『孤高の少女』一

 四体のおっさん花が咲き乱れる山頂。

 現在は二体のおっさん花との繋がりを感じ取れています。


「まさか無限に生み出せるとでも? いや、そんな筈は……」


 宙に浮いたままこちらを観察しているシルヴィアさん。

 本当にあと少しで下着が見えそうです。

 ……みえ……みえ……。


「妖精さん! あの見えそうで見えないのを、見えるようにしてください!」


 ――響く、妖精さんの笑い声。

 ピラリと服の裾が捲れ上がり、バッチリ見えました。

 シルヴィアさんの素晴らしい白い肌に、太腿の上に見えた純白パンツ。

 どこかで見た覚えのあるような、動物の毛皮で作られたであろう白下着。

 少し考えてからヤークトハンター達の方を見て、気が付く事ができました。

 あの下着が――ヤークトフォックスの毛皮で作られているであろうという事に。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると元居た地点に。

 シルヴィアさんが何故か訝しげな顔でこちらを見下ろしています。


「……何のつもりだ?」


 シルヴィアさんは自分が何をされたのかには気づいているご様子。

 ですがそれに対し、怒ったり恥ずかしがったりといった感情は見て取れません。

 ただただ意味がわからない、という顔をして見てくるのみ。

 自分とは全く違う存在。

 犬や猫、それから赤ん坊などに見られても気にしない。

 そういった感情に近いものを感じられました。


「むっ、召喚物の力が少し上がったか?」


 気合全開となったおっさん花二体が、シルヴィアさんへと向かって触手を伸ばします。

 妖精さん操る一体も触手を伸ばし、一体が死角に回り込んで触手を伸ばしました。


「ふんっ。【熱世界之失墜フォールンダスト】」


 腕を組み、見下ろすような視線から放たれたその言葉。

 その言葉が放たれた瞬間――窪地全体を襲った、途轍もない冷却。

 環境と全裸のせいで、既に殆ど動かなくなっていた全身。

 そこから更に体温が奪われ、体温を完全に……奪い去られてしまいます。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると、元居た位置と同じ地点に。


「戻ってき……?」


 気が付いてしまいました。

 今この瞬間的にも――体温が急激に、奪われ続けているという事実に。

 そう……シルヴィアさんの攻撃は、まだまだ終わっていなかったのです。


「……むぅ、両方とも耐えるな」


 かなり不満そうな顔をしているシルヴィアさん。

 全くもって耐えられてなんて居ません。

 数秒で凍死しているのを、耐えられているとは流石に主張できません。

 そんな不満そうな顔をしているシルヴィアさんを見ていたら――暗転。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると――再度同じ地点に。


「これは……」


 意識が戻ってきたその時、窪地の殆どは氷によって覆われていました。

 氷柱と同じものなのか、それは当然のように私をも飲み込みます。

 内臓まで凍て付いていく感覚に顔を顰めようとして……失敗。


『死にましたー』


 暗闇が晴れるとそこは、窪地を覆う氷の地面の上。

 どうやら冷気による侵食は終わったようです。

 とはいえ、安心したのも束の間。

 シルヴィアさんが思い切り手を開いた状態で、此方を見下ろしていたのです。

 それを見て思わず、苦笑いを浮かべてしまいました。


「リスキルは三回までですよ」

「【破砕!】」


 砕ける氷の地面。当然のように崩れていく今現在の足場。

 氷に飲み込まれていると、砕けた氷の破片が突き刺さってきました。

 流れ出る血液すら凍りつく、霊峰ヤークトホルン。

 私は――意識を手放しました。

 暗転。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると、元居た位置から少しずれた場所に。

 見回してみるとおっさん花の姿は既に無く、動く影はシルヴィアさんと妖精さんのみ。


「妖精さん、力を――」

「【氷結晶槍ダイアモンドランス!】」


 言葉を遮るようにして放たれたのは、無数に生成された氷槍。

 氷槍は真っ直ぐにこちらを捕らえていて、襲い掛かってきます。

 一度くらいはと思い大きく横に跳んだのですが、見事――脇腹へと命中。

 地面に張り付いた足の皮以外の全部位が、大きく後方へと吹っ飛ばされました。

 横に飛んでいたことで便座カバーヘッドからの着地をすることに、成功――しません。

 ――ゴキリ。

 この時始めて……首の骨が折れる音を聞く事に、なりましたー。


『死にましたー』


 暗転から復帰した直後に、素早く叫びます。


「力を貸してください!」


 ――響く、妖精さんの笑い声。

 地面からズルリと現れたのは、六体ものおっさん花。

 繋がりが存在しているのはその内の二体。

 それを見たシルヴィアさんは、またもや顔を思い切り顰めさせました。


「増えたか。子供に対しての攻撃は何故か透過する。……まぁ、そいつに関してはそういう存在なのかと割り切ろう。だがニンゲン、お前への攻撃は確実に当たっているはずだ。なぜ死なん? 何故溶ける? 何故数秒だけ生命反応が消える?」


 ――しっかり死んでいますよ。

 と思いながらも、教えてあげる義理もないので少し誤魔化してみる事に。


「妖精さんと私の、愛の力です」


 その言葉を聞いたシルヴィアさんは左手を形の良い顎に当て、考え込みました。

 褐色幼女形体の妖精さんは無表情ですが、きっと喜んでいるのでしょう。


「……ちがう、それはロリコンの力。早く死んで」

『違いましたー』


 下腹部に響く女神様のお声と、褐色幼女形体の妖精さんの美しいお声。

 お二方に、この力が私の力であると認められました。

 妖精さんのお声は確に、最初の頃から美しいお声だったのですが……。

 どことなく、最初よりも言葉と話し方を覚えてきているような気がします。

 ――嬉しいみ。

 そんなこんな考えていると、シルヴィアさんがゆっくりと口を開きました。


「愛……か。私には理解出来ない感情だ。時々やってくる下等種が稀に、『愛の力だ!』とかいって予想外の力を発揮する者がいたが……そうか。やはり理解出来ない感情だ」


 落ち込んでいる、という程ではないのですが、気分を落としたシルヴィアさん。

 メビウスの新芽を守りたいというその感情は、愛の一種なのではないでしょうか。


「そうですか? メビウスの新芽を守ろうとするその想いは、愛なのではないですか?」

「この感情が愛? ……そうか。では愛を教えてくれた礼に――面白いものを見せてやろう!」


 そう言い放ちながら、両手を空にかざしたシルヴィアさん。


「【氷すらも凍てつく絶対の零! 絶対零度!!】」


 シルヴィアさんの上空に、巨大な水の塊のようなものが生成されました。

 それは沈みかけの夕日に照らされ、赤を中心とした虹色に色を変えています。

 一目で危険なモノであると理解させられる威圧感。

 極寒な雪山の山頂であるというのに、煙の冷気が下へと降りていっています。

 液体窒素……よりも冷たい液体なのでしょう。


「さぁ! 私の愛の為に、命すらも凍ってしまえッ!!」


 振り下ろされる、シルヴィアさんの両手。

 謎の液体が途轍もない速さで迫ってきます。

 当然、逃げる余地などありません。

 命中する前から、全身が凍り付いていっているような気がしました。

 しかしそこから命中するまでが一瞬だった為、それを確かめる術はありません。

 暗転。


『死にましたー』


 暗闇が晴れると、少しずれた地点に。


「むぅ……」


 シルヴィアさんの取っておきだったのでしょうか。

 敵がまだ健在なのが気に入らないという様子で、露骨に嫌な顔をしています。

 まるで、『しぶといな』とでも言わんばかりのお顔。

 再度呼び出したおっさん花の触手を伸ばすと、それに続いて他の触手を伸ばされました。

 が、縦横無尽に空を飛ぶシルヴィアさんにとっては、回避の容易い攻撃。

 やがて放たれた氷のブーメランによって、全てが切り落とされてしまいました。

 更には妖精さんを含めた全員を再度氷柱漬けにしての――即破砕。

 当然のように、私は死にまくり――――…………。


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