『強欲な者』二

 前回来た時と同じ内装をしている天幕の中。

 カウンターの上には商品が二つだけ置かれています。

 あんなにも多くの手が出てきていたというのに、天幕の中にある人影は一つだけ。

 その人影の正体は紺色の旧型スクール水着を着たサタンちゃん。

 お腹の白い部分に平仮名で『さたん』と書いている最中です。

 ――たった一度でいいので書かせて頂きたいところ。

 水着を着て待っているというよりは言葉を真実にしました、というような状態。

 その事実が非常に気になります。


「いらっしゃイ」


 いえ、この素晴らしい光景を前にしてみれば、それは些細な問題でした。

 お店のカウンターにしては珍しい四脚タイプのカウンターの下。

 そこが気になって仕方が無くなってしまった私は、自然とその下を確認します。

 これは人間的には自然な動作であるので、何も問題は無いでしょう。


「本当に人間的カ?」


 サタンちゃんが書いている『さたん』という文字が、上下逆さまなのも些細な問題です。


「うわ、本当だナ……」


 カウンターの下に広がっていた光景は楽園エデン

 むっちり褐色太股が旧型スクール水着に締め付けられているという……。

 本当に素晴らしい光景が広がっていました。


「ヒッヒッヒッ。相変わらずの変態だナ」

「有難うございます!」

「……さて、それじゃあ今回の商品を紹介するゾ」


 そう言って紹介して下さった商品は、カウンター上にある二点。

 白のオーバーニーソックスと、白のブーツ。

 その二点を見て少しだけ落胆してしまいました。

 とはいえ、今回は買わずに済みそうだと思い気を取り直します。


「今回の商品は白ですか、妖精さんには似合わないのでは?」

「ヒヒッ、勿論似合わないとも。これはお前さんの、もう一人の仲間のものだからナ」

「……? もう一人の仲間、ですか?」

「オイオイ、酷いやつだなお前さん」


 呆れたような態度を見せるサタンちゃん。

 妖精さんは似合わないとハッキリ言われても特に表情を変えていません。


「いいカ? 想像してみロ」


 そう言って手渡してきたのは白のオーバーニーソックス。

 ――ッ!?

 白のオーバーニーソックスはしなやかかつ、しっとりとした質感で、丈夫。

 それでいて生地は薄く、少し伸ばせば生地の向こう側が透けてしまう絶妙な仕上がり。


「ヒッヒッヒッ、気づいたカ?」

「こ、これはまさか……!」

「そう、そのソックスを白い肌を持つお仲間さんが穿いたら、どうなル?」


 白い肌を持つシルヴィアさんが白のオーバーニーソックスを穿いている姿?

 この薄い白生地の向こうに透けて見えるであろうシルヴィアさんの白い御足。

 絶妙に締め上げられて、ぷにっと感を出すであろう太もも。


「――犯罪級です!!」


 その御足に踏まれたくないと思う人間はどこの世界にも居ないでしょう。

 素晴らしい組み合わせになること間違いなしです。


「ヒヒッ、良いと思うだろぅ犯罪者……じゃなくて、お前さん」

「ええ、完璧です。……でも、お高いんでしょう?」

「ヒッヒッヒッ! 勿論! お値段なんと――お前さんの金貨と白金貨全て!」

「まぁお得!」


 ――白目。


「このオーバーニーソックスに、さ・ら・に! 白ブーツも付いてお値段変わらず!」

「変わらず?」

「お値段なんと、お前さんの金貨以上の硬化――全てダッ!」


 ノリノリのサタンちゃん。

 旧型仕様のスクール水着を着てセールストークをする少女姿のサタンちゃん。

 もの凄い絵面です。

 ですが今回は、全ての硬貨を巻き上げられる訳にはいきません。


「サタンちゃん、一つ提案があります」

「なんダ?」

「対価として私の命を差し出すので、金貨じゅ……二十枚は残して頂けませんか」

「――ッ!?」


 驚いたような顔で固まってしまったサタンちゃん。

 ――二十枚は欲張りでしたかね?

 と思わず心配になってしまいます。

 私の命に金貨二十枚ぶんの価値があるとは思えません。

 ――悲しいみ。

 しばらくの間固まっていたサタンちゃんでしたが……。

 ゆっくりと普段通りの顔を取り戻し、口を開きました。


「……良いだロ、十五枚までは見逃してやろウ」

「十分。それでお願いします」

「ヒヒッ、じゃあさっそくで悪いが頂くゾ」

「どうぞ」


 私は服を脱ごうとして――止められました。


「ヒッヒッヒッ、脱がんでいイ」


 次の瞬間――。


『死にましたー』


 瞬く程度の一瞬の暗転、からの同じ位置での生き返り。

 服等を整え金銭を支払った私は、可能であればそうしたい、という事を言います。


「サタンちゃん、この場でシルヴィアさんに試着してもらう事はできないのですか?」

「ん? 杖は持ってるナ?」

「はい」

「ヒヒッ、なら大丈夫だ。少し待ってロ」


 何事かをブツブツと呟きだしたサタンちゃん。


「ん、これで出てこられる筈ダ」


 サタンちゃんがそのように言った数秒後。


「ふんっ、随分と嫌な空気の場所だな、ご主人様」


 微妙に不機嫌な感じのシルヴィアさんが姿を現しました。


「早速ですが、これを穿いてみてください」

「何だ? ……あぁ、靴下か。それに靴も」

「はい」

「ニンゲンは謝罪の気持に物を送ると聞いたが、私に対するそんな気遣いは無用だぞ」

「いえいえ、私がシルヴィアさんに穿いて欲しいのです」

「……ふんっ。わかった、特別に穿いてやろう」


 そう言って目の前で白オーバーニーソックス穿いていくシルヴィアさん。

 妖精さんと同じく無防備――どころか、少しだけ宙に浮いているシルヴィアさんッ!

 シルヴィアさんの無防備純白パンツが丸見えです。

 是非とも……是非ともッ! お美しい足の付け根をしっかりと見せて頂きたい。

 出来る事ならば顔をうずめ……たいとは、顔から凍ってしまうので思いません。


「これでいいのか?」

「はい、眼福でした」

「それにしても驚いた。この靴下は恐ろしく丈夫だ。それに、私の冷気をものともしない」

「今シルヴィアさんが着ている服や下着と、似たようなものなのでは?」

「いや、私が着ている服はヤークトハンターとお前達が呼んでいた生物のものだ」


 なんとなく想像は出来ていたのですが、予想的中でした。

 という事はつまり――下着も予想通りなのでしょう。

 が、私は言葉で聴きたいので問いかけます。


「ちなみに下着は?」

「下着はヤークトフォックスのものだ」


 ――ッッ。

 恥ずかしげもなく下着の材質まで教えてくれるシルヴィアさん。

 本当に……本当にどうして私は、死なないと彼女に触れられないのでしょうか。

 でなければ……でなければ……ッッ!!


「それ以外に私が着る事のできる衣類を知らないのだが、この靴下はどちらでもないな」


 そんな事を言いながらソックスの口ゴム部分を引っ張ったりしているシルヴィアさん。

 本当に、本当に眼福だと言わざるを得ません。

 肌の接触があると辛いシルヴィアさんですが、見ているだけなら癒されます。

 一度でいいので、ソックスのゴムの間にある隙間になってみたいところ。



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