Episode:01-14 存在の意味
◇Rufeir
波が……引いた。
どのくらい戦ったかはわからない。ただ鳥を落としたあたりから、襲ってくる敵の数が徐々に減り、気づくと完全にいなくなっていた。
周囲を見回す。
数えたくない数の骸が足元に転がっていた。
生きている者はない。
――文字通りの皆殺し。
その中央に立って、あたしは虚ろだった。
何も感じない。感じたくない。
機械的に遺体を乗り越え、向こうに集められている負傷者の方へと行く。
別に義務感に駆られたわけではなかった。ただ何かをして、考えないでいたかったのだ。
目に付いた生徒から順番に、傷の程度に合わせて回復魔法をかけていく。
惨憺たる有様だった。
座っていられるのはまだいいほうで、自力で動けない生徒がかなりの数にのぼっている。そしてそのうちの何割かは、このままだったら死ぬだろう。
セアニーはもう、息をしていなかった。お腹を裂かれて内臓が見えている。
――ごめんね、セアニー。
こっちで頭を潰されているのは、カノンらしい。指輪に見覚えがある。
どうみても生きている生徒のうち半数は、もう戦うのは無理だった。
負け戦。
その言葉が頭をかすめる。
諦めるつもりはないけれど、確率としてはかなり高い。そしてあたしは、負けることの悲惨さを、この身で味わったことが何度もあった。
傷ついた仲間を見捨て、やっと逃げ延びて……。
けどこの学院に、逃げ場はない。もし負けることになれば、低学年でさえ死は免れないはずだ。
最低限、痛み分けに持っていく必要があった。
だが……勝ちは少なそうだ。
だいいちこちらがこの有様なのに対して、向こうはおそらくまだ、無傷の戦力が残っている。
「ルーフェイア、キミ、大丈夫? どっか……おかしいよ?」
「大丈夫です」
あたし、よほど疲れてる顔でもしてたんだろうか? ロア先輩が心配気に訊いてきた。
「そぉ? それならいいけど。でもムリしないでよ?」
「はい。――それより先輩、このあとどうしますか?」
先輩が肩をすくめた。
「……どうにもならないよ。かと言って、引き下がるわけにもいかないけど」
それはそうだろう。
どんな手を使ってでも向こうに兵力を引き上げさせなければ、あたしたち自身の命がない。
かといって、方法はないに等しかった。
向こうはおそらく相打ちでも構わないと思っている。でもこちらは、これ以上死傷者をだすわけにいかない。
条件的にかなり分が悪いのだ。
「ともかく守りきらなきゃね。ルーフェイア、裏庭はキミ頼りなんだから、しっかり頼むよ?」
「……はい」
そう言われて、さっきの光景がよみがえる。
周囲に折り重なる死体。
うめく者さえない、物と化した人の群れ。
本当は……逃げ出したい。
戦いのない場所で閉じこもっていたい。
けどそれが許されるわけもないことを、あたし自身がいちばんよく分かっていた。
あたしは、戦力なのだ。連射銃や爆弾と同じように。
そしてふと思う。
「戦うこと」。それ以外に、あたしに価値はあるのだろうか?
そもそも戦うこと以外なにも出来ないあたしに、どんな存在理由があるのだろうか?
兵器としてみるなら――あたしは間違いなく優秀だ。
でも、人としては?
殺すこと以外知らないあたしは、果たして……。
その時。
『――学院長のオーバルです』
通話石から聞こえた声に、誰もが顔を上げた。
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