『遺跡調査(前)』一
ミリィさんとは二日後に集まる約束を取り付け、別行動になりました。
荷物の整理をするべく向かった先は、お世話になっているエルティーナさんの教会。
現在は外観が綺麗になっていて正規の協会に引けを取らない立派な佇まいです。
壁は雪のように白く、屋根は黒。
正規の協会は屋根の色が青色をしているので色で差別化したのでしょう。
と、出入口に立っていたポロロッカさんを発見しました。
私の接近に気が付いたポロロッカさんは驚愕顔です。
「お、おおおおおおお――ッッ!?」
「おっぱい、ですかポロロッカさん」
「…………」
「申し訳ありません。残念ながら私のおっぱいは品切れ中です」
「……その口調とその台詞、更には妖精さんと最高位精霊様まで。お前、オッサンだな?」
「他の誰に見えると?」
「…………」
「他の誰に見えると?」
「……サタンだな」
「…………」
思えばポロロッカさんは領主様の御屋敷でサタンちゃんを見た事がありました。
答えられないワケがなかったのです。
「で、どうしてそうなった?」
「サタンちゃん印のTSポーションを服用した結果――幼女化しました」
「……オッサン以外は使えそうもないな。何本残ってる?」
「あと二本です」
「……ふむ。使い方次第では依頼で役に立つだろう。遊びで使い尽くさない方がいいぞ」
「では残りの二本は必要に応じて、という事で取っておきます」
「それがいい」
そこまで話したところで、本題である遺跡調査に同行してもらうべく口を開きます。
「ところでポロロッカさん、お願いがあるのですが」
「……なんだ?」
ものすごく嫌そうな顔をしているポロロッカさん。
内容を告げていないというのにこの反応。
きっとこれも、シルヴィアさんが全部悪いのでしょう。
「酒場で遺跡調査の依頼を受けたのですが、二日後にご同行願えませんか?」
「……む、普通の要件か。だが悪い。二日後はリュリュとの依頼で別件がある」
「それは残念です」
「……遺跡調査という事は、索敵と罠感知が出来る奴が必要になるな。当てはあるのか?」
「はい、オークの拠点から救い出した女盗賊さんが居ます。その方にお願いしました」
「……実力的に不安が残る経歴だな」
「い、言われてみれば確かに」
「ふんっ。ある程度の罠なら、この私が発見出来るぞ」
「本当ですか!」
「それなら安心だ。頭数に不安があるのなら〝猟犬群〟の連中を誘ってみるといい」
「〝猟犬群〟に? 大丈夫ですか?」
「ああ、この前の防衛線でかなり実践慣れしたのか目に見えて動きが良くなってる」
「そうですか。では夕食後にでも誘ってみます」
シルヴィアさんにはポロロッカさんの隣に待機していてもらう事にしました。
幼女おっさんは教会の中に入っていきます。
教会の中で最初に顔を合わせた相手は――。
「えっ、誰……?」
トゥルー君。
「でもなんか見覚えのある……あっ! オッサンの使役精霊!!」
「少し惜しいですね。訳あって女体化していますが、私がオッサン本人です」
「えっ、オッサンが女の子になったの!? ……でも、本当に……?」
数歩近づいてきたトゥルー君。
それを見た妖精さんは黒い光に包まれ、小さな妖精さん形態になりました。
「本当ですよ。証拠と言ってはなんですが、竹トンボなどの遊び道具を作りましたよね」
「……! オ、オッサン!!」
トゥルー君が、にじり寄ってきます。
「オッサンが女の子……? ということは、おれが男のままでも……」
……ざわっ……ざわっ……。
「トゥ、トゥルー君……? 少し落ち着いて下さい」
「おれは落ち着いてるよ……? なんで後退ってるのかな、オッサン?」
トゥルー君の顔は獣欲に歪んでいて、ハァハァと息も荒くなっています。
一体、何があったと言うのでしょうか。
「お、オッサン!」
――ッッ! ほ、掘られる――!?
いつの間にか背後には壁が存在していて、もう逃げ道がありません。
妖精さんがクスクスと笑っています。
「か、かわ゛い゛い゛な゛ぁ゛オッサンは……!」
おっさんが可愛いというパワーワード。
貞操の危機を感じずにはいられません。
性別の相違という事で今まで抑えられていたナニかが爆発しそうになっています。
荒い息のままで、私に壁ドンを仕掛けてきたトゥルー君。
これは完全に――ヤる気まんまんです。
ですがこの体、口は上にしかありません。
……否、口は最初から上にしかありませんでした。
「トゥルー? あれ、その子はだぁれ?」
「リア! 良い所に来ました!! トゥルー君を止めて下さい!!」
「ぇ……?」
「邪魔しないでよナターリア、今からオッサンと遊ぶんだから……!!」
「……勇者……様……?」
「そうです、私がオッサンです! 信じてください!!」
変なおじさん、もとい、変なロリータではありません。
普通の幼女おっさんです。
「うふふ。勿論信じるわっ! トゥルーがそんなにも懐いているのだもの!」
……ほっと一安心。
九死に一生を得たとは正にこの事です。
「そ・れ・よ・り! 初めては女の子同士の方が痛くないと思うのだけれどっ!!」
――ピンチ・ハ・チャンス。19XX年~19XX年。
「割り込みはずるいよナターリア! 俺だってあと何年かしたら女の子に……」
――男の子は女の子になれませんよ、トゥルー君。
と考えたところで、トゥルー君が言葉を続けました。
「オッサンだって、女の子になれたんだから!!」
否定の言葉を発するのが難しくなってしまいました。
いけません。モテているのは嬉しいはずなのに、いけません。
可能であれば、モテ期の到来は女の子の時ではない方が嬉しいです。
マイサンが生存している間に、モテ期さんにお願いしたかったところ。
このままでは私の無い穴の貞操が危険です。
トゥルー君などは雰囲気から見るに――。
穴が無ければ空ければいいじゃない、くらいの勢いで来かねません。
他人の情事であれば兎も角、自身の身となれば話は別。
「オッサンが帰ってきたのですか? あら、その子は……」
エルティーナさん登場。
これでこの場も収束の方向に……。
「おかえり、おじさん! ……って、アレ? その子だれ……?」
コレットちゃんの乱入。それに続く多くの子供達。
この場が混沌としてまいりました。
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