『記録』一
サタンちゃんにひとしきり笑われた後、私は少し離れた場所に復帰しました。
爆発された地点には結構な損傷を受けているフード付きローブが落ちています。
さようなら幼女おっさん。
ただいま戻りました、便座カバーヘッドのおっさん。
「え、ええっ!? い、今のが平気なんですか!?」
偶々近くを探索していたのか、驚いたような顔して立っていたミリィさん。
――まずい場面を見られてしまいました。
このままだとドン引きされてしまうのは必至。
とはいえ平気だ、と答えれば嘘になってしまいます。
「平気かどうかで言えば、一度死んでいるのでなんとも……」
「…………」
「ミリィさん……?」
返答を間違えてしまったのでしょうか。
俯いてしまい、プルプルと震えているミリィさん。
――おっと、マイサンを隠し忘れていました。
「あ、あのっ。体が動かしにくいとか、どこか痺れてるとか。死にそうな程苦しかったりとかっ、しっ、しませんかっ!?」
顔を上げてそう言ったミリィさんの目尻には何故か涙が溜まっています。
状況が全く理解できません。
一体どうしたと言うのでしょうか……?
「心配して下さらなくとも全然平気ですよ……?」
「っ……!」
丁度その時、他の場所を探索していた皆が騒ぎを聞きつけて集まってきます。
私はシルヴィアさんが足にぶら下げていたバックパックを漁りました、
着替えとダヌアさんから頂いたフード付きローブを取り出して着用します。
「オッサン! すごい爆音だったけど大丈夫か!?」
「トゥルー君。ええ、何とか大丈夫でしたよ」
「な、なにがあったんだ?」
「突進して自爆してくる生物がいるようなので、探索には十分注意してください」
「わぁ、その焦げてる床が爆発した場所ね!」
「はい」
「傷一つ付いていないのだけれど、どんな素材で作られているのかしらっ!」
ナターリアにそう言われ改めて見てみれば――その通り。
爆発した地点には傷一つついておらず、少し黒ずんでいるのみです。
「防具として加工できれば、かなり強力そうですね」
「ふんっ。これは防具の素材には向いていないぞ」
「シルヴィアさん? こんなにも強度があるというのに、何故?」
「一片の重さが凄まじくてな、この強度に相応しい重量をもっている」
「そんなに重いんですか?」
「私以外ではまともに持ち上げる事も出来ないだろう」
「残念です……」
私が落ち込んでいると、不意に肩をつつかれました。
「あ、あのっ。気持ちが悪くなってしまって……その、ごめんなさい、帰ります」
「あ、ああいえ。私こそ嫌なものを見せてしまい申し訳ありませんでした……」
衝撃のダブルパンチ。それはそうでしょう。
目の前で死んだ筈の人間が別の場所から湧いてくるだなんて……。
客観的に見たら、かなり気味が悪いのかもしれません。
今までが何故か大丈夫であっただけ。
ミリィさんの反応こそが、きっと正しい反応なのでしょう。
……が、チクリと刺さるような違和感が拭いきれません。
一体なんの違和感なのでしょうか。
私が呆けている間にもミリィさんはどんどん離れていっています。
気が付いたら見えなくなっていました。
「んー? あの人、どうしたのかしら?」
「私が爆発に巻き込まれた後を見てしまったようで……」
「あらら」
「恐らく、アレで気分が悪くなってしまったのでしょう」
「うふふ。そう言えばわたしの時も目の前で溶けていたわね! 全然平気だったけれどっ!」
――そうでした。
ナターリアに背後から刺された時も溶けていたはずです。
だというのに全然平気だったというナターリア。
やはり、それだけのものを見てきたという事なのでしょうか。
「それで、何か見つかりましたか?」
「んー、死体と壊れた人形だけ。回収出来たのは最初の場所と殆ど変らないわ」
「調べていないのは、ミリィさんとオッサンの区画だけだよ」
ナターリアが言ったあとにそう言ったトゥルー君。
ミリィさんは……いえ、私が爆発していたので探索は進んでいないでしょう。
「では、慎重に探索をしましょう。爆発する動物が他に居ないとも限りません」
私とミリィさんが担当していた場所は二階の左側。
順番に扉を開けていくと――酒飲みのバーのような部屋を発見しました。
カウンターが一つあり、そこには椅子が六個ほど並べられています。
カウンター裏の棚には大量の酒瓶が並べられていました。
中は残っているらしく、かなりの数が残されています。
そうして部屋の中を調べていくと――。
――『グスタフ、お前はいい加減Joyの量を控えるべきだ』
――『黙れ! お前に俺の何がわかる……!』
唐突に椅子に現れたのは二人の男性。
両者共に白衣を纏っていて、片方は深緑色の髪の男性。
そして、もう一人は、くすんだ茶髪の男性です。
「お、おおお、おれっ! カウンターの裏のスイッチ押しちゃって……!」
「大丈夫ですよ、トゥルー君。恐らくこれは――」
椅子に座っている男性の肩を叩こうとして――すり抜けました。
「ホログラム。実体のない映像記録です」
「ほ、ほろぐらむ?」
「何かわかるかもしれません。少しだけ見ていきましょう」
――『このままじゃ正気に戻れなくなるぞ?』
――『お前には関係ない!』
――『今のお前をレリアとサリーが見たら、なんて言うか……』
――『二人は生きてるのか? クズ共に持って行かれたきり戻って来ていないが』
――『口に気を付けろ、お前の住民階級じゃあどうなるか判らんぞ』
――『フン。ここに来る物好きなんて、もう俺とお前しかいねぇさ。……で?』
――『……言えない』
――『だろうと思ったよ。どうせ生きちゃいないんだ』
――『…………』
――『運よく生きていたとしても高階級の住民様の玩具ってところか?』
――『いや……』
――『え? そこンとこどうなんだよ、マキロン様よォッ!』
――『俺はお前を友人だと思っている。だから――』
――『――ふざけンなッッ!! 二人の事を知ってて隠してやがる奴が友人だと?』
――『…………』
――『ハッ! それなら友人ごっこも今日限りで終わりだな!!』
――『……中次元』
――『あ……?』
――『二人は今、中次元の悪魔共を研究するのを手伝わされていると聞いた』
――『…………』
何も言わず涙をポロポロと流しだした茶髪の男性。
――『詳細は不明だが恐らくは、まだ生きているはずだ』
――『……死んでいた方がマシだったよ……』
映像はここで終わっています。
詳細は不明ですが重苦しい空気になる映像でした。
この場所には始めて見る貴重品が多く存在しています。
お酒類を中心に金目の物を全て回収しました。
変な映像と回収している場所が綺麗というだけで……。
こんなにも盗人のような気持ちになってしまうのは、何故なのでしょうか。
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