第4話 魔法の実技指導?!




「えっ?なんで?」


開けようと力をどれだけめてもピクリとも動かなかったドアがすんなりと開いてしまっている。

画面を見直しても廊下ろうかに出てくださいという文字が出たままだ。

何が始まるのだろうか。

ドキドキとしながらドアに近づき廊下ろうかをのぞいてみる。


「やっぱりうちの学校なのかな」


かべに木の板をっていたり、床も色やがらちがうが、理科室から見た光景こうけい悠海ゆうみの通う坂森西さかもりにし小学校と同じではないかと思う。

廊下ろうかの窓も理科室と同じで外は見えない。しかし明るい日差ひざしが廊下ろうかめていて、見慣みなれているようないない廊下ろうかに足をみ出した。



実技じつぎ指導しどうを開始します。廊下ろうかに出てくる敵に魔法を当てましょう〕



「え?え?」


廊下ろうかの中央にけむりが出てきた。けむりが消え、戸惑とまどう悠海の前にあらわれたのはチュウとく大きなネズミだ。


「ええ?!!」


小型犬こがたけんほどの大きさのでっぷりとふとった姿すがたのネズミはチュウときながらその場を八の字に歩き回っている。たまに立ち止まって周囲しゅういにおいをぐように鼻をひくひくさせ、また八の字に歩き回っている。悠海が見えていないのか全く気にすることなくその場で動き回る姿すがたは何かのプログラムのようにも見える。

足は短くちょこちょこという擬音ぎおんが聞こえそうな足取あしどりだが、尻尾しっぽが長く動きが少し気持ち悪い。

その様子ようす鳥肌とりはだが立ったうでをさすりながら悠海はそのネズミを見ていた。


「ううう、なんか気持ち悪いというか」



てき攻撃こうげきを当てましょう。手をてきに向けながら魔法の名前をとなえてください〕



「は、はい」


頭の中で聞こえてきた言葉にビクンと反応はんのうして背筋せすじをまっすぐにした悠海は、言われたように手をネズミに向けると、装備した炎魔法を口にした。


「フ、フレイム!」


両手から飛び出した炎のかたまりは真っ直ぐに飛んでいき、八の字にくるくると動いているネズミに見事みごとに当たった。

炎のかたまりはネズミにぶつかるとすぐにけむりを上げながら消えていく。チュウウウウ、というネズミの声がひびいたあとけむりが消えるとその場にはりの紙があった。



上手うまく当てることができましたね。手の向きを変えることで魔法の方向を変えられます。また一部の魔法では手のひらを上に向けると魔法が手にとどまることがあります。また軽くにぎるような形をとると魔法の力を大きくすることも可能かのうです。その場合必要ひつようなマジックパワーが多くなりますので注意ちゅういしてください。いろいろためして自分にあった魔法の形を作ってみよう〕



「は、はい」


どうやら実技じつぎ指導しどうが終わったようだが、最後の言葉に情報じょうほうが多すぎて把握はあくしきれない。

手の向きが関係かんけいあることと、マジックパワーというものがあるようだ。

しかし、特色ステータス画面でもマジックパワーという文字は見ていない。あとでもう一度特色ステータス画面を確認かくにんしておくべきだなと思いながらネズミがいた場所に落ちている紙をひろった。


「〈家庭科室へ〉か」


四つにられた正方形の紙には〈家庭科室へ〉という文字が書かれている。

廊下ろうかき当たりが第二理科室、廊下ろうか沿って第一理科室と家庭科室がならんでいるため、悠海は十歩ほどで家庭科室の前に着いた。

廊下ろうか側の窓から家庭科室の中は一切いっさい見えない。

家庭科室のドアをゆっくりと開けると中からいいにおいがしてきた。


「んっあまにおい…あっ!ケーキだ!」


ドアから家庭科室の中へと顔をのぞかせると、コンロと流し台付きの机が横に二れつたてに三れつならべられた家庭科室の中、中央奥の机の上に、氷水に入ったコップにお店のようにナプキンの上にかれたフォーク、そして真っ赤なイチゴの乗ったショートケーキがお皿の上にかがやくように鎮座ちんざしているのを見つけた。

スポンジを焼いた時のようなあまい香りが教室内にただよっていて、悠海はにおいにさそわれるようにふらふらと教室の中へと入っていった。



回復かいふく指導しどうを開始します。教壇きょうだんの上にかれているタブレットを見てください〕



あまにおいを鼻いっぱいに取り込むのにいそがしかった悠海は頭の中で聞こえる声に反応はんのいしてするのに少しおくれてしまい、途中とちゅうの言葉からしか声を聞き取れなかった。


「タブレットっていうのは聞こえたんだけど、タブレット、タブレット…」


きょろきょろと周囲しゅういを見回してみるが、理科室にあったようなタブレットは家庭科室の机の上には見当みあたらない。

一つ一つの机を引き出しを開けながら見てみるがタブレットのようなものは見つからず、ショートケーキがいてある中央奥の机には、理科室の黒板のところにあったふでのように透明とうめいかべがあるようで、さわることはおろか近づくこともできなかった。


「くぅ、すごくいいにおいだけただよわせてー、食べたい!」


近づけないと分かってはいるけど、つい近くにって行ってしまう。

悠海はごくんとつばを飲み込むとショートケーキを見ながらほおゆるめてキラキラとした目でケーキを見つめている。


〔その机からはなれてください。まだ指導しどうえていません。〕



「はいいい!!」


頭の中に強くひびいた声に即座そくざ反応はんのうした悠海は大きく一歩後ろに下がって、気をつけ、の形をとった。



教壇きょうだんの上にかれているタブレットを見てください〕



母親におこられた時のようにばした背筋せすじのままゆっくりと教壇きょうだんへと歩いていく。

同じ手足を出してギクシャクした動きで歩いて行っているが悠海は気づいていないようだ。頭の中に聞こえてくる声もつっこむことはせずに、タブレットを手に取った悠海に〔特色ステータス画面を開いてください〕と言うだけだ。


「うーん、頭の中で聞こえる声って、ヘッドフォンしている時みたいに他の音が聞こえづらくなるんだけど、こう、音って下げられないのかな」


いきなり声が聞こえるのはやはりおどろくし、周囲しゅういの音が聞こえないのは不安ふあんにもなる。

決して、先ほどの声が怒られたような感じがしてこわかったからというわけではない。

だんじてない!

自分の足音や服のれる音、ひとごとぐらいしかほかの音はないけど。



音声おんせい確認かくにんをします。〔この、くらいの音でよろしいでしょうか〕よければイエスを音量おんりょうを大きくまたは小さくしたい場合はタブレットの音量おんりょうボタンで操作そうさしてください〉



悠海の要望ようぼうこたえるようにタブレットに文字がかび、先ほどよりも小さくなって声が聞こえた。

そういえば理科室にあったタブレットに音量おんりょうボタンがあったなと、左側をを見てみるとこのタブレットにも同じようにボタンが付いていた。

悠海は二度ほどボタンをして音を小さくすると、タブレットのイエスの文字をさわった。



音声おんせい音量おんりょうを決定しました。回復かいふく指導しどうに戻ります。特色ステータス画面を出してください〉


〈自分の名前をしてマジックパワーの残量ざんりょう確認かくにんしてください〉




〈マツナガ ユウミ〉

〈サカモリニシ 小学校 五年一組〉

〈受験者ナンバー ○☆&¥?%#$◇€!〉

〈レベル 0〉

〈MP 68〉

〈魔法装備そうび

〈フレイム〉

〈なし〉



「あっ、MP!そっか、マジックパワー。マジックパワーのりゃくなんだ」


最初に見たときは〈MP 100〉となっていたはずだ。

今はっていて68になっている。

理科室もふくめて何回かフレイムといって炎を出していたから相応分そうおうぶんのMPがっているのだろう。



〈MPの回復かいふくは各教室で一度行えます。タブレットにて特色ステータス画面を表示ひょうじ後、一番下にある[回復かいふく]という字をタッチしてください。タブレットは教室内にあるものであればどれを使用してもかまいませんが、回復かいふく回数は変わりません〉


特色ステータス画面を開いてMPを回復かいふくさせてください〉



指示しじのあった通り一つ前の表示ひょうじに戻すと一番下の文字が灰色ではなくなりえらべべるようになっていた。

早速さっそく回復かいふく]という文字にれてみると、足元からあたたかい何かが身体からだ中をめぐって行っているような気がする。

ホワンと頭から湯気ゆげが出るような温泉に入った心地ここちよさを感じると、スッキリとした気分になった。

つかれやだるさが体からき飛んだように気分爽快そうかいだ。

悠海はぐーっと大きくびをする。


「はふう」



回復かいふく確認かくにん完了かんりょうしました。おめでとうございます。指導しどう要項ようこうその一をクリアしました〉

〈タブレット横の青い布を手に取り、中央の机に移動いどうしてください〉



さっきまで無かったはずの青い布が教壇きょうだんの上にかれている。

悠海はその布を手に取るとしげしげと見回してみる。原色げんしょくの青というより少しうすくてやわらかい色味いろみの青い布は、顔を近づけるとけて見え、スカーフのようにひらひらとしている。大きさはタオルのハンカチと同じくらいの正方形だ。

さわ心地ごこちのいいその布を手に持つと、ショートケーキがかれている机の前へ移動いどうした。



〔おめでとうございます。指導しどう要項ようこうその一クリア報酬ほうしゅうになります。食べ終わりましたらあと片付かたづけをしてタブレットの前へと来てください〕



「え?食べていいの?」


ケーキに手を伸ばすと透明とうめいかべは無くなっていて手に取ることができるようになっている。


「やった!美味おいしそうだったんだよねー」


いいにおいの元凶げんきょうでもあるショートケーキを報酬ほうしゅうと言われて、悠海のテンションは上がりきっている。一番好きなケーキの種類しゅるいだからだ。

机の下にしまわれている椅子いすを取り出してすわると、ナプキンの上にかれたフォークを手に持ちショートケーキにグッとし|いれる。


「んー!美味おいしい!!あまいし美味おいしい!あぁ最高だよー」


ほおに手を当てながら幸せそうにショートケーキを味わっている。半分ほど食べたらイチゴへと手をばした。

むとイチゴの果汁かじゅうが口に広がっていき、適度てきど酸味さんみあまみがケーキのあまさによく合う。イチゴを飲み込んでしまう前にケーキを一口ひとくち分取って口にほうり込むとあまりの幸せに力がけていく気がする。

しっかりとあじわいながらもフォークですくったケーキを次々と頬張ほおばっていった悠海は、あっという間になくなった目の前のお皿を見てかなしそうに最後の一口を食べきった。


美味おいしかったー!もう少し食べたいけど…いや、もうおなかいっぱいかも」


冷たい氷水を飲みきって一息ひといきついた悠海は、食べている時はまだまだ食べ足りない感じがしていたが、冷静れいせいになると思っているよりおなかふくれていることに気がついた。


「むしろ朝から食べ過ぎかも…」


自分のおなかに手を当ててちょっぴり不安になる。


「朝からケーキを食べて怒られないのかな…」


報酬ほうしゅうと言っていたけどこれもなにかの試験しけんだったりして、と今更ながらにオドオドしていると頭の中に声が聞こえてきた。



〔食べ終わりましたらあと片付かたづけをしてタブレットの前に来てください〕



「きゃっ!…あっ、はい!」


悠海は立ち上がるとおさらとコップをかさねてフォークを持つと流し台へと移動いどうした。


「びっくりしたぁ。はぁ、そういえば片付かたづけをしなさいって言ってたの忘れてた」


理科室とは違い家庭科室の水道は出るようで、横にかれた食器しょっきを洗うスポンジを水にらして洗剤せんざいらして洗っていく。

さら高台たかだい、コップの底のふちまで丁寧ていねいに洗うとハンドルをひねって洗い流し、布巾ふきんいていく。家庭科室に中に食器しょっきいているたなを見つけると、同じ種類しゅるいのものがかれている場所におさら、コップをしまってフォークは教壇きょうだん横にある先生用のコンロと流し台がついた机の引き出しの中にあったのでそこにしまった。

布巾ふきんを洗うと窓際まどぎわ設置せっちされているワイヤーロープにし、もう一枚あった布巾ふきんでテーブルや流し台などをきあげていく。

水がらないようにその布巾ふきんを洗ってすと、蛇口じゃぐちたおしてふたをした。

すわっていた椅子いすも机の下にしまうと、こしに手を当てて見まわしてみる。


「よし!完璧かんぺきかな?」


片付かたづけをえたため教壇きょうだんいてあるタブレットの前へとやってくると画面には〈クリア〉という文字が出ている。



指導しどう要項ようこうその一〉

実技じつぎ指導しどう〉〈10/10〉〈よくできました〉

回復かいふく指導しどう〉〈10/10〉〈よくできました〉

〈エクストラ評価ひょうか〉〈8/10〉

〈洗い物をするさいはエプロンを着用ちゃくようしましょう〉


〈マツナガ ユウミ〉

〈サカモリニシ 小学校 五年一組〉

受験者じゅけんしゃナンバー ○☆&¥?%#$◇€!〉


指導しどう要項ようこうその一〉

〈クリアしました。レベルが一つ上がります。〉

〈次のステージに向かう場合は指導しどう要項ようこうその二を、中止する場合はログアウトをしてください〉



「エプロン〜…」


教壇きょうだん近くにけられているエプロンを見てがっくりとかたを落とした。


「すっかり忘れてた、あーあと少しで満点だったのにー」


くやしそうにダンダンと机をたたいた悠海は気を取り直すようにタブレットを見直みなおす。


「次に進むか、ログアウト…?えっ?ここか出られるって事??」


知っているような知らない不思議ふしぎな場所から出られる可能性かのうせいがある事を示されて、悠海の心臓しんぞうは早い音を立てている。


「これ、あれだよね。ここから出るってだけじゃなくて、私のよく知ってる坂森西さかもりにし小にもどるってことでいいんだよね?」


不安から声に出して見ても誰も返事をするものはいない。いいタイミングで頭の中に声をひびかせているなぞ存在そんざいも返事をしない。

こわさはあるが戻れるのならためして見たほうがいいんじゃないかという気持ちと、また変な場所に辿たどり着いたらどうしようという気持ちで決め切らない。


「どうしよう…」


数十分はなやみ続けて、ようやく勇気ゆうきを出してタブレットの文字をさわってみることにした。



〈ログアウト、ですね。では、青いえんき出ますのでその中に入ってログアウトと言ってください〉



家庭科室の入り口に青く光るえんあらわれた。

悠海はおそおそる足をみ入れるとギュッと目をつぶって大きな声で口にした。


「ロ、ログアウト!!」



〈ログアウト処理しょりをしています。少々しょうしょうお待ちください。ログアウト処理しょり完了かんりょうしました。次回じかいログインのさいに青い布をお持ちください。今回の続きから開始かいしできます。ありがとうございました、またのおしをおちしております。〉






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