「時間」
ミノル
「時間」
最近、私は少し高価な腕時計を買った。高価とは言っても値段は7千円程度であるが、アルバイトもしていない貯金でやりくりしている私にとってはやはりそれは高価である。
それを購入してからというもの、私は外に出かけるときは必ず肌身離さず身に着けるようになった。それから、買い物中ふとした瞬間や友達との会話に浸っている間にも頻繁に手首にある針を確認するようになった。そして、「今日は何時間本を読もう、今日は何時になったら帰ろう、今日は何時になったら風呂に入って何時になったら布団に入ろう」というように、常に時間で自分の行動を決めるようになった。 そういう習慣が身についてから、なんだか何をするにしても「あと何時間か」と考えるようになり、身が入らず、一種の虚無を感じるようになった。
そんな中である日ふと私は、時間という概念を意識の外側にしまって、眼前のレアリアに全意識を向けてみようという気が起こった。思い立ったが吉日と言う。早速実践してみると、なんだか自分を散々縛り上げていた何かからすっと解放されたような気がした。その時、私は気づいたのである。時間は束縛であるということを。
時間とは、太陽が東から昇って西へと沈み月が顔を出す自然現象に、人間が勝手に当てはめたものである。そこには実体などなく、あるのはある種の束縛である。
だから自分の行動は時間によってではなく、自分の感覚・思考・身体によって行われることが自然である。
夏目漱石が著した『草枕』で、主人公のある画家は自分のおもむくままに春の山路を写生帖とともに歩き回り、春の情景に趣を感じ、思索にふける。こういう感性が現代人には欠けている。
朝目が覚め窓越しの太陽の眩しさに一日の始まりを感じる。そして本を開けページを繰る音に興を感じ、己の精神と本の中の世界をリンクさせる。ちょっと疲れたなと思えば本を閉じて現世に帰還し、服を着替えて外に繰り出す。暖かな陽光を浴びながら道を歩いていると、そよ風になびく音で路肩に佇んでいたはずの草木の存在とその深緑の美しさに気づく。日が暮れれば帰路につき、家の玄関に入ると味噌汁の香りがふわっと鼻に漂う。食後自室に戻りふと窓の外を見上げ夜空に浮かぶ青白い月の優美な姿に恍惚とし、再び本を開いて眠くなるまで物語の世界に浸る。
私はこのように生きたい。
「時間」 ミノル @minoru1998
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