『理不尽な闇の手』一
多くの子供達を引き連れ、私は城門を目指します。
当然のように城門前のバリケードは破られていました。
増えた子供の数に比例して深くなる――ヒトの闇。
城門からなだれ込んできた魔王軍が……近づいてきては闇に飲まれていく。
悲鳴を上げる間も無く虚無の闇に飲まれて消え去る者達。
逃げ出す魔王軍を、真っ暗な地面から這い出してきた人影が捕まえました。
ソレの全長は二の腕くらいの大きさしかありません。
常にゆらゆらふわふわと揺れ動いていて誰かを誘っているような動きをする何か。
「こ、攻撃が通らねェ……ッ!!」
「グギッ! グゲゲッ!!」
「ヌオォォォオオオオオオ!!」
魔王軍を闇の底に引きずり込んでいる黒い影には見覚えがありました。
妖精さんが元居た社に通い始めて取り壊されるまでの短い期間。
一人になると必ずと言っていいほどに姿を見せた、謎の黒い影。
それが壁を、地面を、空を。
縦横無尽に走り回るその姿は無邪気な子供のようにも見えています。
――妖精さんの知り合いなのでしょうか?
と思いながら空を見あげたら、シルヴィアさんが女神像の上にいるのが見えました。
◇◆◇
信仰都市、アークレリックの上空。
住民らによって作り出された光源が夜闇を照らしいるため視界に不備は無い。
まぁ、シルヴィアにしてみれば夜闇だろうと昼間同然に見通す事ができるのだが。
現在のシルヴィアは千を超える魔王軍飛行戦力の猛攻に晒されていた。
「ええいッ! 鬱陶しい奴等め!」
が、そんな猛攻の最中に、シルヴィアの視界に入ってきたものは――女神像。
「……ん? アレは、LG超魔力兵器V-13型、か……?」
とはいえ、それなりのダメージを与えてくるドレイクンを全て退けた今。
シルヴィアが敵の殲滅を成功するのは時間の問題だ。
ただし殲滅までに時間を掛けてしまえば、それだけ町に出る被害は大きくなる。
そうなれば契約者である男は悲しみ、ハグをしてくれなくなる可能性があった。
逆に成果を挙げれば肌の接触を増やしてくれるかもしれない。
そんな打算から生まれた殲滅欲。
少しでも早く空の敵を殲滅すべく何か使える物が無いかと見渡した結果。
そうして見つけた物が――女神像だった。
空を埋め尽くしている魔王軍を退けて女神像の上へと降り立ったシルヴィア。
確認してみると女神像の内部には膨大な量の魔力が貯め込まれていた。
「【魔力浸透・カートリッジ化】ハッキング成功。よしっ……!」
魔力パイプを連動させて女神像内部の魔力を自身の物として扱えるように改造。
その負荷によって女神像が淡い輝きを放っている。
何か一つでも間違えていれば魔力はこの場で爆発していただろう。
大勢を巻き込んで巨大なクレーターになっていたのは必至。
だが今回は成功した。
その次の瞬間――。
「【緊急魔力装填! 警告! 友軍は直ちに退避せよ!】」
それは遥か昔、何者かによって定められた決まり事。
彼女は女神像から膨大な量の魔力を吸い上げて攻撃を放つ準備を開始する。
「くくっ! 見せてやろう、かつてC-H3型宇宙戦艦をも撃ち落とした、この私の全力を!!」
大きく魔力を吸い込んで胸を物理的に膨らませるシルヴィア。
シルヴィアは口を開き――ソレを放つ。
「【ジェノサイドッ……ブラスタァアアアァァァァアアアアアアアアアアア――――ッ! ――――――――ッッ!! ――――ッッッ!!】」
空をも撃ち抜いてしまいそうな青白い光の奔流。
そんな圧倒的な光の奔流が空を薙ぎ払うようにして放たれた。
町全体を覆うような強い閃光が消えた空を見てみれば、何一つ残っていない。
「……ククッ……まぁ……瞬間的な戦果としては、十分だ……な……」
高度を維持する事ができずに町の中へと落ちていくシルヴィア。
体内のエネルギーも全て攻撃に回してしまった為、しばらくは体も動かせない。
シルヴィアは確かな手ごたえと共に……意識を手放した。
◇◆◇
空を閃光が覆ったかと思えば、シルヴィアさんの墜落していく姿が見えました。
まぁ、彼女は丈夫な体をしているので恐らくは無傷でしょう。
子供達を連れて戦闘音の方へと向かって歩いていると――。
東側の城門付近に辿り着きました。
戦況は芳しくなく、その殆どの戦場が防戦一方になっています。
私が城門前の広場に辿り着いたその瞬間。
トロールによって振り下ろされた巨大な棍武器で人が潰されて弾けました。
「うおぉぉぉぉぉぉ――ッ! 【ソードストライク!】」
そのトロールの脳天に剣を突き入れたのは聞き覚えのある声をした全身鎧。
隊長の――フリードさん。
隊長はトロールの頭を何度も切りつけ、油を掛けてから魔法の炎で燃やしました。
「大型は俺に任せておけッ! お前たちはオーガに対処!! 雑魚は衛兵部隊に任せろ!!」
派手に動いて敵を翻弄している隊長。
他の強者たちもそれに習って動いています。
が、このままでは数で押しつぶされるのも時間の問題でしょう。
私は闇と子供達を率い、城門前の広場へ突入しました。
「オッサンか!?」
一歩足を踏み入れただけで加速度的に広がって魔王軍を飲み込んでいく虚無の闇。
黒い小さな影が縦横無尽に駆け回り――敵を闇の中へと引きずり込みました。
――響く、何者かの笑い声。
それは形も無く、笑う事のできなかった者達の笑い声。
負傷して倒れている者の傍では、その黒い影が心配するように覗き込んでいます。
そんな情を感じさせられる動作をしている影も何体かいました。
闇に飲み込まれているのは――魔王軍だけ。
最初こそ反撃を考えて突撃してきていた魔王軍も多くいました。
が、それを無意味だと感じたのか逃げ出す者が出てきます。
徐々に押し返していく戦線に、広がり続ける闇。
城門まで押し返した所で、その角笛は鳴らされました。
「撤退ノ合図ダッ!」
「コンナ化ケ物ノ相手ナンカ、シテラレン!!」
「体制ヲ立テ直ス為ノ撤退ダ! 再侵攻マデ怯エテ待ツガイイ!!」
波が引いていくかのように魔王軍は撤退を開始しました。
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