孵化(ふか)

勝利だギューちゃん

第1話

ここはどこだ・・・」

「僕はだれだ・・・」

「何も見えない・・・何も聞こえない・・・

静かだ・・・これが全てなのか・・・

僕をとりまく環境なのか・・・」


「大丈夫、君は1人じゃないよ。」

急に声がした。初めて聞くような・・・

なつかしいような・・・


ただ年頃の女の子であることは、間違いない。

おそらく、僕と同世代だろう・・・


「君には私がいるよ・・・」

声のする方を見た・・・

何も見えない・・・誰もいない・・・


「どこ見てるの?こっちだよ」

再び声のする方を見る・・・

やはり誰もいない・・・


「こっちだってば・・・」

やはり、誰もいない・・・


「見えない・・・」

「うん・・・」

「・・・まだ無理か・・・

君は自分の殻に閉じこもっているんだね。」

言いたいところを突いてくる。


「しょうがないだろ・・・」

その声に初めて反抗した。

「どうして?」

「僕だって、みんなとわいわいしたい。

でも、それができない。

どうしていいのか、自分でもわからない・・・」


支離滅裂だとは、自分でも思う。


「私の声が聞えるというころは、耳を傾ける事はできるのね。」

「・・・うん・・・」

傾けるというのは、正しくない思うが、頷いておいた・・・


「じゃあさ、歌を唄おうよ。ふたりで・・・」

「僕とふたりで・・・」

「そうデュエットしよう」

「いきなり言われても・・・」

「唄いたい曲はある?」

「・・・特に・・・思い浮かばない・・・」

最近の歌は、よくわからない・・・


「じゃあさ、私からリクエストしていい」

「・・・うん・・・」

もう何でもよかった・・・


「『3年目の浮気』」

「ずいぶんと古いのを、持ってくるね」

「この曲は、男女でかぶさる部分がないので、合わせなくても唄えるね」

「・・・・・」

「もしかして、知らない?」

「知ってるけど・・・」


じゃあいくね・・・ミュージックスタート

♪イントロがながれる・・・

いつの間にが、マイクが握られた・・・

「君からだよ・・・」

「わかった」

渋々唄いだす。ソラで全部唄えるのが、

我ながら不思議なところだ・・・


唄い終える。

そういや、向こうはソラで唄っているのか?

「すごい!90点だよ・・・」

やはり、向こうは歌詞を見ていたようだ・・・


しかし、まだ周りは暗闇だ・・・

何も見えない。

ただ音だけは、聞えるようになった・・・


「それでいいんだよ」

「えっ」

「無理して他人と合わせなくていい。

でもね、君の頃を大事に思ってくれている人はたくさんいるわ。

その人たちだけは、裏切らないでね・・・」

「でも・・・」

僕の言葉をさえぎるように、声の主は話す。


「大丈夫。君なら出来るよ・・・」

「だって、僕には・・・」

「もしね。どうしても辛い時は、メーテルリンクの「青い鳥」を思い出して・・・」

「青い鳥・・・?」

「それが、私から君へのメッセージ・・・」

「まって・・・君は一体・・・」

心なしか、声の主が笑顔になったように思えた。


「やっと、君から声をかけてくれたね。一歩前進だよ」

「えっ・・・な・・・何を・・・」


一呼吸おき、声の主が答える。

「もうじき、私の事を、見つけてくれえそうだね。

待ってるよ・・・」


それから、どのくらいの時が経ったのだろう・・・

気が付くと、僕は公園のベンチにいた。

「見える」「聞える」「感じる」

僕は何をしてたんだ・・・


まだ意識がもうろうとしているのか・・・

わからない・・・


「あれ?」

手をみると、マイクが握らていた。

そこには小さく、「またね」と書かれていた。


一体何なのかはわからない・・・

最後に言ってた「青い鳥」

この話は知っている。

なので、探しには行かない。


あれ以来、声の主は現れない・・・

ただ、その青い鳥がみつかったのは、しばらく先になるのだが・・・


その話は、またいずれ・・・





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孵化(ふか) 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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