塔の上の姫君は叫ぶ

「はあい、メアリー。お久しぶりー」

「あら珍しい、ルカじゃない。突然どうしたの」

「窓からお邪魔するわ。これお土産のケーキ。城下のバザールで今大評判の店よ」

「まぁ嬉しい。一度買いに行かなきゃと思ってたのよ。――ちょっと待って、お茶入れるわね」

「メアリーさあ、なんでそんな格好してるの? 仮装大会なんて今日あったっけ?」

「やあねえ。お姫様よ。塔に囚われたお姫様やってんの」

「お姫様? あんたの年で? あ、ありがと」

「お茶熱いから気をつけてね。年はあんたとどっこいでしょうが。――あたしもそろそろ結婚したいと思っちゃってさあ」

「魔女学校出てからあんた男っ気なかったもんねぇ」

「あんたバツ3でしょうよ。人のこと言える立場かってぇの」

「人生経験してる分マシだわさ。あんたまだ処女なの?」

「30過ぎてそれはないわ、さすがに」

「そうなんだ。初めてって誰?」

「そうそうあれは……って今関係ないでしょ」

「意外とそこはガード固いのね」

「お茶、おかわりいる?」

「ちょうだい。なんかちょっと香りが違うわ。素敵」

「南方のいいお茶っ葉が手に入ったのよ。あたし最近いっつもこれ」

「いいなあ。あたしにも分けてよ」

「もちろん。こんな急じゃなくて前もって知らせてくれればちゃんと包んでおいたのに」

「だって『ルカへ。塔のいちばん上に住居変えました。よろしくね♡ fromメアリー』なんて手紙よこすんだもの、気になるじゃないの。久しぶりにホウキで空飛んできちゃったわよ」

「ふふ。ここだけじゃなくて、近隣の村にクエストを自分で依頼したわけ。塔の上の姫を救出したものに、莫大な金貨と姫の接吻を与えるってね」

「ははあ、男たちの品定めをしようってわけだ。当然塔の中には……」

「あたし特製のトラップがぎっしり詰まってる」

「確かに陰険なトラップに関しちゃ、あんたの右にも左にも出るやついないか」

「それ、褒めてるの?」

「当然。あんた師匠にも十連コンボ決めたでしょうに。あれはもう伝説よ」

「――そうなの? 確かに卒業後にトラップ作成依頼が山ほど来たけど、噂になってたんだ。知らなかった」

「あ、誰か塔に入ってきたみたい」

「水晶玉で見てみましょう。――あ、このケーキ美味おいしい」

「でしょう。並んだかいがあったってもんよ。ほら、筋肉バリバリの戦士が来たわ」

「んー、筋肉ねえ。悪くはないんだけど。ワイルドな顔立ちはけっこう好みなのよねえ。なんでこんなにムキムキなわけぇ?」

「けっこういいと思うけど。あたしはタイプだなあ。ぐっと抱き寄せられたときの、がっしりとした力強さなんかいいわよぉ」

「あたしはもうちょっとすらっとしたイケメンのほうがいいな」

「そうそう、昔っからあんたは顔だったわ。変わってないね」

「趣味は人それぞれじゃないの。あ、落とし穴踏んだ」

「おっ、反射神経でかわしたね。場数も踏んでるわ」

「なら最初から単純なトラップ踏まないと思うけど……あーあ、『踊るトゲトゲ人形』を力づくで壊しちゃった。あれ手間かかってんのよう」

「うん、脳筋タイプだね。力さえあれば何でもできると思ってそう。あちゃあ、『滑る床』と『アグニスの火矢』と『大振り子』の三連コンボ、思いっきりくらった。そのまま塔の外へ飛んでったよ」

「まあ残念」

「心無いわー。怖いわー、あんたの性格」

「これまで三階以上突破した人、いないのよ」

「ここって……何階だっけ」

「十階」

「当分結婚できなそうね」

「そうかなあ……」

「お、今度は女騎士様だ。あんた男性に限る、とか条件つけなかったの?」

「そんなことしたら不自然じゃない。あ、でも女騎士様のすらっとした姿、なんかいいかも」

「あんたそっち、、、の方の趣味あったっけ?」

「ないけどさあ、ムキムキと比べればまだましかなあって」

「ほー、順調にトラップかわしてる。いい腕してるわよ彼女。三階クリアしたわ」

「四階からモンスターもいるから……って、さっそく蜘蛛女につかまったじゃない!」

「あたしにいわれても。ええ? なんで三角木馬!? あんた結婚相手探すんじゃなかったの?」

「いや、この際あたしの拷問器具コレクション、使っちゃお♡ とか思ってぇ」

「白目むいて気絶しちゃったよ……女騎士さんごめんなさい、メアリーがアホで」

「アホじゃないわ」

「あれ……なんか急に寒気がしてきた」

「あたしも。なんなのかしら」

「誰か来たわ――なにあの服装。見たことない。メアリー、どこの地方の人かわかる?」

「さっぱりわからない。お腹出っ張ってぶよぶよのくせに的確にトラップ回避してる――!」

「まさか師匠が言っていた世界を毀すものワールド ブレイカー、チート持ち?」

「あー蜘蛛女が、わけのわかんない筒から火を吹きつけられて真っ黒になっちゃった。召喚するのに何日かかったと思ってるのよ」

「ものすごい勢いで塔を登ってるね」

「大丈夫、九階は光ひとつささない真の闇、、、のトラップエリア――ここを突破できるものならしてみるがいいっ!」

「メアリー、絶対クエスト成立させる気なかったでしょ」

「なんか凝り始めると止まんなくてねえ。あーあれよ、煮込み料理を半日かけて作る、みたいな?」

「たぶん違うと思うな」

「じゃあルカはアレ、、にキスできる? 小太りで妙な髪型して変なガラスみたいなの顔につけてるのよ? 頭のてっぺんからつま先まで変なのよ?」

「うん、無理」

「でしょ――え!? 魔法の無効化までしてるのに。あいつ妙な光を出すカラクリ持ってる!」

「メアリー、こうなりゃ覚悟決めなさいな」

「えーーーーー」

「奥で扉が開いた音がしたね。じゃあ、あたしはこれで」

「ま、待って、逃げるか卑怯者ぉ」

「突破おめでとう、悪い魔女はすぐに退散しますから――まあまあ、あせらないで冒険者さん、鼻息荒いわよ」

「ダメダメダメ生理的に無理。助けてルカ――っ!!」

「よかったねメアリー。初の突破者が出たんだもの、歓喜の叫びなんだよねぇ。じゃあ本当にさよなら。お姫様、、、、元気でねー」




                    終

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