第2話 青年・真之②
翌日の午前一〇時。
市内の中心街の駅前に、真之はいた。芹那と待ち合わせをした時刻は、午前一〇時。生真面目な彼は、「先輩を待たせるわけにはいかない」と考え、三〇分前から待機している。
「……ヒィッ、どこのヤクザだよ、あの人」
「……目を合わせちゃ駄目。因縁つけられるぞ」
すれ違う一般人が、怯えながら早足で去っていく。ただ立っているだけで周囲の人間を威圧する、肉食獣のごとき外見。真之の両親はごく普通の容姿だったが(物心つく前に亡くなったため、彼は二人の顔を写真でしか知らない)、DNAが特殊変異して彼は生まれたのではないか、と彼は時折思う。あるいは、生まれたときに病院で別の子と取り違えられたか。
「あ、真之君。ごめんね、待ったかしら?」
背後から快活とした声をかけられ、真之は振り返る。
そこに立っていたのは芹那だ。ただし、普段とはまるで違う印象だった。
ナチュラルメイクで彩られた両眼に、チークの塗られた頬。ほんのりと輝きを増した唇。仕事中は最低限の化粧しかしていない彼女だが、本気でメイクをすればテレビタレントにも負けない魅力を放つのだ。ブラウスとジーンズの組み合わせも、程よいラフさを演出している。
「ん? どうしたの、真之君」
「……いえ、何でもありません」
一瞬見惚れた、とはさすがに言えない。真之はぶっきらぼうな調子で話題を避けた。芹那は彼の内心を見抜いたのか、鈴を転がすような笑い声を漏らす。
「まったく、相変わらず素直じゃないわね。建宮さんの苦労も分かる気がするわ」
「どういう意味ですか?」
「ううん、何でもない。さ、行きましょ」
芹那に先導される形で、真之は彼女の背中を追う。
「先輩。付き合っていただきながら、こういったことを述べるのは失礼だと承知していますが。自分の懐事情には限界があります。安物を贈っても紺には喜ばれないのではないか、とも思うのです」
真之は以前から気がかりだったことを口に出す。
普段の生活が派手ではないので忘れがちだが、紺は数十億円もの資産を持つ大富豪だ。社会人一年目の下っ端公務員が買った品など、路端の石ころ同然の価値しかないのではないか。
そんな真之の不安に対し、芹那が呆れた様子で頭を左右に振った。
「チッチッチ。女心が分かっていないわねえ。最愛の息子が自分のために選んでくれたプレゼントなのよ? 喜ばないわけがないわ」
「そういうものでしょうか」
「そーいうものなの」
そうした会話を交わしながら、二人は駅前のショッピングモールへと入っていった。
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