Episode:01-30 それぞれの明日
◇Seamore
あたしは……また 庭のベンチにいた。
――あいつが死んじまうとはね。
正直まだ信じらんない。なにせ昨日ギリギリまで、ここで話してたんだ。
で、待ってる。馬鹿げてるとは思いながら、なんとなくここでナティエスを待ってる。
「シーモア、いた~」
「――ミル」
さすがのこいつも、今日はトーンが低かった。
「ナティエスには、もう会ったのかい?」
「うん」
昨日と同じように、ミルが隣にかける。
「他もみんな……会ってきたよ」
「そうかい……」
ひどく長い死亡者リストには、うちのクラスの仲間も四人ほど名を連ねちまった。他にも重傷者が何人もでてる。
裂傷ですんだあたしなんざ、かなり運のいいほうだろう。
「シーモアも左腕、痛そうだね~」
「仕方ないさ」
最後の防衛戦の際に創った傷だ。ただあたしがうっかり油断して切りつけられたから、誰も悪かない。
「そういやあんたは、ケガなかったのかい?」
ふと訊いてみる。
「したよ~」
けどミルのヤツ、ざっと見たところはケガした様子がなかった。
「いったいどこをケガしたって言うのさ?」
「手首~♪ 捻挫しちゃったんだ」
思わずなんでもない右手で、ミルを殴りつける。
「それのどこがケガだい!」
「え~、だって昨日は痛かったから、湿布までしたんだよ?」
「………」
何も言えなくなって黙る。
――だいたいこれで、どうリアクションを返せっていうんだか。
「あ、そだ☆」
しばらく黙ってると、またミルが性懲りもなく、なにか思い出した。
「今度はなんだい」
「シーモアってさ、これからどうすんの?」
「は?」
唐突にそんなことを言われて、思わず聞き返す。
「んとね、ほら、けっこうみんな、学院辞めちゃうみたいだからさ」
「ああ、その話。――あたしはこのままだよ」
「そなの?」
ミルが意外、って顔になった。
「シーモア、辞めちゃうかなって思ってた」
「そりゃ参っちゃいるけどね。でも今更帰る場所があるわけじゃなし。だいいちンなことで学院辞めたら、ナティエスが承知しないさ」
あの子だったら絶対、「あたしのせいで辞められたら迷惑」って言うだろう。
「そっか」
分かってるのか分かってないのか、ともかくミルが納得する。
「けどクラス、減っちゃったね」
「ああ」
シエラはもともと、一クラスが二十人に満たない少人数編成だ。なのに四人もいなくなったら、空席が目立つ。
「そのうちクラス替えがあるんだろうけど……しばらく寂しいだろうね」
「クラス替えかぁ。来年まではヤだな~」
珍しくこいつが神妙なことを言う。
もっともこの意見には、あたしも賛成だった。そんなあっさり隙間が埋まったら、死んじまった連中に悪い気がする。
「かといって……こればっかはね。教官の考えることだし。それよりナティエス送るのに、なにか持たせてやらないか? とっておきのやつを」
「あ、それいい考え~♪ んじゃさ、部屋に行ってなんか探そうよ♪♪」
昨日のあの時と同じように、あたしとミルは寮へと向かった。
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