Episode:01-31 駆け上がる空

◇Rufeir

 合同葬儀はけっきょく、激戦の三日後になった。あまりの死者の多さに、身元の確認に手間取ったのだそうだ。

 もう少し正確に言うと、本当はまだ全員が確認されたわけじゃないという。

 ただこれだけの遺体を安置しておくのがもう限界で、ともかく分かった人だけでも荼毘に付すことになった。

 遺体が次々と裏庭へ運び出される。

 たいていは友達が、時々は先輩や後輩が、稀に兄弟が遺体に付き添っていた。

 あたしたちもクラスの男子に手伝ってもらって、ナティエスやアイミィ、セアニーをそっと横たえる。

「これで……お別れか」

 ぽつりとシーモアがつぶやいた。

 その言葉にまた涙が出てくる。

 あの日からあたし、ずっと泣きっぱなしだ。どうかしてるとは思うのだけど、どうやっても涙が止まらない。

 ただ今はさすがに、あちこちからすすり泣きが聞こえていた。

「ヤだ、ヤだよっ! お姉ちゃんといっしょにいるっ!」

 向こうでは低学年の子が、大泣きしながら遺体にすがりついている。

 どうみてもまだ六歳くらいのあの子には、お姉さんが亡くなった事が理解できないのだろう。

「お姉ちゃん、ねてるんだもん! だからこんなとこ、ダメなんだもん!」

 辺りに悲しみが満ちる。

 あの子が……独りになってしまった事を知るのは、いったいいつだろうか?

 お姉さんの友達らしい上級生が、その子をなだめながら抱き上げるようにして連れていった。

「そしたらルーフェイア、あたしらも向こう行くからね」

「――うん」

 シーモアたちが離れて行く。

 他の生徒たちも徐々に離れて行って、この辺りに残ったのはあたしと、上級傭兵の先輩たちばかりになった。

 累々と並ぶ、白い布に包まれた遺体。

 風が吹き渡る。

「全員、整列!」

 オーバル院長の号令。ざっと足音を立てて、上級隊の先輩たちが横一直線に綺麗に並ぶ。

 あたしの右にはタシュア先輩が、左にはシルファ先輩が並んだ。

「我らが家であるシエラ学院を守るべく、犠牲となった者たちに敬礼!」

 ここにいるあたしたちと、後ろへ退避している生徒全員とが、一斉に敬礼した。

 そして誰からともなく、呪文の詠唱が始まる。

「時の底にて連なる炎よ、我が命によりて形を取り、うつつの世に姿を現せ……来いっ、サラマンダーっ!」

 あたしの召喚呪文がいち早く完成し、ついでタシュア先輩の、そして他の先輩たちの召喚呪文と火炎系魔法とが、次々と放たれた。

 天高く炎が舞い上がる。

 周囲で焔が踊った。

 その中で……遺体が灰になっていく。

「――ナティエス、さよなら」

 そっとつぶやく。

 こぼれた涙が、小さな音を立ててはぜた。

 その時。

 ――影?

 燃え盛る焔の中で、たしかに何かが動いた。

 例えて言うなら、炎の中に別の焔があるような……。

「タシュア、あれは……?」

 シルファ先輩の言葉で、目の錯覚じゃないことを知る。

 そしてみるみるうちに、それは一つの形を取った。

 焔をまとった鳳(とり)の形に。

「まさか……?!」

 従えることの出来ない、伝説の精霊。焔に身を投じて生まれ変わるという不死鳥。

 それが目の前に現れようとしていた。

 鳳が啼く。

 喜びと哀しみとが混じった、不思議な声で。

 その声が胸に沁みて、またあたしは泣いた。

 翼が大きく広がり、焔の色が変わる。

 何よりも熱いという、白い焔に。

 そして鳳が羽ばたいた。

 風の代わりに焔が舞い上がり、不死鳥が大空へと飛翔する。

 ――魂を乗せて。

 遥かなる高みへ、ナティエスたちが駆け上がって行く……。

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