『孤高の少女』二
シルヴィアさんとの戦闘が始まってから、一体どれだけの時間が経過したのでしょうか。
現在は陽も完全に落ちてしまい、暗闇の支配する夜になっています。
「【
『死にましたー』
だというのに、まだまだ決着のつく気配が見えないこの戦い。
聞こえてくるのはヤークトハンター達のドラミングの音と、妖精さんの笑い声。
「【
『死にましたー』
あとは激しい戦闘音。
「ふんっ。ここまで魔力を消費したのは久しぶりだ」
そして、定期的に話しかけてくるシルヴィアさん。
視界は完全に利かないのですが、おっさん花の存在は繋がりでわかりました。
操作権が無くとも、本当に僅かな繋がりは感じられるのです。
妖精さんがおっさん花を使って戦ってくれているのでしょう。
当然の様に私は、数え切れない程に死にまくっているのですが……。
何が原因で死んだのか、常に暗闇であるせいでよく判りません。
自身が死んだと判断できる材料は、女神様のお声のみ。
『死にましたー』
一番長く生きていられたのは、一体何分なのでしょうか。
長く生きた時は体が動かせなくなっているので、死因は環境による凍死。
そのパターンで女神様の声を聞くのは本当に稀です。
殆どの死亡がシルヴィアさんによる攻撃でした。
「ふんっ! どちらの魔力が先に尽きるか、持久戦だな!!」
暗闇の中……そんなシルヴィアさんの声が聞こえて来ました。
その声を聞いた後も、おっさんは死に続けます。
凍死、圧殺、窒息死。
刺殺、撲殺、失血死……の前に凍死。
切断、臓抜、落下死。
『死 に ま し たー』
数え切れない程に女神様の声を聞いた後、ようやく気が付きました。
生き返った際は空腹や眠気といった感覚はリセットされているようです。
ベストコンデションでの生き返りが約束されているのでしょう。
まぁベストな状態で生き返るにしても、死ぬ際の感覚はとても不快なもの。
心臓が止まって全身が冷たくなっていく感覚は狂気に近い感覚で。
それこそ、そう何度も経験したくはない経験です。
「【
――シャリッ。
『死にましたー』
それからしばらく、寝る事も食べる事も出来ず、私は死に続けました。
寝転がった際などは地面から氷の槍が生え、頭部をさっくり貫くのです。
これはたまりません。
そうして数え切れない程の死を繰り返していると――ようやく朝日が出てきました。
視界を取り戻した私は、今更ながらに気が付いてしまいます。
妖精さんに――光源を出してもらえばよかったのではないか、と。
響く、妖精さんの笑い声。
戦闘はまだ続いているらしく、おっさん花十体がシルヴィアさんに攻撃を続けています。
一方でシルヴィアさんも、まだまだ余裕といったご様子。
「【
またもや地面から何かに貫かれた感触が襲ってきました。
それは胸の少し下にまで到達しているようなのですが……。
心臓には到達していないらしく、即死では無いぶん嫌な感覚が体に残ります。
「【
もう一度同じ言葉を言い放ったシルヴィアさん。
「……何も起きない?」
かと思いきや、地面全体に影ができています。
嫌な予感がしつつ上を見上げた直後、思わず声が漏れ出てしまいました。
「死にましたー」
空から落ちてきたのは、氷の槍を生やした地面。
私とおっさん花は見事にプレスされました。
『死にましたー』
暗転から復帰したので周囲を見渡してみます。
景観はもうグチャグチャ。
しかしおっさん花は、体中に穴を空けながらも未だ健在。
「……こんなに耐久力ありましたっけ?」
シルヴィアさんも気持ちは同じらしく、顔を顰めながら口を開きました。
「耐久が上がっているな。ここに来てか? ……いや、力を温存していたのか」
体中に穴を開けながらも、触手を伸ばし続けるおっさん花。
花の中央から生えているおっさんの上半身は、かなり酷い状態になっています。
「【
襲い掛かる触手に対を氷のブーメランで迎撃するシルヴィアさん。
そのついでで私も切り裂かれます。暗転。
『死にましたー』
暗闇が晴れると、少しずれた位置。
周囲を見てみると丁度おっさん花が氷の棺で固められていて、砕かれていました。
「妖精さん、力を貸してください」
――響く、妖精さんの笑い声。
既に気力は大変な事になっていますが、なけなしの気力を振り絞って戦います。
お願いに応えてくれた妖精さんが、六体のおっさん花を召喚しました。
今までと同じく、私に操作権があるおっさん花は二体。
ですがここで、ある事に気が付きました。
明らかにおっさん花の能力が上がっているのです。
――本当に力を温存していたのでしょうか?
と思いながら、褐色幼女形体の妖精さんを見ます。
妖精さんは心の意を感じ取ったかのように、口を開きました。
「……ロリコンが死ぬと、わたしがつよくなる」
「なるほど。ですがロリコンではないですよ」
頷いてはみたものの、私の死と妖精さんの強さとの関係性は全く理解できません。
話している間にも、妖精さん操るおっさん花の触手がシルヴィアさんに襲い掛かります。
それに合わせて私もおっさん花の触手を伸ばしました。
「【
当然のようにシルヴィアさんにはそれを回避され、迎撃されてしまいました。
結構な時間戦っているハズなのですが、シルヴィアさんは息切れすらしていません。
これが千日手とならない事を強く願っています。
「ふんっ。私はこの地でなら本来の倍近くの能力を出せる、負けるワケが無いだろう」
霊峰ヤークトホルン。
どうやらこの雪山という環境そのものが、シルヴィアさんに味方をしているようです。
妖精さんはあとどのくらい戦い続ける事が出来るのでしょうか。
このまま真正面から戦い続けていたら私の精神が持ちません。
「もう、ゴールしてもいいですよね……」
妖精さん操るおっさん花が残りの触手をシルヴィアさんに伸ばし始めたと同時。
私の操るおっさん花は――〝メビウスの新芽〟へと向かわせました。
「――ッッ!! このッ! 【
世界が、今居るこの空間から――全ての熱が奪い去られました。
シルヴィアさんの言葉の後に途轍もない冷気を感じた直後に世界は――暗転。
『死にましたー』
暗転から復帰すると、残っていた冷気によって再度――。
『死にましたー』
もう一度暗転から復帰してみると、全てのおっさん花が凍りに飲み込まれています。
同時に私も、凍て付く氷の中へと囚われてしまいました。
――苦しい。
窒息と冷気によって――。
『死にましたー』
暗転、からの同じ地点への復帰。
次に来る攻撃が【破砕】だと予想したため、回避するべく大きくジャンプ。
私は足を挫きながら――ベシャリと着地に成功。
「【破砕!】」
タイミングを間違えた私の全身に、氷の破片が突き刺さりました。
当然のように息絶えます。暗転。
『死にましたー』
暗闇が晴れると、少しずれた地点への復帰。
辺りを見渡してみると、当然のようにおっさん花が消えています。
シルヴィアさんは腕組みをし、高圧的な口調で声を掛けてきました。
「ふんっ。私が生きている間に芽の回収が出来るとは思わない事だ。だいたいな、今は私という強敵と戦っているというのにそれを無視して――……」
自身を無視して〝メビウスの新芽〟に向かわれたのに焦ったのでしょう。
シルヴィアさんは、永遠と話続けています。
――今なら行けるのでは?
私はコッソリと、〝メビウスの新芽〟を回収するべく歩き始め――。
『死に死に死に、死にましたー』
先ほどと同じく、四回死にました。
「お、おまえっ! このッ、ニンゲンめッ! 目的がソレである事は理解しているがッ、この私が話しをしているのを無視しての蛮行!! 許される事では無いぞ! 大体な――……」
造形が整ったお顔を、わなわなと震わせながら怒っているシルヴィアさん。
きめの細かい美しい肌が震える様に、視線が吸い込まれてしまいます。
それを無表情で見ていた妖精さんがこちらを見て、ゆっくりと口を開きました。
「……もう一回やって」
もう一度〝メビウスの新芽〟を回収するべく、歩き出さないといけない気がしました。
私は黙って歩き始め――四回死にました。
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