Rufeir series 02 憧憬

Episode:02-01 街角にて

 かのシエラ学院の危機より遡ること四年。

 アヴァン領内にある国境の町、ルアノンにて……。


◇Imad

「四ヶ月ぶり……か?」

 昼過ぎのキツい日差しを手のひらで遮りながら、俺はつぶやいた。

 このルアノンはロデスティオとの国境近くにある、小規模な町だ。海岸沿いにある首都のアヴァンシティから出てる長距離線に乗って、半島と山を避ける格好でまず西へ。そこからだいぶ南に下った辺りに位置してて、赤く広がる台地や切り立った岩肌、そして奇岩の立ち並ぶ、バルディオン渓谷が近くにある。あと間欠泉で有名なノルディス大森林も、この近くだ。

 そんな町へ俺、学院の夏季休暇を利用して遊びに来たところだった。

 俺の両親とうの昔に両方死んでるけど、この町には親父の弟――ようは俺の叔父――がいる。この叔父さん息子がいないせいか、俺のことを可愛がってくれてた。

「さて、どうすっかな?」

 まっすぐ叔父さんの家へ行ってもいいけど、「夕方に着く」って連絡しちまったから、あんま早いと悪いだろう。

 だいいちあの家は開業医だから、真っ昼間に行っても邪魔なだけだ。

 ――ホントのこと言うと、時刻表見間違えてただけだったりするけど。

 どっちにしても時間は余りまくってた。

 駅のホーム――どゆわけか町外れにある――で、少し考え込む。

「……歩いてくか」

 ここから叔父さんの家、すぐ近くってワケじゃねぇけど、歩けねぇ距離でもない。どうせ時間はあるんだから、たまにはいいだろう。

 荷物を持ちなおして、俺は歩き出した。

 街並みはほとんど変わってなかった。ただ前はまだ冬っぽい時期だったから、人の服装や華やかさがまったく違う。

 ――個人的にはこのほうがいいんだよな。寒いの苦手だし。

 俺、この町好きだ。

 首都のアヴァンシティを思わせる、重厚で華やかな石造りの町。いちおう交通の要所に近いし、周囲の自然を観光に来る人も多いから、辺境の割には人の出入りも多い。

 けど俺がこの町を好きなのは、そういう理由じゃない。何度も戦火に巻き込まれてるのに、そのたんびに昔の姿で復興を続けてきてるってとこだ。

 だからなんだろうけど、この町見てると、人間ってなんでも出来そうな気がしてくる。

 どっちにしてもけっこう来てる町だ。慣れた道をときどき店先のぞきながら、ぶらぶら歩いてく。

 ――ネミのやつになんか、お土産でも持ってくかな?

 でもあいつそろそろ四つになるから、前みたいに適当なもの買ってっても喜ばねぇかも。

 そんなことを考えながら歩いてて俺、思わず立ち止まった。

 通りの向こうに、ひとり女子がいるんだけど……。

 なんか、むちゃくちゃかわいい。

 思わず口笛でも吹きたくなるような、とびっきりの美少女だ。色白の肌に、きらめく背中までの金髪。瞳は海みたいに透き通った碧。あと額に綺麗な、翠玉の飾りつけてた。

 なんでかショートパンツにポロシャツっつー、男子みたいなあっさりしたカッコだけど、それがまた似合ってる。正直これほど「美少女」って言葉がしっくりくるやつ、今まで見たことがなかった。

 そしてもひとつ。

 色がなかった。

 俺から見ると人ってのは、それぞれ独特の色を持ってる。けどこの美少女は、そういった色を一切持ってなかった。

 ただどこまでも透明な、風に見える。

 ――って、なんか探してんのか?

 少し困った調子で、手にしている紙切れを覗き込んでいるところを見ると、迷ったかどこかへ行きたいかなんだろう。

 つい気になって、俺は立ち止まったままその子を見てた。

 この子がメモから顔を上げて辺りを見回すと、長い金髪が動きにあわせてふわりと舞う。

 そして少しのあいだ街並みを眺めて、その子がまた下を向いた。

 ダイレクトに伝わってくる、感情。

 ――泣いてる?

 胸がしめつけられるようで、俺は思わずその子のほうへ歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る