『TS幼女おっさん』二
場所はサタンちゃんの天幕の中。
今回も私は見事にハメられてしまったのです。
「何なんですか、さっきの子たちは……」
「ヒッヒッヒッ。バイトだナ! それもお前さんが釣れそうな選りすぐりのヤツらダ!」
「それはどうも……」
「浮かない顔だナ。〝繋がり〟の無い同族の中では最も、お前さんに近い連中ダ」
「妖精さんやサタンちゃんの同族ですか?」
「ああ。だが一応言っておくとだナ、あんなに増えた責任はお前さんにあル」
「私に……?」
「そう。お前さん幼少期の頃、祈れそうな場所で片っ端から祈らなかったカ?」
確かに幼少期の私は、様々な場所で祈りを捧げています。
祈れそうなそれっぽい場所があれば必ずと言っていいほど祈っていました。
「はい……」
「その幾つかの場所で〝当たり〟を引いた訳ダ」
しかし祈りが届いた事は、一度もありませんでした。
もしかしたら、私が祈り始めたあの時から。
ここでこうしているのは決まっていたのかもしれません。
「ヒッヒッ、じゃあ金貨を全部だしナ」
「どうぞ……」
チャリ、と小さな音を立てる金貨袋。
「うん、少ないナ。それじゃあ今回の商品は――これダ!」
サタンちゃんが懐から取り出したものは三本のポーション瓶。
中の黒い液体は相変わらずで、元気に蠢いています。
時々人の顔のようなものが浮き出て見えるのは気のせいでしょうか。
回復のポーション……ではないでしょう。対価が少なすぎます。
「コレは?」
「ヒッヒッヒッ。サタン印の――TSポーション、ダ!」
――TSポーション!?
「そ、そそそそソンソン、それはまさか――!?」
「その通り。中に変身したい相手の何かを入れれば、同じ外見になれル」
「よくあるものだと髪の毛とか? ですが……少し抵抗がありますね」
「んや? 対象が生成した魔法の水でもオーケーだ。勿論、唾液でも代用可能だナ」
「おぉ……!」
「た・だ・し、くれぐれも他人に使わせない事ダ」
「またそれですか……」
「女体化させる事は出来るが、半端じゃなく寿命を縮めさせる事になル」
「普通に毒じゃないですか」
「ナニ、この世界に来て二週間以上生きた事の無いお前さんには対して変わらんだろウ」
「…………」
私の寿命は二週間以下。
カナブンですら八ヶ月以上も生きると言うのに、それ以下。
昆虫以下の時間しか生きられていない事に今更になって気が付かされました。
「悲しいみ……」
「ヒッヒッヒッ!! ちなみに何も入れずに飲めば、アタシに近い姿になれるゾ」
「使い道があるかは判りませんが、適当に使ってみます……」
三本をバックパックの適当な場所へと詰め、サタンちゃんの天幕を出ます。
何時ものように出たあとで天幕の中を確認してみると……。
当然のように頭蓋骨が増えていました。
この頭蓋骨は本当に何なのでしょうか……?
「ふぅ、少し喉が渇きましたね」
私は皮水筒をバックパックから取り出そうとして――。
その代わりにTSポーションを取り出しました。
そうです、サタンちゃん印のTSポーションを。
「百聞は一見にしかず、とも言いますからね」
……一口……――――ッッ!?!?
蓋を開けて口を近づけた途端――全ての液体が流れ込んできました。
生き物のように無理やり体内へと侵入してくる液体を止めるすべなど、ありません。
「――ッ――ゴホッ! ゴホッゴホッ!! 一体何が――ッ」
途端に意識が遠のいてきます。
やはり、だだの毒だったのでしょうか。
無意識に手を伸ばしますが、それが何かに触れることありませんでした。
――意識が途絶えます。
◇
――届かない祈り――。
それは私が保育園に入る前の事。
お線香臭い仏間では何時も、御婆さんか御爺さんがお祈りをしていました。
お祈り癖はその影響なのでしょう。
――なにしてるのー?
――これは仏様とご先祖様にね、家族を守ってくれるようにってお願いしているの。
――ふーん、お願いをしたら叶うの?
――自分の為じゃ駄目。でも人の為を想ってしたお願いなら叶えてくれるかもね。
――僕も祈るー。
倒れる父親、倒れる母親。
倒れる……妹。
そして……最後に倒れてしまったのが、私。
白い病室で顔に被せられた白い布の光景。それが三回。
広くなり過ぎた自宅では、祈る事を止めた男が一人。
過去に祈った内容はいつも同じような内容で――『家族が幸せでありますように』。
もしくは――『家族が平和でありますように』。
思えば黒い影が視えるようになったのは、祈りを捧げるようになってからでした。
◇
「――ッ」
一体どれのくらいの時間、意識を失っていたのでしょうか。
立ち上がって体を見てみると……手足が小さくなっていました。
そして明らかに近くなっている地面。
元々着ていた服は全て脱げています。
現在の私は、サタンちゃんと全く同じ格好をしていました。
服の下を確認しよう衣類をはだけさせようとしたのですが――脱げません。
まるで体の一部だと言わんばかりの接着具合。
――否。実際に体の一部であるようです。
可能な事と言えば、フードの着脱とパンチラくらい。
体がどうなっているのかを触診で確かめてみましょう。
息子が消失しているのに関しては想定内。
が、それ以外の全ても存在していません。
乳首しかり、下腹部の双丘しかり。
……この体、一体どうやって排出行為をすればいいのでしょうか。
驚いた事に下の穴が一つも存在していません。
まるで全裸タイツを着ているかのような体。
私は全身をくまなく調べてしまいました。
顔にには口、耳、鼻としっかり存在していて、穴も存在しています。
恐らく食事を摂るのには支障が無いのでしょう。
体内に取り込む事はできるのに排出が出来ないとは如何に。
健全過ぎるサタンちゃんのお体に落胆を禁じえません。
妖精さんが服を着たままお風呂に入ってくる理由が、たった今判りました。
服を脱がない、のではありません。
複を脱げない、というのが正確だったのです。
逆に言ってしまえば、それは全裸である事の証明でもあるのではないでしょうか。
つまり妖精さんは現在、全裸に黒ニーソ+黒ブーツのみという格好。
……ハァハァ。
「少し歩き難いですね……――ッ!?」
ブカブカのブーツに不満を言ってみたところ、自身の声に驚いてしまいました。
そう、その声はサタンちゃんの声であり、いつもの私の声では無かったのです。
「お、おちんちん……」
「…………」
褐色幼女形体の妖精さんからの冷たい視線が突き刺さります。
しかし一度目くらいは許して頂きたい。
そして二度目は罵って頂きたい。
「何にせよ新しい靴が必要ですね」
――近くに靴屋か何かは……。
と思って辺りを見渡してみると、ダヌアさんの魔道具店が近いと気が付きました。
早速移動を開始しようとバックパックを持ち上げ……?
持ち上げ…………上がりませんでした。
力は見た目相応の筋力しかないのか、全くもって上がりません。
領主様のお屋敷で力を振るったサタンちゃんには、かなりの力があるよう見えました。
なので、サタンちゃん自身に力が無いという訳ではないのでしょう。
なのに何故か、現在の私は超が付く程の非力。
見た目相応の力しか出すことが出来ません。
「ふんっ。随分と小さくなったな?」
シルヴィアさんが姿を現しました。
自身が小さくなっているからなのか、シルヴィアさんがとても大きく見えます。
いえ、シルヴィアさんだけではありません。
妖精さんもかなり大きくなっているように見えました。
妖精さんの身長は、私よりも少しだけ小さいくらいの身長。
宙に浮いているシルヴィアさんのパンツは何時もよりハッキリと見えています。
が、マイサンが存在していないので反応のしようがありません。
「持ち上がらないのか? なら私に言えばいい、運んでやる」
そう言ってバックパックを足に引っかけて下げてくれたシルヴィアさん。
「有難うございます」
「……ふんっ」
普段から高飛車な雰囲気を纏っているシルヴィアさん。
が、根っこの部分は本当に優しいのです。
これも一種のツンデレというやつなのでしょうか?
女友達にするのなら、これ以上無い最高の相手でしょう。
出発するべく数歩歩いてみたところ。
妖精さんが褐色幼女形体のまま、ぽてっぽてっ、と付いてきます。
何故に妖精さんの形体へ戻らないのでしょうか。
さり気なく手を差し出してみます。
「…………」
ジト目のまま手と私の顔を交互に見てきた妖精さん。
少しだけ間は空きましたが、ぷにっと握って下さいました。
これだけでもTSポーションを飲んだ価値があったと言えるでしょう。
――嬉しいみ。
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