ俺は修理代を貰おうか。差額はどっちが高いと思う?」
「……ヤッパリ結構デス」
そんな会話が聞こえたのを最後に、私の意識は冷気の中に閉ざされました。
私も――死なないハグが欲しいです。
『死にましたー』
暗転から復帰すると、扉は既に開いていました。
全員が中には入らずに外で待機してくれています。
「この中に入れば召喚施設の一つに転移できる。ココだけの特別仕様だ」
身格好を整えてから中へと入っていくと――瞬間的に景色が変わりました。
少し待っていると全員がやってきて、現在は正四角形の鉄の部屋。
「……ケホッ。それじゃあ開けるぞ」
出口らしき扉にカードキーを使ったマキロンさん。
――が、どれだけ待っても扉が開きません。
「ま、まずい」
「まさか?」
「区画の損傷が酷いのか魔力回路が届いていないようだ」
「つまり……?」
「閉じ込められた」
苦笑いを浮かべながら青い顔をしているマキロンさん。
それはきっと、ずっとしている咳とは関係ないものなのでしょう。
「き、緊急用の脱出口は!!」
「今現在居るこの場所が緊急用の出入り口だ」
「という事は、まさか、つまり?」
「閉じ込められた。脱出する方法は無い」
「ふんっ。この扉は蹴破っても良いのか?」
「見たところ近接型では無いようだが……いけるのならやってくれ」
「くくっ、普通なら無理だが、今の私には――このブーツがある」
得意な顔で笑みを浮かべているシルヴィアさん。
あのブーツ、やはり普通のブーツでは無かったのでしょう。
思えばシルヴィアさんはあのブーツを手に入れてから、かなりの戦闘をしていました。
だというのに傷一つ付いていない白いブーツ。
曲がりなりにもサタンちゃん特性の品です。
特別な効果を持ったブーツなのかもしれません。
「やるぞ」
地面に足を着けて右足を大きく振りかぶったシルヴィアさん。
シルヴィアさんは……お色気担当だったのでしょうか。
見ているだけなら無料の白い下着がモロ見えです。
「いくぞ――フッ!!」
小気味良い掛け声と共に放たれた、シルヴィアさんの殺人キック。
ドッゴーン!! と耳を塞ぎたくなるような轟音が響き――。
厚さ一メートル以上はありそうな扉の下部が捲れ上がりました。
シルヴィアさんのキックによって、ヒト一人が通れそうな隙間が開いています。
「……まぁ、今の私ではこんなものか」
微妙に不満気なシルヴィアさん。
シルヴィアさんのイメージでは扉が吹き飛ぶ予定だったのでしょう。
「信じられん……! この扉がこんなにも簡単に壊されるだと!!?」
その一方でマキロンさんは驚き顔。
この防壁にかなりの信頼を持っていたのかもしれません。
「外の様子は……酷い有様ですね」
扉の下部から外を見てみると、何もかもがグチャグチャになっていました。
血、肉、骨、それから何らかの設備。
それらが全て混ざり合いっているミックス肉団子状態。
部屋の外に続く扉は熱で焼切られたように破られています。
その周囲を重点的に数えきれない肉片が転がっていました。
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