Episode:01-26 見えない事実

◇Sylpha

「ナティエスなら、ホールへ……手当てしに、行ったみたいですけど?」

 ルーフェイアの言葉に、胸を締めつけられるようだった。

 戦場で育ったこの子だ。タシュアの言葉の意味が、分からないはずがない。

 恐らく……事実を受け入れられないのだろう。

「だからルーフェイア、ナティエスは――」

「シルファ」

 タシュアが私の言葉を遮る。

「ルーフェイア、とりあえずそれを持っていてください。それから時間があるのでしたら、付き合ってもらいたい場所があるのですが」

「あ、はい」

 不思議そうな顔をしながら、ルーフェイアが答える。

 何も理解していないその表情が辛かった。

「飲まないか?」

 ジュースの入ったグラスを差し出す。

「ありがとうございます」

 一気に半分ほど飲んでしまったところを見ると、それなりにお腹は空いているらしい。

 ただ昨日の疲れもあって、正常な判断ができなくなっているようだった。

「朝食も食べていないのだろう? いま少し、分けるから」

「え、でも、悪いです……」

 遠慮する少女の前に、少しずつ取り分けてやった皿を半分押し付けるように置く。

「このくらいなら、入るだろう?」

「すみません……」

 食欲さえ無くしているのではないかと心配したが、幸いそうではなかったようだ。華奢な手にフォークを持って、ゆっくりと食べ始める。

「けど先輩、どこへ……行くんですか?」

 その様子がやりきれない。

「すぐに分かります。ともかくそれを食べてしまいなさい。私も自分の分を片付けますから」

「はい」

 素直にルーフェイアが食べ物を口に運ぶ。

 だが私は心配でならなかった。タシュアは……この子をナティエスに会わせようというのだ。

 ――耐えられるだろうか?

 人一倍繊細なルーフェイアでは、どうかなってしまうのではないだろうか?

 かといって、先延ばしにするわけにもいかなかった。

 遺体は早ければ今日中、遅くても明日には荼毘(だび)に付すことになっている。今を逃せば、もう二度とナティエスの顔を見ることはできない。

 しばらくして、食べ終えたタシュアが立ち上がった。

「ルーフェイア、行けますか?」

「はい」

 ルーフェイアも立ち上がる。

 この子を間にはさむようにして、私たちは歩き出した。

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