第9話 友達を作ろう?!





〔回復指導その二を開始します。敵の中には友情を育んで仲良くなることができる敵がいます。仲良くなるためには優しさと親切な心、そして思いやりが重要です。きちんと言葉にして対話をしてみましょう。〕



「味方になるってこと?」


床で目を回している梟を見て悠海は呟いた。

これは倒したということになるのだろうか。何もしていないのに床で目を回しているのだ。

いや、なにもしていないということはないだろう。

おそらく勢いよく立ち上がった時にぶつかってしまったのだと思う。

悠海に衝撃がなかったためにぶつかったという意識が少ないが怪我をさせてしまったということなのだろう。

本来なら、影に潜んでいたこの子を見つけたら合格だった気がする。

見つけることができなかったうえに怪我をさせてしまったみたいだ。


「会話するって言っても気絶しちゃってるし…この子を回復させたりできないのかな」




〔使用したい魔法は魔法装備に選択してください。新たな魔法の入手は本の中に隠れています。本を探しましょう〕




「本?タマがいた本?」


理科室で見つけた本の中には白く透き通ったタマがいた。手にひっついたタマはそのまま赤い玉に変わって、それが魔法として悠海の中に取り込まれていったことを思い出した。

頭の中で聞こえている声が言っていることを考えると、他にもあんな本があって、その中にはこの梟を回復させることができる

魔法もあるということだ。


梟がこのままでは対話もなにもない。むしろ怒られるのではないかと悠海は申し訳なさそうに梟を見る。


「床にずっと置いとくのもあれだよね」


悠海は梟をそっと手に乗せると、靴箱の上へ移動させた。


「梟ちゃん。ちょっと待っててね」


謝罪の意味も込めて回復魔法を探してみようと決意するが、ふと見回すとどこを探そうかと悩んでしまう。児童昇降口はさんざん探し回っているのだ。本のようなものはここにはないのではないと思う。


「校長室前とか、棚とかいっぱいあるし、どこかに隠れてるかも」


すでに赤いマーカーは消えている。駆け足で校長室前へと戻ると、色んな場所を探してみる。

賞状を飾ってある場所、トロフィーを飾ってある場所、学校の理念が貼ってある掲示板に、消火栓の周りにあるちょっとした隙間や幅があるところも見てみたが、本が挟まっていたり置いていたりはしていない。


「うーん、ここにもないのかな」


最後に公衆電話の辺りを探してみるが、そこにもない。


「えー、ないの?」


どこをどうみても本らしきものは見つからない。

諦めきれずにもう一周見て回るが結果は同じだ。

どうしようかと途方にくれていると、公衆電話横の柱の下になにかあるような気がする。

なんだかちょっと変なのだ。

しゃがみこんで見てみると、柱の下側が不自然にぽこっと飛び出しているではないか。

ちょんと触ってみるとざらっとした手触りで柱の手触りと少し違う気がする。


「怪しい〜!」


取れないか試してみようと手に持って引っ張ってみると、呆気なく取れてしまった。

柱にべったりくっついていたのでもっと強力に貼り付いているかと思い力を込めたのだが、勢いが余りすぎで後ろに転んでしまう。


「あいたっ!……っ!」


肘を打ちつけて悶絶するように床を転がる。目尻のうっすらと涙を浮かべると肘を必死にさすって痛みを無くそうとしてみる。

息を整えてやっと痛みが薄くなってくると、他の場所も打ちつけているのが分かった。


「…なんか、よくこけてる気がする…」


強か打ちつけていた二の腕をさすりながら手に持っている四角いものを見てみる。

柱と同じクリーム色のそれは、文庫を二つ並べたぐらいの大きさで厚みはファッション雑誌ぐらいしかない。

公衆電話横にあるスペースに置いてみるとしゃがんで見てみる。


「うーん、見た目は本っていうよりタイルっぽいよね、これ開けるのかな」


固そうな見た目に本だとは思えないが、これが違った場合はまた探し直しだ。

祈るように手を合わせると真ん中あたりで開くように持ち上げてみる。


「あっ、開いた。よかったー」


ホッとすると、雑誌を開くようにバッと開いた。

本の中も外と同じクリーム色だ。

開いている形があるからこちらが中だと分かるけど、やはり本というよりはタイルに近い。

この本も前の文庫サイズの紺色の本と同様で、今開いているページ以外はめくることもできない。

悠海は理科室の時のように本の中心に右手を置いた。


「わわっ」


ぐぐっと本の中に吸い込まれていき、あっという間に肩のあたりまで本の中に入ってしまった。今回は抵抗しなかったためスムーズに入っていったのだが、肩のあたりまで吸い込まれると今度は本の中から押し出すような感じがする。抗うことはせずにそのまま抜き出すと、手のひらには白くて丸くて下にいくにつれて薄くなっている何かが引っ付いていた。


「タマー!!」


悠海が大きな声で呼ぶと、返事をするように尻尾が揺れてくるっとひっくり返った。

プクーっと膨れると、前回、悠海が可愛いを連呼していた姿へと変わった。


「タマー、また会えたねー。可愛い可愛い、会えて嬉しいよー。タマもでしょ?」


返事をするように尻尾を揺らして、ウルウルした目をにっこりさせるとスゥッと宙に浮かびタマは白い靄で覆われた。


「えっ、ちょっと待ってよ、早いよー、もっと愛たかった…」


前回とはあまりにも違うあっさりとした再開と別れに、私は好かれていないのだろうかと半泣き状態で白い靄に向かって何度も語りかけるが、あっという間に散った靄の中にタマはいない。代わりにタマよりも白い丸い玉がポンっと手に落ちてきた。


「分かってるよ。これが体に入ると魔法を手に入れられるんだよね?分かってるけど、…タマー」


情けない声を出してタマを呼んでみるが出てくることはない。

次に見つけたら、容赦なく愛でてやる!

そう決意をしながら、白い玉を手のひらの中心に乗せた。



〔回復魔法キュアを手に入れました。回復魔法は自分に対して実行することはできません。友達や仲良くしたい相手にしか使用することはできませんのでご注意ください〕



「よし、じゃあ魔法装備にセットしよう。あっ、ここじゃできないんじゃないのかな。家庭科室に戻れるの?」


辺りにタブレットを見つけられず家庭科室まで戻ってみるが、鍵がかかっているようで中にはもう入れなくなっている。

理科室も同様に開くことはなく、困り果ててしまう。


「せっかく手に入れたのにセットできないなら意味ないじゃん。ここにタブレットないの?」


とぼとぼと児童昇降口まで戻ると、壁の上部にモニターがあることに気がついた。


「えっ?あんなのさっきまであった?」


家のTVよりも大きいそれは外から児童昇降口に入った時に正面に見える位置の壁に設置されている。

先ほどまでは絶対になかったはずだ。

しかし、いつもならここでひたすらに何故だろうと考えはじめて動けなくなる悠海だが、今は少し違った。

なんだかよく分からないのだが、これで魔法を装備できるようになるのならいのではないかと、思考を放棄してしまう。


悠海は予想以上に疲れていて、お腹が空いているのだ。


悠海はその画面に向かって「特色ステータス画面!」と大きめの声を出してみた。


「おっ、開いた。よし、変更、ってどうやって?!届かないよ」


なにか棒がないかと思い、床に落ちている箒を手に持った。


「これでとど、いたー!!よし!魔法…と」


背伸びをしながら箒の柄で画面を押していくと魔法装備の画面を開くことができた。

フレイムの下、〈なし〉となっているところを押してキュアの魔法を選択する。


「よしっ、これでいいはず。梟ちゃん、ちょっと待っててね。…キュア!」


手の上に梟を乗せて魔法を使うと、梟の体に白い砂のようなものが降りかかっている。その砂のようなものはキラキラと光っていて、梟の周りをゆっくりと回っている。

徐々に量が減っていくと目を回していた梟がパチリと瞬きをした。


「ホー」


飛び起きるように立ち上がった梟はクルクルした目を悠海に向けている。


「ごめんね、梟さん。私が急に立っちゃったからぶつかちゃったんだよね。わざとじゃないんだけど、痛かったでしょう?ごめんね」


梟の目を見て謝ると、小さな梟はもう一度「ホー」と鳴いて飛んでいってしまった。


「あっ、行っちゃった」


梟の姿はもう見えない。

回復したとしても償いは足りなかったのだろう。梟は友達になるどころか、その話をする前に飛んでいってしまった。

この回復指導は失格になってしまうのだろう。


いや、回復指導の合格だけじゃない。

もちろんもらえるなら合格がいいが、それよりも、怒らせたまま梟と別れたことが棘のように胸に刺さっている。

ぶつかってしまった私が悪いのだが、友達になれなかったことにもしょんぼりしてしまう。

どうするのが正解だったのだろうか。

ぶつかってしまった時点でもうダメだったのだろうか。

回復魔法がキュアではなくて別のものじゃないといけなかったのだろうか。

さっきの場面を思い返しながら、どうすれば良かったのだろうかと考えていると、足元に一枚の羽根が落ちているのを見つけた。

茶色のまだら模様、中心に行くほど白くなっているその羽根は、多分さっきの梟の羽根だろう。



〔回復指導その二をクリアしました。友情を芽生えさせた相手のアイテムはベルトに付いている緑色のポケットにしまってください。友情アイテムを無くすと、その相手との友情は破綻してしまう場合があります。大事に持っていてください〕


〔腰につけるベルトについて。ベルトには複数のポケットが付いています。赤い色が消費アイテム、青い色は装備していないアクセサリーなどの装備、緑色は友情アイテム、黒色はその他、です。適応していないポケットにはアイテムが入りませんのでご注意ください。ベルトに衝撃が加わってもポケットの中のアイテムには影響はありませんが、ベルトが損傷して壊れてしまうとポケットの中のアイテムは取り出せなくなります。修理または新しいベルトを手に入れて予備として用意しておきましょう〕



悠海は手に取った羽根を見つめて涙が出そうになった。

梟は許してくれていたのだ。しかも友情アイテムというものまで残して行ってくれていた。


「梟ちゃーん、ありがとー!また今度会った時も仲良くしてねー」


どこからか「ホー」という鳴き声が聞こえた気がした。




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