神の手札は覗けない
「21に関する雑学で思い浮かぶことといえば──」
雑学倶楽部の部長、
あたしこと
「さいころの目の合計が21ってことかな」
「へー。1+2+3……あ。ほんとだ」
ここまで暑いと爽やかな炭酸が飲みたくなるものだけれど、美緒だけは普通のアイスコーヒーだ。ヤツは炭酸が飲めない。
その雑学倶楽部部長が切り出したのは、今日が21日だからその数にちなんだ雑学。
「でもさ、なんでさいころの『目』っていうのかな。なんかミギーみたいにうにょんって伸びてきそうでキモくない?」
「うん、日本語の『目』には、生物の器官であるところの『眼』とは別に、『規則正しく並んでいるさま』の意味もあるんだ。例えば──碁盤の目、とか。ヤスリのあの凸凹も目というし。さいころの目はこっちの使い方だね」
「そんなに規則正しい? 面によってばらばらじゃん」
「一つの面には必ず数を表す点が彫ってあるでしょ。どの面にどの数を掘るかもちゃんと決まっていて、
「へー」
「それに妖怪で、
春菜はおやつの匂いを嗅ぎつけた猫のように、ぴょんと体を起こした。
「知ってる。
「あれたぶん、シャレなんだよ。障子も升目みたいに並んでるでしょ。だから規則正しく並ぶ、という意味の『目』と『眼』を掛けたんだろうね」
「石燕さん、シャレ好きだったもんなあ」
「江戸時代の人のこと、よく気軽に言えるね」
あたしは呆れつつ春菜を見る。
「話はちょっとズレるけど、『規則正しく並んでいるさま』には『歯』という言い方もあるんだ。これは二次元や三次元でなく、一直線の場合だけど。のこぎりの歯、や歯車とか──」
まだ澪は喋っている。
春菜は先に帰った。美緒と並ぶと身長差が際立つ。バスケ部に誘われただけのことはある──あまりの体力のなさに苦笑いされて返されたと美緒は真面目な顔で言っていた。
雲の形はもろに『夏』って感じだ。土手の道を歩いていても生ぬるい風が通り過ぎてゆく。
唐突に美緒が言った。
「つくし。カクヨムに詩だか何だか書いてるでしょ」
「は?」
──まずい。なぜバレた。
心臓をバクバクさせながら、美緒の方を振り返った。
にやにや笑ってると思った。
けれど以外にも、普通の顔だ。
「『恋愛方程式』だっけ、最新のは」
◇
もし、『恋愛方程式』というものがあるのなら、どんなのだろう?
例えば『すき』がプラスで、『きらい』がマイナスだとしたら。
『すき』*『すき』なら、問題はない。
『すき』*『きらい』は片想いだろう。
『きらい』*『きらい』は、どうなるんだろう?『すき』になるのかな?
◇
「──私が思うに、マイナスは『嫌い』じゃなくて『相手の中に見えた違和感』じゃないかな。『好き』*『違和感』は要するに蛙化現象なんだよ」
「そんで?」
「人は自分の持ってないものに惹かれる、ということを聞いたことはないかい? 『違和感』*『違和感』が『好き』に転化することだってあるだろうさ」
「でもさ、それは必ず──じゃないよね?」
「うん、それは認める。私とつくしは違っているところがいっぱいあるだろう。でも、私はつくしが『好き』だよ」
あたしの後頭部に顔が近づく気配。
「やめて。汗臭いだけでしょ」
「猫吸いじゃなくてつくし吸いだ。シャンプー何使ってる?」
あたしはやたら恥ずかしくなって、振り返りざまに
「うっさい。コーラ飲ますぞ」
美緒はうすくうすく赤ばんだ空の下で、笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます