『不幸か幸福か』一

 手近なスケルトンをおっさん花の触手で薙ぎ払います。

 すると、それは民家の石壁に激しく衝突して四方八方に砕け散りました。

 妖精さん操るおっさん花は触手で骨の頭部を締め上げて圧力で割っています。


「あの召喚物は……オッサンか!?」

「うん、他に居たら嫌だよね」


 ヨウさん、ニコラさんのペアが何やら言っています。

 その方向をチラリと見てみると、おっさん花の乱入で余裕が出来たのでしょう。

 防衛陣の一部を形成していた冒険者らが、ここぞとばかりに飛び出していました。

 スケルトンらは砕かれ、バラバラに。

 自由になったヨウさんとニコラさん。

 二人の戦闘能力は凄まじく、その姿は正に――二つのハリケーン。

 特にニコラさんとクレイモアも組み合わせがチート級です。

 自身の身長よりも長い大剣を振り回している様などは圧倒されるばかり。

 細身の体であるというのに大きな大剣を振り回すニコラさん。

 その華奢な体のどこから、そんな力が湧いて出てくるのでしょうか。

 そして、クレイモアに振り回されない圧倒的な腕力と技術力。


「ここの助けは要らなかったかもしれませんね……」


 凄まじいペースで骨を処理している妖精さん操るおっさん花。

 私の操るおっさん花とのスコア差は三倍以上に膨れ上がっています。

 一方で防衛陣から飛び出した冒険者もかなりのベテランなのでしょう。

 かなりのハイペースでスケルトンを処理していっています。

 その中には二人の子供を抱えて城門を目指していた男冒険者の姿もありました。


「ぐはははっ! これは楽勝だな! なんせ、この俺様がいるのだからな!」

「ラルク、残念な子に育って……!」

「舌を噛んで死んでも知りませんよ」

「……アホはほっとけ」

「オイ、てめェらァッ!!」


 ヨウさん、ニコラさんのお二人と共闘していた四人組も発見しました。

 私が冒険者らの様子を窺っているのに気が付いたのでしょう。

 妖精さんから注意の声が飛んできました。


「……ちゃんと仕事して、これだからロリコンは困る」

「ごめんなさい。ちなみに私が見ていたのは男性でしたよ」

「…………」

「いや、そこで黙らないでくれませんか?」


 城壁の外で妖精さんと心が通じた気がしたのは気のせいではありませんでした。

 妖精さんは少しだけフレンドリーに言葉を投げかけてきてくれます。

 妖精さんが万が一サタンちゃんタイプの性格であったのなら――。

 男を見ていたという発言に対して「うわっ」くらいの事は言ってきたでしょう。

 ニコラさんのチラリと見える太股が、お美しいです。


「えっ!? なに!!? なんかすごい悪寒!?」

「ニコラ、お前って自分に関係無い事には妙に勘が悪いよなぁ……」

「――フッ! っと、キミがロリコンだって話だよね?」

「スケルトンを斬りしながらとはいえ……! 馬もビックリな耳してんな、おい!」


 激しい戦闘を繰り広げながら、ヨウさんとニコラさんがちちくりあっています。

 妬ましさで人が殺せたのなら、きっと二人は死んでいた事でしょう。


「これは、恋なのでしょうか……?」

「……たぶんちがう」


 私が数度の瞬きをしている間にも、スケルトンの数は目減りしていっています

 残すは、とある一角のみ。殲滅に成功するのは時間の問題でしょう。

 が、そこには防御を固めているスケルトンらが集まっていました。

 その一番後ろには他のスケルトンとは一味違うスケルトンがいます。

 太くて固そうな上に異常に骨の本数が多いスケルトン。


「突然あそこから湧き出してきたんだ! 何かあるぞ、殲滅しろ!! 【指揮官の号令!】」


 不思議な力が湧き上がる騎士さんの掛け声。

 それに合わせて攻撃を激しくさせる冒険者と兵士さんら。

 私も合わせておっさん花を操って対応しようとしたのですが――。

 飛び出したニコラさんが大型のスケルトンに接近して瞬く間に対象を無力化しました。

 シルヴィアさん並に理不尽な筋力です。

 現在残っているのは、その後始末のみ。

 それほど時間もかからず、ほぼ全てのスケルトンを殲滅する事に成功しました。

 が、妖精さんと私とでスケルトンを倒した数の差は四倍近くになっています。

 スケルトンらの残党を始末する間に空を見上げてみれば……。


「やっぱり彼女は別格ですね……」


 丁度黄金色のドラゴンが地面へと落ちていところ。

 黒いドラゴンもかなり瀕死になっているご様子。

 シルヴィアさんは戦闘の最中に余裕があったのか少し回復しています。

 町の上空で激しくぶつかり合っている町の飛行戦力と魔王軍の飛行戦力。

 様々な魔術が飛び交う大空は極彩色の地獄色に染まっていました。

 被弾した誰か常に地上へと墜落していくのが目に入ってくるという最悪の光景。

 その中でも一際目立つ一つの影。

 巨大な烏に乗り、リッチー数体とヴァンパイア数体に追いかけ回されている魔術師の姿。

 魔道具店の店主――ダヌアさんです。

 ダヌアさんの乗り物にされているのは恐らく使い魔店員のヌーアさん。

 原型が全くありません。

 隼以上の速度で飛び回るヌーアさんの背に乗っているダヌアさん。

 杖を敵へと向け、青い炎を連射しています。

 リッチーはそれに対して魔術的な防御術式を展開したようなのですが……。

 青い炎はそれを突破し、リッチーは地上へと墜落していきました。

 ここで一回り大きい赤いドラゴンが、シルヴィアさんへ向かって行くのが見え――。


「見ろよこの穴!」

「なんだこりゃ?」

「バカッ! 下水道よ!」

「ってぇと奴等は、ここから町の中に入ってきたってェ訳かッ!」


 声の発生源にまで行ってみると一人が丁度通れそうな穴が開いていました。

 穴からは、そこはかとない臭気が漂っています。

 妖精さん形体になった妖精さんが、クスクスと笑い声を響かせました。


「うわっ、えっ、それじゃあ、これからもジャンジャン増援が来るってこと……?」

「城壁が意味を成してないのか。最悪だな」

「ヨウさん、ニコラさん。侵入経路の大元は私の仲間が封じてくれました」

「オッサンの仲間か?」

「ええ。今町の中で暴れている骨を処理すれば追加の骨は、あまり来ないと思います」


 私がそう言うと数人が穴を覗き込み、その下を確認しました。


「という事は、いま下水に残ってるスケルトンを倒せば増援は来なくなるのか……」

「よ、ヨウ君。ボク、臭いのは嫌いだなぁ……」

「俺も嫌いだ。でも誰かは行かなくっちゃいけないだろ? なら俺は行く」

「うぅ……くさいのが付いちゃっても嫌わないでね……?」

「美少女であるニコラが外的要因で臭く……!? えっちだ……!!」

「えっ!? キミってばそいう趣味もあったの!!? 初耳! で…………本気?」

「いやいや、深く考えてみると、かなりの男に需要があると思うぞ」

「ないから! 絶対にないから!! 特にキミには『いい匂いだ』って言ってほしいッ!」

「ニコラ……良い匂いだ」


 ヨウさんの、その言葉に数歩後退りをしたニコラさん。


「ヨウ君、ドン引きだよ……!! そして――変態だよ!!」

「……理不尽だ」


 ヨウさんが渋い顔をしています。


「よし、それじゃあ聞いてみよう。ニコラが下水道に行って一時的に臭くなったとする! それを深く考え――えっちだと思った奴は手を上げろっ!」


 私は真っ先に手を上げて一番乗りです。

 ――否、一番最初はヨウさんなので私は二番目の男でした。

 最終的にはこの場に居る半数以上の男性が手を上げる結果に。

 ニコラさんは「なんでこんなに変態が多いのさ……」等々、愚痴を言っていました。

 が、ブツブツと言いながら穴を降りていく、ニコラさんとヨウさんの姿。

 それに続いて両脇子供抱え冒険者と四人組の冒険者も降りて行きました。

 更に続いて十人近くの冒険者も下へと降りていっています。


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