『夜襲』二
出てきたおっさん花の合計六体。
妖精さんに演出をお願いした成果で地面には赤黒い魔方陣が広がっています。
まぁそれは、何の効果も無い見かけ倒しの魔方陣なのですが。
「私が派手な演出と脅威となる力を見せつければ視線も自然と集まる筈です」
「名案だ!」
「俺達の死亡率が上がるけどな!」
「あんだぁオメェ、まさか生きて帰るつもりだったとは驚きだ!」
注意をこちらに引き付けられれば護衛対象も安全になるでしょう。
それに、狙いがこちらに集中すれば戦力の消耗も抑えられるかもしれません
予想外の成果として慌てた敵が総攻撃の合図を出しました。
それが反撃の合図だとでも言わんばかりにクロスボウを放つ護衛達。
敵の居場所が多少なりとも判明したでしょう。
「妖精さんは隊全体の守りをお願いします!」
「……わかった」
妖精さん操る四体のおっさん花は後方への移動を開始。
おっさん花の数は馬車一台につき一体の計算です。
私との強い繋がりを持っているおっさん花は二体。
こちらは私に操作権があるので側で待機させます。
「不気味なのが行ったと思うがオッサンの召喚物だ! 協力して戦ってくれ!!」
私を守っているお三方の内の一人が、そう声を張り上げました。
全体的に緑のおっさん花ですが生えている私の上半身はおっさん色。
まぁ……多少の自覚はありました。
が、他人に大声で不気味だと言われると複雑な気持ちになってしまいます。
各馬車の中にあった魔石灯が高く掲げられ、多少の視界の確保に成功しました。
周囲には複数の魔石灯の明かりが見えています。
――ターンッ! ターンッ! ターンッ!
「っ!?」
音に驚いて頭を下げてしまいましたが、盾を構えているお三方が弾いてくれました。
発砲音が三回、そして弾いた音が三回。
つまり現在銃を撃ってきているのは三人。
銃持ちの全員が私を狙っているのが確定しました。
今のところ作戦は成功していると言っていいでしょう。
「弾が見えてるのですか!?」
「光だ! 発射口が一瞬光るからそれで判断してる!」
「今のは運が良かっただけ、次も止められるとは限らねェぞ!!」
お三方が構えている大型の盾は木箱の裏にあった物です。
助っ人である私が三人以上の戦闘能力を持っていた場合の大盾。
まさか私を守る壁が用意されていたとは思いもしませんでした。
「お前ら目を凝らせ! 発射光を絶対に見逃すな!!」
「「おう!!」」
――ターンッ! ターンッ! ターンッ!
何処からか、パリンッという何かが割れる音が聞こえてきました。
別の場所では鞭使いの男性が怒声を上げています。
「魔石灯が撃たれた! 光源を狙われてるぞ! 魔法陣の光源を頼りに何とか対処しろ!! 最悪仲間は切っても構わんが――オッサンの召喚物は切るな!!」
そこらかしこから聞こえてくる怒声と武器と武器が打ち合う音。
視界の共有化をしたおっさん花を一体、魔術が飛んできた方向へと向かわせます。
おっさん花の赤く染まった視界に明かりの有無は関係ありません。
全体をはっきりと見渡す事が出来ています。
「オッサン、四人来たぞ!!」
「あまりこういう台詞は言いたか無いが全力で守ってやる! 攻撃は任せたぜ!」
「何にせよオッサンの死亡は輸送任務の失敗を意味してやがる、期待してるぞ!」
「お任せください、こう見えても昔から――期待には応えてきた方ですから!」
防衛手段として残しておいた二体目のおっさん花の視界も――共有化。
複眼的に見えるおっさん花の視界は、脳の処理に多大な負荷が掛かります。
それでもまぁ、今はなんとか操れるでしょう。
赤く染まった視界に映る全く別の光景。
もし痛みを感じる体であったのなら今頃は頭痛で蹲っていた事でしょう。
「暗闇が不利にならないのは――私も同じですよッ!!」
近場のおっさん花で目の前にまでやってきた四人を薙ぎ払い、追加攻撃。
――が、ドスッドスッドスッと地面に触手が刺さるばかり。
突き刺し攻撃は全て避けられてしまい命中しませんでした。
それどころか、相手は地面に突き刺さった触手を剣で斬りつけてきます。
「クソッ、何だこりゃ!? 固すぎんだろッ!!」
しかし、おっさん花の触手は――無傷。
装備もばらばらな襲撃者達ですが連携はバッチリと取れています。
動きから見るに何人か一組の集合体なのでしょう。
森に向かわせた方のおっさん花が杖を持っている魔導師を発見しました。
杖を手にブツブツと呟いている者達に対して触手を伸ばしての攻撃を開始します。
迎撃で飛んできた魔術や矢などの攻撃がおっさん花に命中。
しかしその攻撃に対しても、おっさん花は――軽傷。
おっさん花は魔術師二人の頭部を触手で捉え、頭を引き抜きました。
攻撃が通用しないと判断するなり逃げだした魔導師達。
おっさん花はそれに追撃を仕掛けます。
「オッサン! 来たぞ!」
間近くから聞こえてきたそんな声と、何か固いものがぶつかり合う音。
それ反応して近場のおっさん花で自分の居る位置を見てみます。
二人の襲撃者が私を守っている盾を殴りつけているところでした。
おっさん花の足止めで残っていた二人を薙ぎ払い、おっさん花を急行させます。
そしてその無防備な背中に――触手を突き刺しました。
「ご、ぼっ……」
「ぐッ……」
一人は体をビクビクとさせるのみになりました。
が、もう一人は剣で触手を切断せんと剣を振りおろしてきます。
当然、その程度の攻撃で簡単に切断される触手ではありません。
――ターンッ! ターンッ! ターンッ!
三発がおっさん花の上半身に命中。頭部に二発、胴体に一発。
胴体には穴こそ開いていますが、血は流れ出ていません。
そして視界が生きているという事は頭部も吹き飛んではいないのでしょう。
狙撃を無視して触手を体内で暴れ回らせ、グチャグチャに掻き混ぜました。
「ぐががががッガギギギギギギィィ――――!!?」
剣を手放して目を剥いてガクガクと震える襲撃者。
二人が痙攣するのみになったのを確認したのち、触手を引き抜きました。
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