13|漫画家デビューは、1日にしてならず①
さて――
今回は、いつか書こうと思っていた、私の『漫画、投稿時代』から『デビュー』までをふりかえって、エンターテイメントに語ってみたいと思います。^-^
これまで、このエッセイを読んでいて、こう思ってる人もいるかもしれません。
私が漫画家デビューしたのは、イラストレーターしていた流れでポンと描いて、それが編集さんの目にとまり、ポンとデビューしてしまったと。
たしかに、編集さんの目にとまったことは、本当にラッキーなことだったと思っています。でも「宝くじ買ったら当たっちゃった♪」的なラッキーとは、ちょっと違うんですね。ただのラッキーだけで漫画家になれるほど、世の中、甘くないのです!
「ローマは1日にしてならず」
《押羽たまこ》の漫画家への道も「1日にしてならず」――なのです。
***
みなさん――
小学生のころ、卒業文集に将来の夢って書きましたよね?
私は、ご想像のとおり(?)将来の夢は「漫画家」でした。
でも、それは、まわりのみんなが、声をそろえて、
「タマちゃんは、絵がじょうずだから、ぜったい漫画家だよね~」と、私に無責任な言葉をあびせ、まんまと、その言葉に《洗脳》されてしまったという…それだけの話です。(笑
「そうか…絵が上手い人は、漫画家になるんだ…」
「みんなが言うんだから、ぜったいなれるんだ…」
それは、高校3年生になるまで、ずっと洗脳されつづけ…そろそろ進路を決めないといけなくなったときに「ハッ」っと気づくのです。
「あれ? そうはいっても、私、漫画なんてひとつも描いていませんけど?」と。
「描かなきゃ、なれるわけないじゃん!」と気づき(遅い!笑)、あせりにあせって、高校卒業寸前で、30ページの作品をひとつ描いて、あわてて『別冊少女コミック』(小学館)に投稿するのでした。
たぶん…すごくザツな作品だったと思います。^-^;(とっくの昔に捨てましたけど…)
しかし、なんと、その作品――《賞》をもらったんですね。
それは、その雑誌のコンクールの中でいちばん小さな賞で、『もうひといきで
しかし、それでも、自分の名前が、その雑誌の片隅に印刷されてるのをみて、有頂天になりました。
「なんだ、やればできるじゃん!」
「みんなのいうとおり、私ってすごいんだ!」
そして、調子にのって描いた次の作品が《期待賞》(賞金3千円)に入るのです。これで、ますます、テングになります。
《期待賞》の上は《佳作》で、《佳作》に入ると担当の編集さんがつきます。編集さん直々に、手取り足取り指導してもらい、漫画家への道は、ますます近づくというわけです。
そりゃあ…がんばりますよ。グータラな私だって!
しかしです。
私は知りませんでした。
そこからが、イバラの道だったということを…。
それから、3~4作は描いたでしょうか?
投稿する作品、どれもこれもが、みごとに《期待賞》どまり。
どうしても、つぎの《佳作》に手が届かない…いったい――なぜ!?
そこで、私は、うすうす気づきます。
「もしかして…プロになる才能…ないんじゃないか?」と。
しかし、家でひとり、モヤモヤしてても始まらないので、思い切って編集部に作品を持参して、殴りこみ…いや…ご意見をうかがいに行くことにしたのでした。
編集部に案内された私。
そして、煙草くさいヘビースモーカーなオッサン(鈴木さん)が姿をあらわしたときは、思わず、
「えッ!? ここって、本当に少女漫画の編集部ッ!?」と、心の中で叫びます。当時は、ほんとぉぉーーに、オッサンばっかりだったのね。^-^
また、そのオッサンが、語る、語る!(笑
「ぼくはさぁ…〇〇さん(当時の人気漫画家)の作品、スキなんだよねぇ…。あれは文学だよ。文学。わかる? 《ワタル君》がさぁ…《ノゾミちゃん》ふりきって、去ってゆく夕暮れのシーンあるだろ? 《ノゾミちゃん》は、そこに立ち尽くす。その道にながーい影が彼のほうにずぅーーーっとのびてる。その影の意味、わかる? あれは、《ノゾミちゃん》の《ワタルくん》に対する《想い》そのものなんだよなぁ…!」
「はあ…」
言ってることの半分もわからなかったけれど(^-^)これだけは、わかりました。「どうやら…プロになる道は、遠そうだぞ…」と。
でも、そのオッサンは、最後にやさしく、
「賞をもらえるぐらいの実力はあるんだから、がんばりなさい」
といってくれて、こう、私にアドバイスをくれたんですね。
「とにかく、漫画家はバカじゃなれないからね? たくさん勉強してください」
おそらく――当時19歳で、なにも考えていなかった私を「バカっぽい子だな」と思ってのアドバイスだったんでしょうね。^-^;ええ。ええ。
それから、私は《本》を読むことにしました。
まず、「バカを返上しなくては!」と思ったんですね。
その発想じたいが、バカっぽいですよね。(笑
でも、切羽つまってる人って、なんでもするんです。
思えば第2話の『私に物語空間が生まれた理由』でも、切羽つまって《映画100本ノック》をしてるので、私って、切羽つまらないと、なにもしない人間なんだなぁと、しみじみ思ったり、思わなかったり…。(どっちやねん)
さて――それから私は、部屋に引きこもり、まず読みはじめたのは『五木寛之』氏の小説たち。当時は五木先生、すごい人気で…しかも、とっても読みやすかったんです。
「青春の門」「蒼ざめた馬を見よ」「青年は荒野をめざす」「夜のドンキホーテ」「海を見ていたジョニー」などなど…その他、「他力」「生きるヒント」など、エッセイストとしても有名ですよね。たぶん、ほとんど読んでいます。
『五木のおじちゃん』の作品は、とにかく、エンターテイメントに仕上げる技がすばらしい! 読みやすさもそのひとつ。 当時のおバカな私でも、すらっと読める文章表現。それでいて、ちゃんと深い文学なんです。
(※余談ですが、私、ここで書いてる小説に、けっこう多めにルビをうってるんですが、それは、当時の《自分》が読めるか読めないかで判断してるんですね。「
もう少し、読んだ《本》を紹介してみましょう。
当時――家に、なぜか《文学全集》なるものがありまして…三島由紀夫、室生犀星、武者小路実篤、安部公房、太宰治、宮沢賢治…そんな作品がそろっていて、ほとんどが理解不能でしたけど(笑)『五木のおじちゃん』いわく。
「本は、読むものにあらず。やっつけるものなり」と。
向き合って戦うものなのだから、面白いとか、つまらないとかいうよりも、まず読め!と。字づらを追うだけでも読書なのだと…そういうんですね。
だから、とにかく、読みました。
理解しようが、しまいが、関係なく、ひたすら読んだ!
そして、そのうち、海外の文学にまで手を出しはじめます。
「地獄の季節」(詩人/アルチュール・ランボー)
「ファウスト」(ゲーテ)
「獄中記」(オスカー・ワイルド)
ここで、みなさん、お気づきかと思いますが――少女漫画とは、およそかけ離れた、トンチンカンな方向へ突っ走ってます、私。(笑
「おまえは、なにがしたい?」と、突っ込みたくなるところでしょうが、ガマン、ガマン。青春と暴走はワンセットです。
さて――そんな時期を経て、私は、ちょっとずつ、ちょっとずつ、かしこくなってゆきます。(とはいっても、底辺からの脱却なので、たいしたレベルアップはしていません。じっさい、いまだにボキャブラリー少な目です。笑)
天守閣にこもって、ひたすら書物を読みあさる『宮本武蔵』のように…「バカから抜け出すんだ!」とがんばった結果&ラッキーも加わり、ある投稿作品が、『週刊少女コミック』(小学館)という少女漫画雑誌の編集さんの目にとまりました。(※その漫画の内容も、べつに、高尚なものじゃなく、ただのラブコメです)
その編集さんが、第2話に出てくる編集O氏です。
ある日、家電に電話がかかってきました。
『はじめまして、こんにちはー。少女コミックのOと申しますー。あなたの作品、拝見しました。押羽さん、都内に住んでるんですねぇ? 近いので、一度、遊びにきませんかー?』
だいたい、こんな感じだったと思います。
彼は、語尾を「こんにちはー」って、のばすクセがありました。^-^
…で。遊びに行きました。
神田神保町にある《小学館ビル》は、その並びにある《集英社ビル》の2倍はデカくて、それはそれはどーーんと威厳を放っていたように思います。
O氏は、気さくで、やさしい感じの男性でした。
「押羽さんの作品ね、ボクと、もうひとり、気に入ってる人がいてね。とりあえず、ボクが担当につきたいと思ってますが…押羽さん…プロになるつもり、ありますか?」
「も、もちろんです!」
というわけで、めでたく(?)担当の編集さんがつき、指導をしてもらうことになったんですが――さっそく、O氏の指導がはいりまして…。
「あのね。少女漫画はね。もっとこう…繊細なペンタッチで描いてください」
「押羽さん、線が太すぎるんだよなー」
「目はね。こう…まつげをしゅしゅしゅって入れて、黒目のところはキラン☆って感じで星をとばしてください」
「髪の毛は2~3本をまとめて、さっさっさーって描くんです…」
私は、心の中で叫びます。
『 お、男のクセに、めっっっ…ちゃ、
ここで注釈いれますが、べつに、O氏が乙女っぽい人…ってわけではありません。
彼は、仕事に忠実なだけです。ええ。ええ。
・O氏は、自分が配属された編集部の雑誌を売らなければならない。
・『少女コミック』を少女たちに売らなければならない。
・したがって少女たちが食いつきそうな絵柄で引きつけなければならない。
・少女たちが食いつきそうなもの。
・それは、キラキラしたもの。かわいいもの。うっとりするもの。
そう――O氏は日夜、少女たちの流行をリサーチし、いかに他社を出し抜いて、自社の雑誌の部数をあげるか…奮闘努力をしておったわけですね。
しかし、当時の私は、まだちょっとおバカだったので…そんなO氏が背負ってる責任の重さなんてわかりません。ただただ、編集さんのご指導をありがたく受け、改善するべく、必死に努力するだけでした。そして、努力しながら、ふと、思うのです。
「私、まだデビューが決まったわけじゃ、ないんだよね?」と。
思えば、投稿時代、「編集さんが担当につく」ということが、ひとつの目標で、編集さんに指導されれば漫画家への道は保証されたも同然だと、勝手に思い込んでいた私ですが…冷静に考えてみれば、そんな保証はどこにもないわけです。
あたりまえですが、担当のO氏が『気に入ってる』だけで、デビューの保証をしてくれたわけではない。その、なんとも宙ぶらりんな気持ち…。
それは、みなさんも経験してるあのときと、まったく同じ気分でした。
( ※長くなったので、次へつづきます )
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