『TS幼女おっさん』三
妖精さんの手を引いて歩くことしばらく。
ギョっとした顔をして逃げ出していくスラムの住民達は何人かいました。
が、何事も無くダヌアさんのお店に辿り着つことに成功です。
おそらくスラムの住民達は、シルヴィアさんを見て逃げ出したのでしょう。
私はダヌアさんのお店の扉を背伸びしながら開けて中へと入りました。
……やはり、同じ空間であるのに違って見えます。
周りの物が全て大きく見えて、子供時代を思い出してしまいました。
「いら……――ッ!?」
「マ、マスター!! すごいお客さんが来ましたよ!!」
固まるダヌアさんと慌てふためく謎鳥のヌーアさん。
「私に、ピッタリの靴を探しているのですが」
「……あ、ああ、靴ね。一応置いてあるよ」
「よかった」
「そっちの最高位精霊は街の上空で戦ってたのだよね。お客さん、すごい精霊使いだね」
「ああいえ、私、私ですよダヌアさん。オッサンです」
「えぁ……? えっ、嘘……」
「本当です」
「証拠は?」
「コレでは証拠になりませんか?」
シルヴィアさんが下げているバックパック漁って、ある物を取り出します。
それは――ダヌアさんから頂いた、予備のフード付きローブ。
「もしかして、そっちが本当の姿だったり……?」
「違いますよ。変化のポーションで一時的にこうなっているだけ、だと思います」
「ふぅん? 私もそのポーションのレシピとか、知りたいなぁ」
「現物はありますが、特別な方法で入手したものなので無理なんじゃないですかね」
近づいてきてしゃがみ込んだダヌアさんに、TSポーションを一つ渡してみます。
それをじっくりと観察していたダヌアさん。
が、溜め息を一つ吐いたのと同時にポーションを返してくれました。
「うん、さっぱり。原材料が何一つ思い浮かばないよ」
「ですよね」
「直感的にマネは不可能だって理解した……っと、靴が欲しいんだったね」
「はい」
「んー、これなんかはどう?」
棚の下にある収納から取り出された靴は、靴と言うよりはサンダル。
色は暗い感じの赤で、サタンちゃんにはよく似合うでしょう。
「では、それでお願いします」
「ん、オッケー。値段は、まぁ銀貨七枚でいいかな」
「たぶん魔法の品ですよね?」
「そうだよー」
「かなり安いですね」
「ポーションを見せてくれたので割引したのもあるけど、完全な売れ残りだから」
「このポーションのせいで金欠気味なので、助かります」
差し出されたサンダルを履いてみたところ。
やはりと言うべきか、サイズの自動調整の付与がされていました。
足にピッタリなサイズに変化して、履き心地も悪くありません。
「まいどっ!」
満面の笑みを浮かべるダヌアさんに代金を支払います。
そのあとは消耗品のポーションを少し買い足し、私は店を出ました。
お金が殆ど無くなってしまった私の向かう先は当然――ジェンベルさんの酒場。
◆
酒場までの道中は平和そのもの。
シルヴィアさんを見た住民はもれなく全員、脱兎の速さで立ち去っていきます。
が、彼女は我関せずという態度をしていて、全く周囲を気にしていません。
そうやって歩く事しばらく。
ジェンベルさんの酒場が見えてきました。
入口付近でたむろしていた冒険種達が転がるように酒場の中へ引っ込んでいきます。
酒場の扉を開けて中に入ってみると――。
「ゲェエエエエエエエエエエ――――!! マジで入ってきやがった!!」
もの凄い顔をして魔力銃を構えているジェンベルさん。
何もしていないというのに奥歯がガタガタといっているようです。
酒場内にいる半分以上の客が、カウンターの裏に退避していました。
各々のテーブルに着いている者たちもテーブルを倒して遮蔽物にしています。
面白い予感がするので、ここは一つ演技を披露してみるとしましょう。
存分の見てください。
たゆまぬ努力によって心身共に身に付けた――女児らしさ!
「うふふふふ。お兄ちゃんとお姉ちゃんたち、どうしてそんなに逃げているの?」
『『『…………』』』
「あらっ、わたしがハグしてあげよっか?」
「おいジェンベル! 早く撃て!! ありゃ完全にイカレてやがるぞ!!」
私の女児らしさらに興奮した一人の冒険者が、そのような事を言いました。
たぶん照れ隠しでしょう。
「だったらテメェがヤりやがれ!! あの最高位精霊をブチ抜いて生きていられる自信があンならなァッ!! オラ俺の愛銃だ! さっさと撃て!! バカがよ!!」
おやおや、ジェンベルさんも照れ隠しをしています。
可能であれば、もっとホンワカした空気になってほしいところ。
「誰が撃つか馬鹿野郎! 俺ァまだ死にたかねェンだよ!!」
「アリャ確か、この前の防衛戦で空を飛んでたヤツだろ?」
「〝肉塊〟の使役精霊だったてェ情報は何処まで慰安旅行に行っちまったんだ? エェ!?」
「うるせェエエエエエ!! 文句なら情報屋に言いやがれ!!」
辺りに怒鳴り散らして魔力銃を振り回しているジェンベルさん。
普段から荒くれ達を相手にしているせいで、ストレスが溜まっているのかもしれません。
「それにガキに手を引かれてる奴ァ、〝肉塊〟の野郎が連れていたのと同じだぞ?」
「ああ、それ以前によぉ。手を引いてる奴も、だいぶ似てネェか?」
「いや、まさか……」
「おいジェンベルてめェ、何に気づきやがった?」
「いやな。こいつら三体とも、オッサンの使役精霊なんじゃなねぇかと思ってな?」
『『『……有り得る』』』
「いえ、違いますわよ?」
「クソッタレ!! それで要件は何だ!? 飯か?! 仕事か?! それとも……男か……?」
「うふふふふ。男って言ったら差し出してくれるのかしら?」
『『『…………』』』
私の言葉に、シンと静まり返る酒場内。
そんな静寂を破ったのは、ジェンベルさんの呟くような声でした。
「おいテメェ、確かツケがあったよな。チャラにしてやるから行って来い」
「ふざけンなッ!! アレァ間違ェ無くファックのご要望じゃあネェぞ?」
「知ってるよ!」
「アレはなァ、そのまま腹を掻っ捌いて腸で縄跳びをするタイプのイカレファックだ!!」
「クズ一人の命で帰ってくれるってンなら安いって言ってンだよ! さっさと逝け!!」
何やら場が混乱してきてまいりました。
TS幼女を楽しむのはこれくらいにして、そろそろお仕事を貰いましょう。
「さて、では常識人トークはそろそろ止めにして、本題といきましょう」
「本題……?」
「お金が尽きたので、お仕事を下さい」
「……まさか、オッサン本人か?」
「その通りです」
「ふんっ。私と同じυ系統に、私と同じ容姿のやつは居ない」
「……ハァああああぁぁぁぁぁぁ。あ・ほ・く・さ……」
「おい、それは私に対しての宣戦布告と受けってもいいのか?」
「おおおわおわおわおわッッ、違う!! 今のはオッサ……いや、俺自身に対するものだ!」
「ふんっ」
「……チクショゥ、なんだって俺がこんな目に……」
カウンターの上に置いてあったお酒を一息に飲み干したジェンベルさん。
酒場のマスターというだけあって、お酒には強いのでしょう。
「よーし、もう何も突っ込まねェ。俺が疲労で死ンじまうからな」
「心臓に剛毛が生えてるジェンベルがなぁ……」
「おーいカルベック、俺ァまだ正気を保ててるか?」
「安心しろ。俺と同じくらいには正気だぜ」
「そりゃあ有難い! ようこそ俺、ガイキチ共の酒場へ!! ってか?!」
もう一杯グラスにお酒を注いで一息に飲み干したジェンベルさん。
酒場のマスターとはいえ、一気飲みは酔いが回りやすいのでしょうか。
「それで、今日の三つは?」
「今回は少し変わった依頼が入っててな、一定以上の実力者に紹介してる依頼があンだ」
「ほぅ……」
「勿論。断れば普段通り三つの依頼を紹介するぜ」
「ふむ。それで?」
――特別な依頼。
断ったとしてもデメリットが無いのなら、聞かない理由がありません。
「先日の騒動のあとに発見されたらしいんだがな。町の中……いや、正確に言えば町の下に遺跡が見つかったってぇ話しだ。んで、今回の依頼はその調査依頼。報酬は成果次第だが一応金貨二十枚は約束されてる」
町の下に遺跡が発見されたという点を除けば普通の調査依頼です。
報酬も金貨二十枚と悪くありません。
「真っ当な上に、かなり高額報酬ですね?」
私の問いに、ジェンベルさんが顔を近づけてきました。
そして、そのまま小声で……。
「ああ。表ざたには出来ない場所に入り口があってだな、その教会の遺体安置所からその遺跡に繋がってるらしい。可能な事なら隠密に安全を確保して封鎖しちまいてェって話だ」
要するに臭い物には蓋をしたい、という依頼でしょうか。
「なるほど。それで此処にその依頼が来たワケですか」
「遺跡ってのには大抵がどこかの通路にゲートキーパーがいやがる」
「それが実力者を募集している理由ですか?」
「ああ、しかもこれがかなりツエェときた。最低限コイツを倒せば金貨二十枚」
「なるほど……」
「無理ならタダ働きしたついでに、そのまま弔ってもらえるってェ寸法だ」
「どうせ弔ってもらえるなら美人のシスターさんにお願いしたいですね」
「ククッ。そう言う奴には必ず厳つい神父が付くってのが相場だぜ」
「違いない」
酔いが覚めてきたのか、そのような冗談を言ってきたジェンベルさん。
人相の悪いあくどい笑みを浮かべています。
「遺跡内部に入るってンなら罠だってある筈だ。一定以上の実力者を連れて行け」
「私単体ではダメなのですか?」
「遺跡を甘く見るな。一応言っとくが、盗賊系の奴は絶対に一人は入れろよ?」
「ふむ……」
「……で、どうする?」
「受けない理由がありませんね」
「よし、決まりだ」
依頼の手続きを完了した後、ミルクをちびちびと飲みながら適当な席に座ります。
隣の席には妖精さんが座り、シルヴィアさんは私の背後で待機中。
市場にもミルクは売っているのですが、ここのミルクの方が美味しいです。
味の良いミルクを一人で堪能していると、向かいの席に誰かが腰を下ろしました。
「あのぉ……」
「ん、ミリィさん?」
「い、遺跡調査の依頼、ご一緒してもいいですか? わ、罠を発見するのは得意なので……」
ミリィさんはオークの拠点から救い出した女性の一人。
確か盗賊職をしていると聞きました。
何かあれば力になると言ってくれたのは覚えています。
が、しかし、これは少し難しいところ。
一人であれば多少無理な探索も出来るでしょう。
ですが他の人を入れれば安全の為に人数を増やさなくてはなりません。
申し訳ないのですが、ここは断るしか――。
「あ、あのあの。ダメ、ですか……?」
――ッッ!!
前のめり気味に問い掛けてくるミリィさん。
胸はあまり大きくはないのですが、私のの視線が低いというのもあってか。
マニア心を刺激する谷間が、ちらちらと見えてしまっているのです。
谷間の奥は確かに暗くなっているのですが……ッ。
うっすらと見えているのはお腹でしょうか。
それは確かにお腹であって、あまりエッチなものではないのかもしれません。
が、谷間の先に見えているお腹は、すごくエッチなモノなのです。
――とは言え、私は強固な意志を持って戦場を戦い抜きました。
そんな私からしてみれば、これは些細な誘惑。
こんなソフトな誘惑に負けるはずがありません。
「それでは、よろしくお願いします」
「嬉しいです!」
席から立ち上がって私に抱き着いてくるミリィさん。
――私も嬉しいです。
やはり見た目が良いのでしょうか。
本来の私の姿であれば、抱き着いてはくれなかったでしょう。
何やらシルヴィアさんがミリィさんを見ながら変な顔をしています。
いえ、気のせい、もしくはハグを取られて不満があるだけでしょう。
私はしばらくミリィさんのハグを堪能した後、酒場を後にしました。
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