第3話 フレイムって?!




「うーん、うーん、なんだったかなあ。しまう?捨てる?片付かたづける?」


特色ステータス画面を声で消す方法をさぐっているが、悠海ゆうみとぼしいゲーム経験けいけんでは良さそうな言葉が思い浮かばない。


「ダウン、シャットダウン、うーん、じるって意味は…クローズ?」


うんうんとうなりながら考えていると特色ステータス画面が消え、何もなくなっている。


「やった。クローズなんだね」


ひねらずにそのままの言葉で良かったのだとむねをなでおろすと、もう一度ためそうと「特色ステータス画面!」と口にした。


「よし、じるよぉ……あれ?」


クローズと言う前に特色ステータス画面は消えている。


「あれ?」


もう一度特色ステータス画面を出すとクローズと口に出してみた。今度も特色ステータス画面は目の前から消えてしまう。


「どっちでもいいのかあ」


ずっしりと重石おもいしかたに乗ったようにつかれを感じながら項垂うなだれると、ため息をついて悠海はそばにあった椅子いすに座った。

現実ではなさそうな出来事できごとに、だんだんと夢を見ているような気分がしてきている。

どちらにせよ何か行動を起こしてみた方が自分が今、なにをどうすればがいいのか分かるかもしれない。

今いる場所、起こっていることを受け止めてみようかと悠海はよしっと声に出して気合きあいを入れた。


先ほど頭の中で聞こえた言葉を考えるに、特色ステータス画面を色々いろいろと見た方が良いのだろうか。

とりあえずもう一度見てみようと再度特色ステータス画面を開いた。


特色ステータス画面!」


名前と魔法という文字以外いがいは灰色になっている。

特色ステータス画面にふれることは出来できず、どうすればいいのか皆目見当かいもくけんとうがつかない。

黒板もどきの場所にあったふでつかめたのなら、それで操作そうさできるかためしたいのだが手に取れないのだから意味がない。


特色ステータス画面って関係ないのかな、なにか他に探してみようか」


机の上を見ると、大きめのタブレットサイズほどの画面がそなえ付けられている。これにはれられるようでいろいろと調しらべていると上部じょうぶ電源でんげんボタンを見つけた。

相変あいかわらず視界しかいの右下には特色ステータス画面が出たままであるが、どうすることもできない以上いじょう放置ほうちだと悠海はかまわず机の上の画面の電源でんげんボタンをした。

ヴォンというひくく小さな動作音どうさおんが聞こえると画面が明るくなり文字が浮かび上がる。


〈教育システム Kurushima〉


文字はすぐに消え、画面が真っ白になると別の文字が出てきた。


試験受験者しけんじゅけんしゃ確認かくにんをしました。同期どうきしますか?〉


「へ?」


画面にはイエスとノーの文字が出てきている。

呆然ぼうぜんとしていると視界しかいの右下があわく光っているような気がした。

特色ステータス画面に目をやると白いウィンドウが優しく点滅てんめつしている。同期どうきするのはこの特色ステータス画面のことなのだろうか。

悠海は机の上の画面の中に表示ひょうじされているイエスの文字にれた。



〈ただいま同期中どうきちゅうです。電源でんげんを切らないようにご注意ちゅういください〉

同期どうき完了かんりょしました〉

〈ユウミのレベルは0です。取得しゅとくした魔法は魔法装備そうび登録とうろくしなければ使用しようすることは出来できません。特色ステータス画面を確認かくにんしてみましょう〉



「え?確認かくにん、これでできるようになったのかな?」


先ほどまで右下にあったはずの特色ステータス画面は机に設置せっちしてある画面の中にあった。

先ほどまでとはちがれることができる。

悠海は早速さっそく自分の名前にれてみた。



〈マツナガ ユウミ〉

〈サカモリニシ 小学校 五年一組〉

受験者じゅけんしゃナンバー ○☆&¥?%#$◇€!〉

〈レベル 0〉

〈MP 100〉

〈魔法装備そうび

〈なし〉

〈なし〉




「魔法装備そうびってどうすればいいんだろう」


魔法装備そうびという文字をいくらさわっても変化へんかはない。ヒントらしきものなく、おそらくここでは変更へんこうをできないのだろうと思い、前の表示ひょうじに戻ろうとするが、どこをせばいいのか分からない。


普通ふつうこういう時って下にほうに戻るボタンがあったりすると思うんだけど…」


画面には戻るという時も矢印やじるし見当みあたらない。スワイプしてみても戻る気配けはいがなく、ピンチインしてみても表示ひょうじされている内容ないようも大きさも変化へんかがなかった。

こうなったら画面本体を見てみようと、左側をのぞくと音量おんりょうボタンや各種かくしゅ差込口さしこみぐちがあり、右側も種類しゅるいちがう別の差込口さしこみぐちならんでいる。

電源でんげんボタンがあった上部じょうぶを見ると、電源でんげんボタンから少しはなれた位置いち音量おんりょうボタンと同じ形のボタンが横向きに付いていた。

長方形のボタンの中央が低く、はしに向かうほど高くなっていて、それぞれに二等辺三角形を横に倒したようなマークが付いていて、頂点が左右に別々に向いていた。


「これ、したら戻るんじゃないの?」


左に二等辺三角形の頂点が向いているボタンを押すと、予想よそうどおり名前と魔法という字が表示されている最初の特色ステータス画面に戻った。

すぐさま魔法の文字にれてみる。




魔法

取得しゅとく 〈炎魔法〉


魔法装備そうび

〈なし〉

〈なし〉



魔法に関する場所なのだろう。魔法装備そうびという言葉もあるし、炎魔法というのも頭の中で聞こえた言葉の中にあった気がする。

魔法装備そうびとある下の部分は灰色だが、炎魔法という文字はさわれそうだ。



魔法

取得しゅとく 〈炎魔法〉フレイム


〈炎魔法〉フレイムを装備そうびできます。

装備そうびしますか?



イエスを選択せんたくすると魔法装備そうびの下に〈フレイム〉という文字があらわれた。

これで魔法を装備まほうできたということだろうか。

しかしフレイムという文字をさわっても何も起こらない。


「んー、装備そうびできたんだよね?でもそれでどうすれば…」


炎というからには火よりもはげしいものなのだろう。しかしたと使用しようできるようになっていたとしても使えない。火事になったらどうするのだろうか。


この教室の水道からは水が出ないし、いざという時に消火しょうかもできないとなるとためしてみようという気持ちがなくなる。

そもそもの使い方もわからない。文字にれてみても何も起こらないのではどうしようもなさそうな気がする。


「フレイムねぇ、きゃっ!!」


画面をさわっていた右手から突如とつじょ大きな火があらわれた。

おどろいた悠海は飛び上がるように椅子いすから立ち上がった。

頭の中は真っ白で、どうしようという言葉しか浮かんでこない。恐怖きょうふを感じた悠海は、とにかく火をどこかにやりたいと机に設置せっちされている小さな流し台に向けてぎゅっと目をつぶりながら上から下へと大きく右腕みぎうでを振った。

そろそろと目を開けると、机にそなえられている流し台に赤とオレンジ色の炎が立ち上がっている場面だった。

ゾッとした悠海は、火事になる、と後ろ足でけ出そうとしたが、立ち上がった火は瞬時に消えてしまった。

へなへなと力がけ、ゆかに手をつきながら安堵あんどの息をいた。


「ついげちゃったけど、火事にならなくて本当に良かった」


パニックを起こし咄嗟とっさにしてしまった行動だがよくよく考えるととんでもない。

すぐに消えてしまったが、消えなかったらどうなっていただろうか。流し台ではなく机に移っていたら?

後ろにある机の上には椅子いすさかさまにかれたままだ。あしの部分はパイプ椅子いすのような感じだがの部分は木だと思う。

この机の上で燃え広がっていたかもしれない。目をつぶってしまっていたし、球技きゅうぎがそんなに得意とくいでない悠海のコントロールでは、流し台に入っていない可能性かのうせいの方が高かった気がする。

悠海は自分の周囲しゅういの机を見回みまわしながらおそろしさに体をふるわせた。


ちが結末けつまつ想像そうぞうしながら自己嫌悪じこけんお反省はんせいり返して悠海はやっと立ち上がった。


椅子いすに座りなおそうかと思ったが目線めせんの先に流し台が目に入り、ふとあの炎で流し台は大丈夫だったのかと思いいたる。

急いで机に設置せっちされている流し台を見てみるが、白い流し台にはあとひとつ付いていなかった。

あんな炎であれば熱くなってしまっているだろうとおそおそる指でさわってみるがなぜか熱さを感じない。

今度は大胆だいたんにも手全体でれてみたが炎の熱さどころかひんやりとしており、つるりとした感触かんしょくのよくある流し台に向けて「うむむむむ」とうなってしまう。


「いや、いいんだけど。火事にならなかったし、被害ひがいがないにしたことはないんだけど…」


に落ちないが、魔法とはそういうものなのだろうか。

そういえば普通であれば手のひらは大火傷おおやけどっているはずだ。しかし、どれだけよく見ても火傷やけどをしたようには見えない。ヒリヒリとした火傷やけどをした時の痛みも全くないのだ。

思い返せば炎があらわれた時私は熱さを感じていただろうか。

突然とつぜんのことでパニックになっていたため確信かくしんは持てないが、右手はもちろん、顔も体も熱さを感じていなかった気がする。


もう一度ためしてみようか。


悠海の中の好奇心こうきしんがまたあらわれてきた。

炎の影響えいきょうを受けなかったのだから、もう一度くらいならこの流し台で魔法を使ってみても大丈夫なのではないだろうか。おそらく炎魔法の横に出ていた文字を口にすれば先ほどと同じ現象げんしょうが起こるのだと思う。

流し台の底に手のこうを付けると「フレイム」と口にした。


「っ!」


あらわれた炎は手のひら全体かららめくように立ち上がっている。

しかし、やはり熱さを感じない。しかもいきおいのはげしいイメージをしていたが、どちらかというとろうそくにともる炎のように小さくゆらゆらとえている。

さっき手のひらにあらわれた炎より弱いのかもしれないが、ばくばくと心臓しんぞうの音が耳に聞こえてきそうなほどり、ごしの悠海には、炎をしっかりと見る程度ていどには余裕よゆうができた。

左手を炎のそばへとやるが、やはり熱さは感じない。

しかし素早すばやい動きで指を炎にれさせようとチャレンジしてみたら、今度は左手の指先に炎が移ってしまった。


「えっ!!」


あわてて流し台の中で両手をブルブルと振ると手にあった炎は全て消えてしまった。


「はぁはぁ、ビックリした…」


落ち着いて息をととのえてから考えをまとめようと、椅子いすすわると、机に設置せっちされている画面に文字が表示ひょうじされていた。



〈炎魔法フレイムを使用しました。実技じつぎ指導しどう開始かいしします。廊下ろうかへと出てください〉



廊下ろうか?」


悠海が前を向くと、先ほどまで全く開く様子がなかったが開いていた。


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