第10話 合格、続きは問題を解いてから?!
〈指導要項その二〉
〈実技指導〉〈10/10〉〈よくできました〉
〈回復指導〉〈9/10〉〈よくできました〉
〈エクストラ評価〉〈10/10〉
〈立ち上がる時には周囲をよく見てから動きましょう〉
〈マツナガ ユウミ〉
〈サカモリニシ 小学校 五年一組〉
〈受験者ナンバー ○☆&¥?%#$◇€!〉
〈指導要項その二〉
〈クリアしました。レベルが一つ上がります。〉
〈指導要項は終了しました〉
〈指導要項その一 28/30〉
〈指導要項その二 29/30〉
〈指導要項をクリアしました。素晴らしい成績です。報酬のベルトをお渡しします。校長室前まできてください。〉
〈次のステージに向かう場合は答えを入力してください。ログアウトする場合は、ログアウトボタンを押した後、校長室前の青い円へとお進みください〉
「クリアー、良かったー嬉しい!」
悠海は両手を上げて喜んだ。
今回の報酬はショートケーキではなくベルトだそうだ。
梟との友情アイテムを手に入れた時に聞こえてきていたベルトのことではないかと思う。
ケーキじゃないことはちょっぴり残念だが、手に持っている羽根をしまえるのなら凄く嬉しい。
校長室前には、先ほどまでは絶対になかった四角いテーブルが置いてある。
全てが木で作られているテーブルの上には真っ赤なリボンが結ばれた白い箱が置いてあった。
「これが、報酬…」
真っ赤なリボンを解いて箱を開けると、ポケットが付いた白いベルトが入っていた。
ポケットは全部で四種類。
右側、最も出し入れしやすそうな位置に縦と横幅が十センチ、マチが五センチ以上あるポケットが一つ、薄紫色をさらに淡くしたような可愛らしい色合いに赤いドットのバイアステープで縁取られている。中身が飛び出さないようにスナップボタン付きのふたがついているので安心だ。
赤いドットのバイアステープの横にあるのは大きさが半分ほどになった新緑の葉っぱのように濃くて鮮やかな緑色のバイアステープで縁取られたポケットだ。
シンプルに緑一色だが、温かみのある自然の色合いがアクセントになっている。おなじく薄紫色をさらに淡くした色合いの生地で、スナップボタン付きのふたがついている。
頭の中で聞こえてきた声が言っていた『友情アイテム』をいれる場所なのだろう。
左側、お尻少しかかる位置にあるのは青いボーダーのバイアステープで縁取られているポケットだ。
赤いドットで縁取られているポケットと同じくらいの大きさで、これも同じように薄紫色をさらに淡くした色合いの生地が使われている。
ふたは付いているがスナップボタンではなく差込錠が付けられている。
他のポケットは布で作られているが、ここのポケットは表面は布だが、裏には合皮かなにかで形が崩れないようになっている。装備を入れると言っていたのでよりしっかりと作られているのだろうか。
今のところこのベルト以外の装備品は持っていないので想像でしかないのだけど。
最後の黒いポケットは青いボーダーで縁取られているポケットよりも正面側にある。大きさは一番大きくて、マチは三センチほどだが縦が十五センチほどある。
他のポケットとは違い、全てが黒い色で、布というよりはナイロンっぽい。
その他と言っていたので何が入るのかまだ分からないが、よく使う可能性があるからこの位置なのだろう。
蝶がモチーフのバックルを留めると、右に左にとくるくる動きながら着け心地とデザインを確認している。
悠海の好みど真ん中である事は間違いなく、見ているよりもつけたほうが断然かわいい。
鏡で見たいと、突き当たりのトイレへと走った。
「かわいいー、箱を開けた時はまあまあかなとか思ってたけど、着けたら全然違う!ポケットの形が丸くてかわいい!あ、縫ってる色もそれぞれで違う!めっちゃかわいいー!」
白いベルトも工夫がされていて、落ちにくくするためなのか、腰の位置は少アルファベットのブイの字のように作られている。
ズボンのようにベルトを通さなくても大丈夫なようにサスペンダーなんかについているクリップがあって服に取り付けられるようにもなっている。
白いベルトはラメが入った白い糸で縫われていて、動くとさりげなくキラキラと輝くのだ。
鏡の前で存分にベルトを堪能すると、白い箱の前へと戻ってきた。
「ログアウトするのにベルトしたままだとダメだよね」
〔ベルトについての補足情報です〕
〔ベルトは装備していないと紛失する恐れがあります。ログアウトする際も装着することを推奨します。耐久値が下がるほど放置しているベルトは紛失する可能性が高く、紛失した際には中身の保証は一切致しませんのでご了承ください〕
〔また、ベルトを装着したままログアウトした場合は、紛失する恐れはありませんが、ログアウト先に持っていくことは不可能です。次回ログイン時に装着状態で入室できます〕
「着けたままでいなさいってことなんだね」
ベルトが入っていた白い箱と赤いリボンをきれいに畳んでいると、白い箱の底に四つ折りの白い紙があることに気がついた。
「危ない、気がつかなかったよ。えーっと、『坂森町で起こった大洪水はいつの出来事か』大洪水??」
災害の多い日本ではいつどこでどんな災害が起こるか分からない。
台風はもちろん地震や大雨での土砂災害、川が決壊して被害がでることもある。
自然豊かな坂森町も、いつそういった災害に見舞われるか分からないし、大雨で避難勧告が出たこともあるのだ。
地震や土砂崩れは最も可能性の高い災害で、台風がくることもあるので台風による被害もあり得るだろう。しかし川があるが、水量の割に広く高く作られている橋や川縁のおかげで大雨が降っても坂森町では川が決壊したという話は聞いたことがない。
「町の歴史なんて授業でやったりもするからなぁ。大洪水なんて習ったっけ」
不思議な内容に首をかしげるしかない。
「そういえば、次のステージに向かう場合は答えを入力してくださいって言ってた気がする。これを調べないといけないのか」
ここにいたところで、この問題は調べる事は出来ないだろう。
図書室はあるかもしれないが、他の教室と同じで鍵がかかって入れないのだと思う。
ログアウトをするべくタブレット、がないので児童昇降口の画面のところに行く。
「くうー、今度からはここにもタブレット置いておいてくださいー」
つま先立ちで箒の柄を必死に画面にぶつけると、なんとかログアウトの場所に当てることができた。
「ちょっと小さめの字で書いてあるから当てにくくて、はぁはぁ、疲れた。お腹すいたー!」
箒を掃除道具入れにしまうとカチリと音がするまでしっかりとしめる。
ほっと一息ついた悠海は、校長室前に出来た青い円の中に入って声を上げた。
「ログアウト!」
声にすると同時に手で目を覆った悠海は眩しい光に包まれながらログアウトしていく。
ログアウト処理をしています。少々お待ちください。ログアウト処理が完了しました。次回ログインの際に青い布をお持ちください。今回の続きから開始できます。ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております。〉
光が収まったようで手を離すとそこは坂森西小の校長室の前だった。
緑色の公衆電話を見て、戻ってきたんだなと思う。
「悠ちゃん?」
声をかけられた方を向くと万実が立っていた。
「万実ちゃん!大丈夫だった?!」
そうだった、なぜ忘れていたんだろうか。
一緒に《開かずの教室》に入った万実のことを悠海はすっかり忘れていたのだ。
「ごめん、なんか不思議なところに行ったでしょ?前回もそうだったから万実ちゃんに伝えようと思ったのに間に合わないし、しかも私、すっかり万実ちゃんのこと抜け落ちてて…ごめんね」
「ううん、それは私も一緒。真っ暗の中をずっと楽しく滑って降りていって、着いたら着いたで夢中になって試験を受けてたんだ。ここで悠ちゃんの姿を見るまで私もすっかり忘れてたの」
「そうなんだ、あの場所ってなんか変だよね?こんな風に忘れちゃったり夢中になったり、なんなんだろう」
「分かんない。あそこってうちの小学校でいいんだよね?」
「多分、あまりにも一緒な部分があるし」
「でも違う部分もたくさんある」
「うん…」
「学校の作りが全く一緒だから同じだとは思うけど、少なくても今の坂森西小ではないと思う」
「うん。あっ、万実ちゃんもここにいるってことは指導要項その二まで終わったの?」
「そうだよ。悠ちゃんも?」
「うん」
「じゃあ問題は」
「うん。『坂森町で起こった大洪水はいつの出来事か』って問題」
「私は、『藩主が住んでいた場所に建つ神社の井戸が埋まったのはいつか』。二人とも違う問題なんだね」
「そっかー、私は坂森町で大洪水って聞いたことがないから万実ちゃん一緒に調べられたらって思ったけど、問題が違うなら一緒には無理だね」
ここで万実を見たとき、聞いたことがなく、とっかかりも分からない問題を調べるのに二人なら大丈夫なんじゃないかと心強く思った気持ちがしゅるしゅると縮んでいく。
資料を読んでいくのはそんなに苦にはならないけど、発想といった意味では悠海は万実にば全く敵わない。
こういう時こそ万実の力を借りたかったのだが、問題が全く違うため協力は無理だろう。
「なんで?一緒に調べればいいじゃん」
「えっ?」
「私の問題も、悠ちゃんの問題もこの町についてだよね?調べる方向は一緒なんだから、協力していこうよ」
万実の言葉に目の前がパアッと広がっていく感じがした。
「うん、ありがとう」
「何言ってんの、私の問題だって悠ちゃんに調べてもらうし、町の歴史なんて古〜い資料なんか読まないといけなさそうだし、そういうのを悠ちゃんにしてもらおうって思ってるんだから、私は」
「うん、任せて。頑張るよ」
「よし、じゃあ早速今日から調べ物始めてみる?お昼ご飯食べたら二時に図書館集合でどう?」
「いいよ、ノートとか持って行かなきゃね」
「あっ、なんか勉強みたいだね」
「うん、まあ試験受験者って出てたから勉強といえば勉強なのかも」
「そっかー」
勉強かーと項垂れる万実の後ろに、すぅっと黒い影が写った。
「こら、お前らまだ帰ってないのか」
「「皆杉先生!」」
「とっくに下校時間過ぎてるぞ。仲良しなのはいいけど、そろそろ帰りなさい。遊ぶのはそれからな」
「「はーい」」
「…カバンは?」
「あっ教室に忘れてる!」
「私も!」
「はぁ、全く。カバンをとってきたらすぐに帰るんだぞ」
「はーい」
「先生、さようなら」
「はい、さようなら」
悠海と万実は急いで階段を駆け上がると渡り廊下を通って五年一組の教室へと向かう。
「階段ダッシュ、めっちゃ疲れる。ランドセルも一緒に持っていけば良かったなー」
「うーん、そしたら多分、カバンだけ《開かずの教室》の前に落ちてる、みたいになって余計にダメだと思う」
「あー、そっか。でも考えないといけないねー三階まで上るの辛い」
「毎回終わる場所が一緒ならいいんだけど、私、前は家庭科室の前だったから」
「それってその一?」
「うん、その一をクリアしてログアウトしたの。そしたら家庭科室の前だった」
「じゃあ内容によって終わる場所が違うって思ってた方がいいんだ」
「うん、多分」
ロッカーからカバンを取ると、教室を出る準備をする。
私たちが最後まで残っていたため窓が開いたままだった。
鍵までしっかり締めて教室を出ると、お昼からの計画を立てながら二人は仲良く階段を下りていった。
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