Episode:01-27 戻らない昨日

◇Rufeir

 先輩たちといっしょに、あたしは食堂を出た。

 ――どこへ行くんだろう?

 ナティエスのペンダントを握り締めながら思う。

 でもこのペンダントが見つかったなら、ナティエスは喜ぶだろう。たしか両親の形見だと言って、とても大事にしていたのだ。

 なぜか先輩たちはホールへ行かず、そのまま廊下を歩いて、昇降台の前まで来る。そして立ち止まって、下へのボタンを押した。

 どうして地下なんだろうと思う。負傷者はホールだし、修繕も地上ばかりだ。たしかに戦闘中は年少組を避難させたから、少しは片付けなくちゃいけないだろうけど、今はそこは……。

 そしてやっと思い出した。

 地下は昨日たしか、遺体を。

 足がすくんだ。

 さっきの先輩の言葉がよみがえる。

「ナティエスが……死んだ……」

 急にめまいがして、立っていられなくなる。

「ルーフェイア、大丈夫か?」

 横からシルファ先輩が支えてくれた。

「無理にとは言いませんが……彼女に会えるのもこれが最後でしょう。早ければ今日の午後には荼毘(だび)にするそうですから。どうしますか?」

「行き……ます……」

 自分のものとは思えないような、かすれた声だった。

 足が思うように動かなくて、半分かかえられるようにして昇降台に乗る。

 ――怖い。

 けど、ナティエスは親友だ。それに孤児の彼女は、あたしやシーモアたち以外、泣く人もいない。

 扉が開いた。

「あ……」

 累々と並ぶ遺体。

 これにはさすがに、シルファ先輩も衝撃を受けたようだった。

「いったい、何人……」

「敵兵も合わせると、百どころではではないでしょうね。ルーフェイア、こっちです」

 先輩が一つの遺体の前で立ち止まった。

 かけてあった布をそっとめくる。

「ナティエス……」

 穏やかな表情で、眠っているようにしか見えなかった。

 でも……左腕がない。両足も。

 そっと頬に触れると、氷のようだった。

「ナティエス……苦しかった?」

 涙があふれて、ナティエスの上に落ちる。

 いろいろなことが思い出された。

 最初は……あたしのことを嫌ってた。「どこかの金持ちのお嬢さんが、道楽で入学してきた」と思ったんだそうだ。

 でもそのあとあたしのことを分かってくれてからは、ずっと仲良しだった。

 シーモアとミルとあたしとナティエス。四人でいろいろなことをした。

 他愛ない話をしてみたり、みんなでケンディクへ買い物に行ったり、先輩の任務に同行したことまであった。

 ロア先輩が個室に移ってあたしの相部屋が空いた時も、何も言わずに引っ越してきてくれた。

 あの笑顔を覚えてる。

 あたしが困っているといつも、「しょうがないなぁ」と言いながら手伝ってくれた。

「約束……したんです。バトル終わったら、ケーキの残り食べようって。なのに、なのに……」

 次々と涙がこぼれる。

「――すみません。私の責任です」

 タシュア先輩の思いもかけない言葉に、驚いて振りかえった。

 初めて見る表情。

「彼女を殺したのは私の知り合いです。もっと早くに……始末をつけておくべきでした」

「いいえ……」

 あたしは首をふった。

 ナティエスが死んだのは、たぶんあたしのせいだ。

「あたし……精霊、渡さなくて。まだ予備、あったのに……イマドには渡したのに……」

 精霊を持ってれば、ナティエスは死ななかったんじゃないだろうか。

 ナティエスの前に座りこんだまま、あたしは泣きつづけた。

「ごめんね、ナティエス。ごめんね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る