『思い出の白い鳥』三
「なぁオッサン、これってなんだ? 魔導機械ってやつか?」
片手で口元を押さえながら、トゥルー君が指差した先にあったもの。
それは、ボロボロに壊されたロボット? の様なモノ。
造形は女型ですが関節部分には球体間接が使われています。
ボディーや顔も鉄っぽい素材で作られているように見えました。
「シルヴィアさん、これは……?」
「魔導アンドロイドの残骸だな」
「魔導アンドロイド?」
「こいつらはある程度の知性が存在していて対応する物事に特化している事が多い」
近未来の男の夢とも言える、魔導アンドロイド。
それが異世界の、それも過去の文明に存在していたというのだから驚きです。
「見た限りだと、こいつは攻撃型だな」
「両腕が完全に無くなっていますね……」
「ふんっ、当然だ」
「当然……?」
「こいつのボディーはな、自身の攻撃力の高さに耐えられるように作られてはいない」
「えっ? それってつまり……」
「攻撃する度に自身を破壊し、最終的には自壊する」
「なんでそんな設計に……」
「私達に届く攻撃力を出そうとした結果だ」
「……なるほど」
「まぁコイツは、その最終段階前に破壊されたらしいがな」
シルヴィアさんにそう言われて見てみれば……確かに。
魔導アンドロイドの肩部分には焼けた跡のようなものがありました。
これが自身の行った攻撃の結果なのか、外的要因でこうなってしまったのか。
「おいっ、そいつの後ろで死んでる男を漁ってみろ」
「えっ?」
「この段階で護衛が残っていたという事は、多少は使える階級カードを持っている筈だ」
「い、遺体を漁るのですか……?」
「……? 今までだって何度かしていただろう。今更なんの抵抗がある」
確かにシルヴィアさんの言う通り。
私は、何度か殺した相手から物品を得ていた事がありました。
野盗のアジトから金銭を頂戴した事もあります。
それに紅いドラゴンの片足も回収して売りもしました。ですが――。
「うふふ、カードキーってコレの事?」
「ああそれだ。……ふんふん、そいつの住民階級は五だな」
「まぁ! 見ただけでわかってしまう物なのね!!」
にこやかな笑みを浮かべているナターリア。
透明なアクリル板のような物を遺体から抜き出しました。
私が嫌がっているのを見て率先してやってくれたのでしょう。
――ありがたいと思う半面、申し訳ない想いで胸が苦しくなってしまいます。
汚れ仕事を女性に任せて棒立ちしていたとは……。
なんとも、やるせない気持ちでいっぱいなりました。
「リア、ありがとうございます……」
「うふふ。わたしはこういう事には慣れっこだし、苦手な人にやらせる意味はないわ!」
……本当に、ありがたい気持ちで一杯です。
無性にナターリアを抱きしめたい気持ちでいっぱいになり……。
優しく数秒だけ抱きしめてから、ナターリアを解放しました。
「はふぅ……んっ。本当に平気なのだけれど……ありがとっ!」
以降は私も手伝って人数分のカードキーを入手。
その中に一つだけ住民階級七のカードキーがありました。
通路にはこれ以外にも、数体のアンドロイドが倒れているのを見て取れます。
遺跡の調査と言えば悪くとも墓荒らし程度のものであるハズなのですが……。
これでは誤って別の犯行現場に侵入してしまった泥棒の気分です。
「っと、部屋の中には何が……」
何か途轍もない力によって空けられた穴から部屋の中を見てみます。
内装自体は普通の私室であるように思えました。
が、中には複数の遺体が存在しています。
我が子に覆いかぶさるように殺されている母親が目に入りました。
「本当に、いったい何が……」
部屋を順番に覗いていくと、その内容は同じようなものばかり。
誰も入っていない部屋はかなり綺麗な状態で残されていました。
シルヴィアさんに扉をこじ開けて頂いて中に入ってみる事に。
部屋の中には用途の判らない物品が数多く存在していました。
あまり気は進みませんが、本来の要件であるが為にその物品を回収していきます。
「これも……回収ですかね」
私達一行は金銭を得る為にこの遺跡にやってきたのです。
綺麗事で生活はできません。
ほぼ全ての部屋を見終えた頃には、一つのバックパックが一杯になりました。
そして私達一行は、無事な部屋の一室で休息を取る事に。
「ふぅ……。バックパックの一つはここに置いていって帰りに回収しましょう。必要な物は私のバックパックに移し替えてください」
肉体よりも精神的に疲れました。
全ての遺跡がこんな惨状になっているのだとすれば、もう遺跡調査はしたくありません。
「オッサン、大丈夫か……?」
「ええ、少し疲れてしまっただけなので大丈夫ですよ」
心配げに問いかけて来るトゥルー君に、何とかそう言葉を返すことが出来ました。
「あまり大丈夫には見えないのだけれど……はい、珈琲」
「……有難うございます」
珈琲を差し出して来たナターリアには参っているのを見抜かれているのでしょう。
「遺跡の探索というのは、何処もこんな感じなのでしょうか……?」
ミリィさんの方を見て問い掛けてみると、ミリィさんは慌てたように口を開きます。
「ち、違います! 普通の遺跡はここほど状態が良くなくて、いつもはスクラップのような魔道具を回収するのがメインですよ……!」
今回のメンバーの中で最も冒険者としての経験がありそうなミリィさん。
盗賊職であるミリィさんがそう言うのであれば間違いはないのでしょう。
「という事は……」
「は、はい。かなりお金になるかと」
「精神的には厳しいですが、最初の一戦を除けば今の所は戦闘もありません」
「で、ですね!」
「まぁ探索を進めない手はありませんね。ふぅ……」
「あ、あと一つ、いいですか……?」
「はい」
「こ、ここって、他の人も依頼で後から来る可能性もあるワケですよね?」
「可能性としては、ゼロではないですね」
「せ、戦利品をここに置いていくのは、マズイんじゃ?」
「確かに……」
ミリィさんの言った事は当然の疑問です。
先に帰って行ったソフィーさんやヨームルさんのような方が来ないとも限りません。
とはいえ、これだけの大荷物をずっと持っている訳には……。
「救世者様、ここにはアンデッドも居ないようです。僕が荷物を持ち帰りましょうか?」
「ですが……」
「回復魔法を使えない僕ではあまりお役に立てないかと」
「〝猟犬群〟のみんながそれでいいのなら、お願いできますか……?」
廃教会組である〝猟犬群〟の全員から反対意見は出てきませんでした。
なのでフォス君はもう一つのバックパックがいっぱいになったら帰るという事に。
荷物が満載のバックパックは、それまでフォス君が持っているそうです。
しばらく休憩したのち、通路突き当りの扉前へとやってきました。
無数の物が散乱していて、バリケードを形成しようとした形跡があります。
バリケードは当然のように破られていました。
多くの物が破壊されて原型が無くなっています。
「ここの扉は破られていないのですね……」
「それはそうだ。逃げ遅れた住民たちが何度も扉を開けていただろうからな」
「…………」
それはつまり、この扉の向こうにも似た様な光景が広がっているという事。
……とはいえ扉を開けないという選択肢はありません。
カードキーを扉横にある黒い場所へとかざすと――自動で扉が開きました。
扉を開いた先に広がっていた光景は案の定の――地獄。
扉付近には大量の遺体が転がっていました。
遺体の全てが混ざり合っているかのようで、ゴチャゴチャです。
シルヴィアさんに足元を凍らせていただいて先へと進んでみると……。
この場所は広いホールのようになっていました。
中央にある噴水には水の代わりに血が溜まっています。
「――ッッ」
込み上げてきた吐き気を抑えながら部屋の中を見渡してみると……。
左右の壁付近の階段には手すりが存在していたのでしょう。
が、今は人が吊るされている、もしくは破壊された場所に人が刺さっているのみ。
一階部分は左右に通路が伸びていて、二階部分も左右に通路が伸びています。
噴水の裏側にはこの場所に入ってきたのと同じような扉が存在していたのでしょう。
が、それは強い力で突き破られたのか地面に転がっていました。
覗き込んでみると、その先の通路も確認できます。
「……まずは、ここも探索してみましょうか」
順番に探索していく事しばらく。
私はある部屋の前で生き物の気配を感じました。
部屋の扉は破られていません。
扉に耳を押し当ててみると――中からは、ゴソゴソと物音が聞こえてきます。
生存者。もしくは何らかの敵性存在がいるのかもしれません。
警戒しつつも背伸びをして住民階級七のカードキーを黒い部分に押し当てました。
プシッ、という音と共に扉が開きます。
その扉の中に居た存在は――――。
「コケ?」
――ッ!? ――――ッッ!? ――ニ、ニワトリ!?!?
その存在を妊娠した瞬間、全身の筋肉が硬直したのを理解しました。
何故こんなところに、私の天敵である鶏が存在しているのでしょうか。
熊であれば、虎であれば、化け物であれば……。
私はまだ、動くことが出来た筈なのです。
……ですが鶏だけは無理。もう一歩も動けません。
「コケ?」
ぴょこぴょこ……と、数歩近づいてきた鶏。
――あの丸い瞳。白い羽毛。
凛々しいトサカに鋭い嘴。間違いありません、奴は鶏です。
化け物鶏であれば……まだ大丈夫だったでしょう。
ですが普通の鶏だけはダメなのです。
来ないでください。声も出せません。
シルヴィアさんは現在、子供達の方に付き添ってもらっています。
――ボスケテ!
「コケ――――ッ!!」
ただの鶏が翼をバタつかせながら突進してきました。
次の瞬間――ふわり……と飛び上がった美しい白の鶏。
――やはり、鶏は空を飛べるのです。
見てください、あの鋭い爪を……。
見てください……あの、鋭い嘴を……。
◇
――鋭い嘴。
あの真夏の昼下がりも、鋭い嘴な日常でした。
青年時代の私最初だけ通う事の出来た、あの高校生時代。
そこはとある農業高校であり、畜産関係の授業が存在していました。
ケージに押し込められた鶏達。
その産み落された卵を回収する当番も存在していました。
私も随分と卵を回収したものです。
ですが、その時の私は鶏を恐れてはいませんでした。
全ての鶏が身動きの出来ないケージに入れられているのは当然の事ながら……そう。
肝心の嘴が、大きく切り捨てられていたのです。
それは隣に隣接する鶏を突いて傷つけ、ストレスを与えない為の処置。
しかし青年時代の私は、その哀れな姿に同情の念を抱いていたのです。
ショタっこ時代……のあの日。
小学校の鶏小屋で元気に走り回っていた、そんな鶏の哀れな姿。
それは、あまり見たいものではありませんでした。
――ありませんでした……ありませんでした……ありませんでした…………。
◇
気が付くと――――――白い閃光――――――。
――ドッ……ゴ――――ンッ!!
私は――赤い爆炎に包まれました。
――鶏は空を飛ぶだけでは飽き足らず、爆発する生き物だったようです。
鶏は一体どれだけのトラウマを、私に植え付ければ気が済むのでしょうか。
私のバラバラになった体が地面に転がります。
が、死なないどころか、意識を失う事すらできません。
思えば、サタンちゃんの体は心臓が動いていませんでした。
こんなになっても死なないとは、いったい……。
バラバラになった私は、目の前の妖精さんに強く願います。
――スカートの下を見せてください……と。
ピラリ、と捲れ上がる服の裾部分。
そこに見えまするは、レオタードのような美しい下着。
――いえ、全てが衣類ではなく肉体の一部であるのなら……。
今見ているものは、一体なんなのでしょうか。
――エッチなものだと、嬉しいみ……。
『死にましたー』
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