『思い出の白い鳥』一
「「……へっ?」」
何故か明るい部屋の中。きょとんとした顔で固まっているお二人。
壁と天井が光る素材で作られているのか持ってきた魔石灯は不要になりそうです。
それにしても……反射的に助けてしまいました。
敵にならないとも限りませんが、選択肢は多いに越した事はありません。
――しかし相手の魔物は、一体何なのでしょうか?
触手はおっさん花に似ているのですが、色が違います。
おっさん花は全体的に緑色なのに対して目の前の肉塊は赤黒い不気味な色。
ですが、どうして無視できない存在が――その周囲に居ます。
「シルヴィアさん以外、手を出さないでください」
触手による激しい攻防が続く戦闘。
こっちは二体のおっさん花で応戦しているというのに互角の攻防戦。
――二体の妖精の姿。
今でこそ僅かな違いが判りますが、妖精さんにそっくりな妖精が二体います。
この場にて彼女らが見えているのは、私一人なのでしょうか。
『デゲズダァァァァァ! デイナザロゴォォォォォォ!!』
泡混じりの奇妙な叫び声を上げた肉塊。
おっさん花との決定的違いは喋るという事でしょうか。
とはいえ、見た目はおっさん花に似ています。
妖精の存在から考えるに寄生種が存在している可能性も否定し切れません。
シルヴィアさん以外を戦闘に参加させるのは危険でしょう。
「そうだな、あれが普通だ。ご主人様のものはかなり変わっているぞ」
シルヴィアさんが何か言っています。
シルヴィアさんの言葉から察するに、アレはおっさん花に近しい存在なのでしょう。
「何でも良いのでシルヴィアさん! 早くアレを凍らせちゃってください!!」
「ん? ああ、【
瞬く間に形成された氷柱は赤黒い肉塊を飲み込んで氷漬けにしました。
ハミ出していた触手を落として距離を取ってからの【破砕】で制圧完了。
肉塊の破片が地面に溶けて消えると、二体の妖精も姿を消しました。
制圧は成功したのですが、妙な寒気が止まりません。
「た、助かりました。それで……あなた方は一体?」
人心地ついたところで青年が治療を終えて体を起こしました。
顔は、どこかやつれているようにも見えます。
格好はコゲ茶色の皮のコートにブーツ。
背中にある魔力銃が気になるところですが、まぁ今はいいでしょう。
「依頼を受けてやってきた、オッサンという者です」
「ブッキングか? いや、複数の場所に依頼を出していたというのが正しいのかねぇ」
女性の方はかなり派手な色彩の服を着ています。
色と見た目はともかく、雰囲気は研究員というところでしょうか。
「はい、私もそのように聞きました」
顎に手を当てて考え込んた女性。
見た目は完全に少女なのですが、恐らくは見た目通りではないでしょう。
「ふむふむ。……っと、自己紹介がまだだったねぇ。わしの名前はソフィー。〝ソフィー・フォイルゲン〟じゃ。それと、こっちは弟子の〝ヨームル・ヴァイレーン〟」
――名前からするに、お二人とも高貴な階級の出であるようです。
それにしても……『ソフィー・フォイルゲン』。
どこかで名前を聞いた事があるような――。
「のうお主、さっきの召喚物だが、もう一度呼び出してはもらえぬか?」
「なん……っ」
キラキラと輝く瞳で私を見つめてきているソフィーさん。
これはアレです、マッドなサイエンティストの瞳です。
「嫌です」
「むぅ。まぁ、今回は諦めるしかないねぇ……」
――今回は?
「オッサンとやら、お前さんは有名人の方のオッサンかねぇ?」
「えっ? 噂だとオッサンは中年の男性だと聞きましたよ?」
ソフィーさんの言葉に、そのように突っ込みを入れたヨームルさん。
「私がオッサンで間違いありません。今は特殊な薬品の効果で幼女化しています」
「ふむふむ。お前さん、〝寝ているだけの簡単なお仕事〟に興味はないかねぇ?」
――ッ!? 思い出しました。
彼女、〝ソフィー・フォイルゲン〟とは。
例の寝ているだけでお金が貰えるという、ヤバ過ぎる依頼を出していた人物です。
「金が欲しくなったら、わしに言うといい。特別報酬もつけてやろうて」
実際にその人物を見て抱いた感想としては……そう。
禁忌の魔術の実験台にされそうな、そんな雰囲気を醸し出しています。
「ま、まぁ、機会があれば……?」
「うんうん。こっちは一度撤収しようと思うとるが、お前さんらはどうする?」
「私達はもう少し進んでみようかと思っています。ちなみに護衛は必要ですか?」
「うんにゃ、ヨームル君が居れば十分だ」
そう言い残して去って行ったソフィーさんとヨームルさん。
深く関わり合いになりたくないお二人でしたが、助けることが出来てよかったです。
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