『強欲な者』三

 一通りオーバーニーソックスの穿き心地を確認していたシルヴィアさん。

 そのシルヴィアさんが何かに気付いたかのように生地を引っ張りました。


「む……肌の色が透けてるな」


 シルヴィアさんが穿いている白のオーバーニーソックスは本当に生地が薄いです。

 なので、当然のように透けて見えている白い御足の色。

 生足も捨て難い事ながら、オーバーニーソックス越しに透けて見える御足は……そう。

 とてもとてもエッチだと言えるでしょう。

 通常なら服や下着は透けておらず、そのステキな肌を優しく包み込んでいるもの。

 衣類で隠された肌を見ようものなら瞬く間に捕まってしまうはず。

 が、生地の薄い白オーバーニーソックスは違います。

 たとえ肌が透けていたとしても――。

 そしてそれを見ていようとも、人生が詰みとなる可能性は限りなくゼロ。

 透けている地肌が見える。

 実のところこれは、下着を見る以上の価値があるではないでしょうか?

 つまりオーバーニーソックスは下着よりもエッチ。

 間違いありません。


「ふんっ、この靴下は気に入ったぞ。生地が薄いくせに丈夫で肌触りも悪くない」

「それはよかっ――」

「ヒヒッ、ご主人様が踏んでほしそうにしているナ」


 ――なんと?


「ふんっ、良いだろう。さっさと横になれ」


 ――なん、ですと……?

 何故に私が踏まれる流れになっているのでしょうか。

 記憶にある限り、シルヴィアさんの御足に触れて生きていた記憶がありません。

 しかし、悲しきかな。

 こんなにもお美しい御足を前に、横にならないという選択肢などある訳もなく。

 私は言われるがまま、仰向けになって寝転がりました。


「ふんっ」


 ふみっ。

 第一足、顔面にヒット!! 大弾炎! 大弾炎!

 火の手が弾薬庫にまで広がりました!!

 顔面に置かれたその御足は優しく、相手を気遣うように置かれています。

 きっと力を入れるとどうなるかを加味しての御配慮でしょう。

 ひんやりと冷たく、息苦しくない程度の力加減の圧力。

 それでいて餅のように絶妙な感触の柔らかさ。

 香りは殆どありません。

 が、しいて上げるとすれば上質な氷や雪の匂いでしょうか。

 ――ふみっ。

 顔の形を確かめるように少しだけ動かされたシルヴィアさんの御足。

 過去のこの世界に。

 こんなにも美しい美少女に、顔面を探るように踏まれた人物が居るのでしょうか?

 ――否! 居るはずがありません。

 そんなド変態は一度牢屋にぶち込まれるべきです。


「経験者は語る、ってやつだナ」

「心ふぉよふぁふぁいでくらさい」


 ……ふみふみっ。

 足の指が動かされ、額部分が軽く押されました。


「……ぉぉ……」


 シルヴィアさんが小な声を漏らしました。

 いったい何があったというのでしょうか。

 ――そういえば、顔が凍て付いていません。

 シルヴィアさんも同じ事を思ったのでしょう。

 サタンちゃんの方を向いてシルヴィアさんが口を開きました。


「これは、私の与える冷気が殆ど遮断されているのか……? すごいな、この靴下は」


 ふみふみふみふみふみふみふみふみっ。


「私からの冷気は遮断しているくせに、相手からの温かさと感触は伝わってくる……」


 シルヴィアさんは宙に浮き、両足で私の顔面をこねくり回しはじめました。

 視線が遮られていない僅かな時間に覗き見る事ができた光景は――絶景。

 前世で氷の洞窟を進んだ先で見た景色以上に、絶景でした。

 下から見上げている御かげで見える純白の世界。

 それはオーバーニーソックスと下着との間に生まれ出た、ぷにっと感。

 この体勢であれば、それをより深く味わう事が可能です。

 また、それを引き立てているオーバーニーソッスの大変素晴らしいこと。

 影で暗くなっている太股の付け根からの下着は、この体制でなければ見られません。

 これはいわば、〝秘境〟と言っても過言では無いのではないのでしょうか。


「シルヴィアさん、せっかくなので私を踏みながら、罵倒してみてください」

「ん? 良いのか?」

「はい、全力でどうぞ」

「分かった。……ん、こほん……」


 顔面をふみふみしながらシルヴィアさんが小さく咳払いをしました。

 普段から少し高飛車な感じのシルヴィアさんからの罵倒。

 きっと素晴らしい罵詈雑言が飛び出す事でしょう。


「ふ、ふんっ。……ばーか」

「…………?」

「あほ! おっさん? んっと……バカ! アホ! バーカバーカ!!」


 おっさん? というのは罵倒に含まれてもいいのでしょうか。


「…………」

「あっ! アンポンタン!」

「……もういいです、シルヴィアさんは絶望的に罵倒するのがヘタですね」

「ふんっ。仕方ないだろう、相手を罵倒する言葉なんて教えられたことが無いからな」

「才能から自然と出てくる人は出てきますよ……」

「私はニンゲンじゃない。それに大抵の場合、罵倒をする前に殺してるしな」

「いえ、流石にそこは順序が逆でお願いします」


 シルヴィアさんは不満そうな顔をしていました。

 不満気な顔をしながらも、私の顔面をフミフミし続けています。


「サタンちゃんなんかは罵倒とか得意そうですよね」

「ヒヒッ、人並みだナ。あぁ、サービスで無知な娘に罵倒の言葉を教えてやろうカ?」

「お願いします」

「ヒヒヒッ。――――……」


 机の上に立ったサタンちゃんがシルヴィアさんに耳打ちで何かを言っています。


「ふむ……わかった。いくぞ、オッサン」

「どうぞ!」

「一人でオナニー、カワイソウ、ちんぽこカワイソウ!」

「…………」


 鳥肌が立ちました。

 キャラ崩壊が甚だし過ぎで背中から嫌な汗が出て来てしまいました。


「あのーシルヴィアですけどー、まーだ――」

「ストップ! ちょっと待ってください! キャラが崩壊しまくってます!!」

「なんだ?」

「色々と違いすぎますよ! サタンちゃん、どういう事ですか!!?」


 カウンターの上に腰掛けているサタンちゃんは不敵に笑いってます。


「ヒッヒッヒッ、サービスだからナ。対価を貰えばちゃんとするサ」

「このままじゃ不完全燃焼です! 何でもするので――お願いします!!」

「良いだろう……ん、ご馳走様ダ」


 そう言ったサタンちゃんは再びカウンターの上に立ちました。

 そのままの姿勢でシルヴィアさんに耳打ちで何事かを吹き込みんでいるサタンちゃん。

 今度は本当に大丈夫なのでしょうか。


「ふむ、さっきの言葉は忘れてもいいんだな?」

「勿論ダ」

「昔いた一部のニンゲンも、α型対して今教えられたような言葉を仕込んでいたな」


 きっとその一部の人間は私の同志になれることでしょう。

 α型というのがよく分かりませんが、きっと素敵な方に違いありません。


「これもニンゲンの習性か? ……まあいい。それじゃあ――いくぞ」

「はい!」

「――変態! ロリコン! 性癖倒錯者!」


 ――ッッ。

 き、基本は抑えてきたというところですか。


「私みたいな完璧美少女に罵倒して欲しいだなんて、お前にプライドが無いのか?」


 ――ッ! ――――ッッ!? ――――――ビクンピクン。


「くくっ。ああそうか、プライドが無いから踏まれているというのに笑えるんだな」


 白い歯を見せ、Sっぽく笑うシルヴィアさん。

 自分の事を完璧美少女だと言っている点も個人的にはポイントが高いです。

 自然と笑みがこぼれ出てきてしまいました。


「気持ちが悪いな。何だ? 踏まれながら罵倒されているのに喜んでるのか?」

「――は、はいっ!」

「はぁ……救いようの無いニンゲンだな」

「もっと!!」

「もっとだと? お前はお願いできる立場だと思っていたのか?」

「す、すいません……!」

「もっとして欲しいのなら――私の足を舐めろ!」


 これはもう不可抗力、全力で舐めます。

 ペロペロペロペロペロペロペロペ――。


「……おい、よく分からんが、なんか気持ち悪いぞ」

「ぐぅッ! 演技っ気の無い冷たい視線が!!」

「私の知る限りお前のようなニンゲンは、ニンゲン失格と言われていたな」


 ふみふみ。

 ぺろぺろ。


「今度は人間失格扱いですか!!? くっ! やりますね!!」

「なんだ、その、気持ちの悪い……いや、気味の悪い笑みは」

「言い直してそれですか!? シルヴィアさんの気遣いが突き刺さりました!! 嬉しい!」

「うわっ……」


 そうしてしばらくの間、シルヴィアさんの罵倒踏み踏みプレイを堪能しました。

 踏まれ続けていることしばらく。

 シルヴィアさんは一通り満足したのか、今度はとブーツを履きました。


「なるほど、確かにこの強度は強力な武器になるな」


 ――武器?


「この靴があれば雪山の頂でお前を蹴ったとき、爆散させる事が出来ていただろう」


 ――ッッ。

 どうやらシルヴィアさんのキック力が大幅にアップしたご様子。

 蹴られた相手が爆散する?

 足の先に爆弾でも仕込んでいるのでは、と疑ってしまいます。

 見た目は普通の白ブーツなのですが、きっと何かがあるのでしょう。


「ヒッヒッ、今回貰い過ぎた命の対価は……これをくれてやろう」


 そう言ってサタンちゃんが手渡してきたのは――人形。

 頭頂部に髪が無く、便座カバーのように髪の毛が生えている……そんな人形。

 どこかで見た覚えのある人形です。


「これは?」


 ――控えめに言って、要りません。


「お前さん以外の所持者が致命傷を負ったその時、僅かなデメリットを対価に一度だけ身代わりとなってくれるアイテムだナ。お前さんが渡したい相手に持たせてみロ」


 ――要ります。


「では妖精さんに……」

「ヒッヒッヒッ、それは無効ダ」

「……それでは、シルヴィアさんに持っていてもらいましょう」

「使う前に、壊れるゾ?」

「…………」


 いったい誰に渡せというのでしょうか。

 やっぱり要りません。

 が、黙ってバックパックの中へと人形を仕舞い込みました。


「ヒッヒッヒッ、ゴミを渡されたみたいな顔だナ」

「いえ、そんな事は……」

「仕方のない奴ダ、それじゃあこれもつけてやろウ」


 そう言ってサタンちゃんが懐から取り出したのは――折り畳み傘?

 サタンちゃんはそれを広げて、私に見せてきました。

 黒地の傘には白猫が描かれていて、妖精さんはそれを見て三富を輝かせています。

 私は受け取った折り畳み傘を、そのまま妖精さんへと手渡しました。

 嬉しそうな妖精さん――の口の中へと消えていった折り畳み傘。


「ヒヒッ。それじゃ、また金が貯まったらナ」


 暗転。

 暗闇が晴れ、気が付いたら私は大通りに立っていました。


「あの空間、やっぱり少し特殊ですよね」


 確認してみると、杖の頭部分にはシルヴィアさんの魔石が収まっていました。

 シルヴィアさんも現在は魔石の形体に戻っているようです。

 今の妖精さんも褐色幼女形体ではなく小さな妖精さんの形体。

 当然、周囲には一般人の姿もありました。

 最初の時と同じように天幕の中を覗いてみると……。

 中央に落ちている頭蓋骨が二つに増えている点を除けば変化はありませんでした。

 ビックリするほどに不気味な天幕です。


「さて、お金もできましたし、ダヌアさんの魔道具店に向かいますか」


 クスクスと笑うことで返事をしてくれた妖精さん。

 私は妖精さんを頭の上に乗せ、魔道具店へと向かって移動を開始しました。




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