『危険人物は誰だ』二

 暗闇から復帰すると、場は完全に制圧されていました。

 リュリュさんは私兵の三人で逆ハーレムを形成しています。

 完膚なきまでにリュリュさんの虜になっている私兵三人組。

 リュリュさんの逆ハーに、是非とも私を加えて頂きたいところ。


「なんか悪寒が走ったわぁ~」

「……そうか、俺はお前の魅了と目の前で溶けたオッサンを見て悪寒が走ったぞ」

「オッサンだしぃ、溶けて回避ぐらいするんじゃないのぉ~?」

「……ありえん」

「まぁわたしも、全裸なのは気になるわねぇ~」


 ――死ぬと体が溶けていたのですね。

 と心の中で呟きながら、落ちている服とフード付きローブを着用。

 服とローブには心臓の辺りに大きな穴が空いていました。


「……あれはどうやって避けたんだ? 前と後ろに穴が空いてるんだが??」

「わたしが知るワケないでしょ~。それに、きっと知らない方が良いことだわぁ」


 そんな事を言いながら近づいてきたリュリュさんは、何故か針と糸を持っています。

 リュリュさんは私の服に空いた穴を、その針と糸で塞いでくれました。


「ちなみにぃ、服と皮膚を縫い合わせると面白いわよぉ~」

「――!?」


 思わず縫い合わされていないか確認してしまいましたが、大丈夫でした。

 きっとリュリュさんなりの冗談か何かなのでしょう。


「妖精さんが言っていたのですが、三人組は子供達に繋がっているかも、とのことです」

「……妖精さんが、か」

「はい、三人組からその辺りの情報とかも聞き出せたりします?」


 リュリュさんの方に視線を向けると、当然というような顔で頷いてくれました。


「勿論よぉ。ただし同僚や上官、親友、それから恋人。その秘密を誰とも共有していなくて、本当に話せないものは難しいわぁ。……まあ、そしたら拷問ねぇ~」


 柔らかな笑みを浮かべて縫い針をいじるリュリュさん。

 とても家庭的な雰囲気を纏っているのですが、悪寒が止まりません。


「心配しなくても大丈夫よぉ~、爪の隙間全てに針を差し込んで吊るされた自分の腸を見せてあげればぁ、どんな機密でも超ペラペラ喋ってくれるわぁ~」


 リュリュさんの大丈夫だという言葉が何一つ大丈夫に聞こえてきません。

 本当に大丈夫なのでしょうか……?

 腸と超を掛けているジョークは、ブラックが過ぎて怖すぎます。


「……おい誰でもいい! こいつに奴隷の首輪を嵌めてくれ……!」

「えぇ~、赤頭巾ちゃんプレイはこの前やったでしょぉ? オ・オ・カ・ミ・さん」

「……頼むから黙ってくれ」


 やったのでしょうか、赤頭巾ちゃんプレイ。

 マイサンが、他人の情事でイキリ立ってまいりました。

 猟師役でいいので是非とも参加させて頂きたいところ。


「ま、言わなかったらの話よぉ。悪人なのは確定なんだしいいでしょぉ?」

「……まぁな。こいつらからは悪人の臭いがした」


 言っている事が難しくて付いて行けません。

 とはいえ、一つだけ分かった事もあります。

 それは、兵士達が情報を吐かなかった場合は――拷問が始まるということ。


「さて、あなた達の中で拷問を受けたくないのは誰かしらぁ? 色々教えてもらうわよぉ」

「「「勿論、何でも聞いてくれ」」」


 ……。

 …………。

 ………………。

 リュリュさんの質問に対して一切言い淀む事無く、ぺらぺらと答えてくれた私兵三人組。

 その様子を見ていたポロロッカさんは物凄く渋い顔をしています。


「……まとめるとこうか? 領主の指示でオッサンを領主の屋敷に連行し、地下牢に閉じ込める。……で、子供に関しては別の私兵の管轄だから詳細は知らない、と」


 全員がゴチャゴチャと話していたので纏めてくれて助かりました。

 ……これはもう、完全に確定でしょう。


「ん~、臭いわねぇ。子供を攫うにしても、スラムの子なんてマグロにもならないわよぉ」

「男の子も誘拐されているのですが……まさか、この町の領主にはそういう趣味が?」

「……可能性はゼロじゃない」

「ちなみにぃ、わたしは女の子でも平等にイかせてあげられるわよぉ~」

「……頼む、もう一人でいいから常識人を寄越してくれ」


 額に手を当てて俯いてしまったポロロッカさん。


「ポロロッカさん、私では役不足なのですか?」

「……いや逆に、お前は本気で常識人枠のつもりだったのか?」

「ええ勿論!」


 頭が痛い、というように頭を抱えて溜息を吐いたポロロッカさん。

 これはもう常識人力をアピールするしかないでしょう。


「これでも昔は仲間内で開催された、『チーム内常識人自慢大会』、別名『ドンドンパァアンツ! 決定戦』で、私は三度も優秀した事があるのですよ」


 その言葉を聞いて更に渋い顔になったポロロッカさん。


「……突っ込みたい部分は多いが、まずは一つ。お前、本当に優勝したのか……?」

「本当です、新人が入ってくる度に行われていた由緒正しき大会でしたよ」


 訝し気な顔をして、まじまじと私を見てくるポロロッカさん。

 かなり全力で疑っているご様子。

 そんなポロロッカさんを見たリュリュさんはかなり楽しげな顔をしています。


「常識人を語る人程ぉ、常識人からかけ離れているって誰かが言ってたわよぉ~」

「……だな」

「ちなみにこの中ではぁ、わたしが一番の常識人ねぇ~」

「……よし解った、その大会の参加者は全員ヤバイ奴等だ」


 ポロロッカさんから自分だけは常識人でいようという空気が伝わってきました。

 誤解されてはいけないので、きちんと否定しておきましょう。


「いえ、そんな事はありませんでしたよ」

「……じゃあ準優勝した奴はどんなやつだ?」

「そうですね、マトリョーシ姦について延々と語る危険な男性でした」

「マトリョーシ姦ってなぁにぃ?」


 異世界人は時々この世界にやってくるようなのですが――。

 まぁ、この辺りの単語は伝わっていないのかもしれません。

 私の趣味ではないのですが、その男のせいで無駄に知識だけはあります。

 渋々ですが、お二人にも教えて差し上げるとしましょう。


「そうですね……具体的に言うと、妊婦の『自主規制』に『自主規制』を『自主規制』して、胎児を『自主規制』した上で、更にその胎児を『自主規制』させて、『自主規制』の『自主規制』というものですね。名前の由来は……その光景がオモチャのマトリョーシカに似ているから、と聞きました。まぁ私の趣味では無いので、これ以上は流石に……」


 シンと静まりかえる、薄暗いスラムの道。

 そして、そんな静寂を最初に破ったのはポロロッカさんの強めな声。


「……おいっ! 誰か二位の奴を捕まえろ……!」

「その子、常識人の才能があるわねぇ……」


 私とリュリュさんから三歩も距離を取ったポロロッカさん。

 ですが後ろに座らされていた三人の私兵に躓いて転び、ゆっくりと起き上がりました。


「……三位はどんな奴だ? 三位がまともなら、逆の奴が優勝する大会だという事になる」

「三位は、女性でしたね」

「あらぁ~、どんな人ぉ?」


 女性という言葉に反応したリュリュさん。

 三位の女性は特殊性癖の持ち主だったので、リュリュさんとはかなり気が合うでしょう。


「三位の女性は……好きな男性二人を縦に割いて、それぞれの半身と半身を縫い合わせるのを二度繰り返すと、理想の男性が二人も完成する……と語っていた女性ですね」


 再び静まりかえる、薄暗いスラムの道。

 今回は小粋なお笑いオチで、盛り上げて見せましょう


「ちなみに、そのグループでリーダーをしていた男性の彼女です」

「……やばいな」


 青い顔をして一歩後退りしたポロロッカさん。


「ちなみに二位の人がリーダーに対して……『二股されてると思ったら命の危機だから、さっさと逃げるんやで』と言っていたのを覚えていますね」


 私の小粋なオチが炸裂。

 これにはお二人も笑顔になること間違いなしです。


「その娘、わたしと話が合いそうだわぁ~」

「……助けてくれッ!」


 唐突に走って逃げ出したポロロッカさん。

 ――が、ポロロッカさんは再び三人の私兵に躓いて転んでしまいました。

 そのポロロッカさんにしな垂れ掛かるようによう抱き付いたリュリュさん。

 ……羨ましいみ。


「……! 俺はまだ、縦に割かれたくは無い……ッ!」

「ふぅ~……」

「……や、やめろ! 耳に息が……ッ! ああ、背中に胸がッ!!」


 そんな光景を尻目に、妖精さんの胸部装甲を見てみます。

 膨らみかけ……ですらありません。

 視線に気付いた妖精さんは、クスクスと笑い声を響かせました。


「大丈夫よぉ、今のところポロロッカと縫い合わせたい相手は見つかってないわぁ~」

「……! 何一つ、大丈夫に聞こえないんだが……!!?」

「さぁて、冗談はこのくらいにしてぇ、そろそろ作戦を考えましょ~」

「……で、どこまでが冗談なんだ?」


 ポロロッカさんの言葉を華麗にスルーしたリュリュさん。

 リュリュさんは「助けるんでしょ~?」と言いながら、真剣な顔で立ち上がりました。


「勿論。ですが罠に掛かったフリ作戦しか思い浮かばず……あ、一つ思いつきました」

「……嫌な予感しかしないが、一応言ってみてくれ」


 私は人差し指を一つ立て、顰めっ面のポロロッカさんに言い聞かせるよう――。

 その名案を熱く語って差し上げます。


「常識人王者、ナンバーワンドンドンパァアンツ! と言われた私が。持てる常識人力を全力で行使し、中に入れてもらえるよう説得するのです」


 ポロロッカさんに対して熱弁すると、目を閉じて数度頷いたポロロッカさん。


「……なるほどな」

「名案でしょう?」

「……ああ迷案だ、絶対に成功しないという点を除けば――完璧だな……!」

「そうでしょう、私の常識人力にリュリュさんの常識力を加えれば――成功間違いなし!」

「その時は任せて欲しいわぁ~」

「……ああ、間違いなしだな。……ただし――絶対に成功しないという意味でなッ!」


 クワッ! と目を見開いてそのように述べたポロロッカさん。

 ポロロッカさんはそのままの顔で言葉を続けました。


「……いいか? お前たちの常識人力はゼロパーセント。だからその作戦でお前たち二人の常識人力を足したとしても、ゼロにしかならないんだ。……いい加減に気づいてくれ」


 目を見開き、言い聞かせる様に言ってきたポロロッカさん。

 ですがそんなポロロッカさんでも、一つだけ見落としている部分があります。


「ポロロッカさん……人というものはですね、足し算で額面通りの数字になるものではありません。その可能性はですね――掛け算で倍々式に増えていくものなのですよ!」


 ウルトラバッチリ決めてしまいました。

 必殺――『イイハナシダナー』。

 これならばポロロッカさんも納得すること間違いなし。


「オッサンにしては珍しく良いこと言っているわねぇ~」

「……! ゼロにゼロを掛けても、ゼロにしかならないんだよ――ッッ!」


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