『おっさん花』二
門番オークの一体を背後からの一撃で素早く仕留めた女騎士さん。
そして女騎士さんに驚いたもう一体の首筋に、解体用ナイフを突き立てた女盗賊さん。
お二人が手早くオークを仕留めた事で、正面からコソコソと出ていく事に成功。
女騎士さんが素早く動いた際、たわわなお胸がこぼれ出そうになるくらいに揺れました。
それに視線をもっていかれて動けなかったとしても、仕方のない事でしょう。
ちなみに女盗賊さんには、揺れるものがあまりありません。
「し、失礼な視線と思考を感じました。さ、刺してもいいですか?」
「すいません。救出した件でチャラにして下さい」
考えていた事が伝わってしまったのか、首元に添えられた解体用ナイフ。
栗色の髪も私の首筋に当たり、同時に無い乳が腕に当たっています。
――嬉しいみ。
「わ、私こそごめんない! お、恩知らずな行動を! うん、体を差し出すくらい……」
女盗賊さん「でもおじさん。ううん、そもそもオークに……」とブツブツ呟いています。
そんな独り言を呟きながら森の中を移動している女盗賊さん。
独り言で判明したことですが、女盗賊さんの名前はミリィというようです。
ちなみにミリィさんに色々と問題があったとしても、可愛いので特に気にしません。
――ウェルカムですよ、ミリィさん。
森の中を移動することしばらく。
唐突に女盗賊――ミリィさんが足を止めました。
ジッと後ろの方角を見ているミリィさん。
釣られて同じように後ろを見たのですが、通ってきた足跡が残っているのみ。
特に何も発見できません。
「……っ!」
遠くを見るように目を見開き、真剣な表情をしているミリィさん。
その表情から見るに、何かに気が付いたのは間違いないでしょう。
「……脱走がばれた。もうかなり追ってきてる」
「奴らオークは匂いを辿るのが得意だからな。ここからは走ったほうが良いだろう」
「では先導します」
短く端的に、感じ取った結果のみを伝えてくれたミリィさん。
それからオークの特性を教えてくれた女騎士さん。
時間を無駄にしないよう、足早に森の中を進みます。
獣道ですらない森の中は当然足場も悪く、体力的にもかなり厳しいでしょう。
女盗賊のミリィさんや女騎士さんには余裕があるように見えました。
がしかし、一般女性の方々は足に布を巻いた程度なので、速くは走れません。
まさか置いていくわけにも行かず……移動速度は徐々に落ちていきました。
「まずいですね……」
オークが私ですら感じ取れるくらいの距離にまで迫ってきています。
後方からは聞こえてくる喧騒は、間違いなくオークたちのものでしょう。
ここで私達一行は、ようやく広めの街道へと出ることに成功しました。
「道に出ました! この道を真っ直ぐに行けば討伐隊の拠点があります!!」
「は、はい……!」
かなり息苦しそうな顔をして、息を切らせながら走る一般女性。
私の心臓もばくばくと脈打っています。
が、それでも足を止めるワケにもいかず、街道を走り続け――。
「イタゾ!」
「雌ヲ逃がスな!」
「どうやってコンなとこロまで逃げタンダ!? そんな体力が――妊婦もイナいゾ!!?」
「バカナ!?」
予想以上に早く、オークの追撃部隊に追いつかれてしまいました。
正確には森から出てきたところなので完全に追いつかれた訳ではないのですが……。
討伐隊の拠点までは、とても逃げ切れないでしょう。
更に――。
「ガハハハハ! 何でも良いではないか! もう一度妊婦になってもらうだけだ!!」
――ドガン!
と大きな物音と共に数本の木々をなぎ倒して現れた巨体。
その正体は――牙王、ガーブ・ビッグズリーブ。
「ひ、や、やだ! もうぱこぱこは、やだ――ッ!」
逃げ切るのは無理だと判断したのか、解体用ナイフを構えたミリィさん。
それに続いて剣を構えた女騎士さん。
「ちっ、お前達が歓楽街のダブーズと同じぐらい上手ければな! また道具みたいに扱われるくらいなら、ここで一体でも多く道連れにして死んでやるッ!! クッ、殺すッ!!」
次々とやってくるオークの後続。
五、八、十、十五…………まだまだたくさん。
一般女性は立ち止まらずに走って逃げていますが、一緒に逃げては逃げ切れません。
誰かが時間稼ぎをしなければ逃げ切れる数では無いでしょう。
ならば――。
「……お二人とも、他の女性達と一緒に逃げてください」
「馬鹿な! 無駄死にだぞ!?」
「こ、ここは一緒に、少しでも時間を――」
「いいから早く逃げてください! 貴方達が居ると邪魔なんですよ!!」
「「…………」」
人生で一度は言ってみたい台詞ベスト十に入る台詞、たった今言えました。
ですが私は間違いなく死ぬでしょう。
それこそ、五秒も持たずに死ぬかもしれません。
それでも私には女神様から頂いた力があり、生き返ることが可能。
時間稼ぎくらいはできるでしょう。
その間に皆さんが逃げ切って討伐隊を呼んできてくれれば、それでなんとかなります。
「……ごめんなさい」
「……すまない」
そう言葉を残して討伐体の拠点がある方向へと走っていくお二人。
道幅を埋め尽くす程のオーク達が、走って距離を詰めてきています。
私は格好をつけるべく腰に手を回し、剣を構え――――られない。
まさかの構えるべき剣がありません。
格好をつける事ばかり考えていた私は、完全に忘れていました。
私の長剣は……女騎士さんに渡したままだったのです。
しかしここでパニックになっては敵の思うつぼ。
冷静さを欠かないよう最善の行動を起こしましょう。
素早く地面にバックパックを落とし、何か武器は無いかと漁り――。
バックパックから解体用ナイフを取り……出せません。
こちらのことも忘れていました。
解体用ナイフも……女盗賊のミリィさんに渡したままであったという事を。
――ああ……。
オーク達はもう目の前。
このままでは何をする事も出来ず、ひたすらに蹂躙されるのみとなってしまうでしょう。
――やっぱり間違いなく死にますね。
そう思いながらもせめて戦うくらいは……と思い、口を開きます。
「妖精さん。私に……戦う力貸してください」
――響く、妖精さんの笑い声。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます