Episode:01-16 もう一度、立つ

◇Sylpha

『学院長のオーバルです。先ほどの作戦を少々変更します』

 なぜかミルが通話に乱入したあと、しばらくの間を置いて、再び学院長が話し出した。

「よかった、学院長やめる気になったんだ」

 隣でディオンヌがつぶやく。

「いくら劣勢だからって、チビたちを門に押し込んで死なせるんじゃ、サイアクすぎよね」

「ああ」

 実際にはそうなるのは一~二割らしいが、それでも納得できるものではない。

『本校に、門を開けられる生徒が存在しました。また、救援要請のルートも確保できました。ですのでまず彼に門の開放と、本土への救援要請をすることとします』

 誰だろう、と思う。

 タシュアはやれば出来そうだが……正直、やるとは思えない。ルーフェイアかとも思ったが、それなら「彼」ではなく「彼女」だろう。

 ――イマドか。

 学年主席で桁外れのルーフェイアがいるため、陰に隠れてあまり知られていないが、次席の彼も相当だ。

 それに彼はルーフェイアとは別の意味で、何かいろいろ変わっているところがある。何というか、普通の人間とは違った世界にいるのだ。

『門を開けて救援要請を出してから、一時間だけ待ちます。その間何か状況が動いたという報告がなければ、当初の予定通り低学年から、門を使って脱出します』

 ディオンヌがため息をついた。

「まぁしょうがないか。脱出とかやりたくないけど、救援がダメだったら仕方ないものね。まさか、玉砕するわけにいかないし」

 彼女の言うとおりだった。

 選びたくはないが……選択肢がない。

 最後まで戦うのもひとつの方法だが、勝てる見込みは少なかった。そしてもし負ければ、低学年の子たちも終わりだろう。

『敵軍は編成を立て直して、再度の侵攻を試みると思われます。こちらも編成をし直して、迎え撃ちます。いずれにせよ、あと長くても二時間です。そのあいだ上級生は、侵攻を何としても防いでください。――この学院に、未来を!』

 そう締めくくった学院長の言葉に、ディオンヌが笑った。

「言ってくれるじゃない。これじゃムリでも、やるしかないわね」

 もっともその顔はどこか、楽しそうにも見える。

 ――やはり、MeSの生徒なのだな。

 だが、私も同じだ。

「よし、これがラストよ。もう後が無いわ、みんな全力で!」

「了解!」

 志気があがる。

「指示に従って、みんな移動して。あと回復手段を持ってる人いたら、出してちょうだい。少しでも戦力を増強したいから」

 この言葉に、一気に辺りが騒がしくなった。

 救護班が、少しでも戦力を増強しようと奔走をはじめる。

「おい、これ使えよ。その程度なら間に合うはずだ」

「回復魔法使うから、ちょっと待ってね」

 いつ終わるとも分からなかったせいで出せなかった回復手段を、誰もが差し出す。

「これなら、思った以上にいけるわね」

「そうだな」

 さすがにほっとする。この調子なら、ここに相応の戦力を残したとしても、かなりの数を上陸地点の防衛に回せるだろう。

「ディオンヌ、行こう」

 この場を後輩たちに任せ、私たちも地上へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る