第2話 不思議な生き物?!



「いやーーなにこれなにこれ、なにこれーーー!!」


手のひらを下に向けても、ブンブンと手をっても、“それ“ははなれることはない。机に何度もりつけようと思っても通り抜けてしまい意味はなかった。


何をしても手からはなれる事がない白くてうっすらけたお化け(仮)は、細くなった部分をひらひらと動かして悠海ゆうみの行動を笑っているように感じる。

肩で息をするほど動き回りつかれていたこともあり、お化け(仮)にたいしてこわさよりも腹立はらだたしさが勝った。


「なんで取れないの!」


ほおふくらませて手のひらに文句もんくを言うと、お化け(仮)はまたたきをした、ように悠海には見えた。


「んっ?!」


自分の手のひらをいろんな角度かくどから見てお化け(仮)を観察かんさつする。

感じとった変化へんかは気のせいなのだろうか、悠海の口からは「うむむむむ」というつぶやきが聞こえる。

これは集中した時に思わず出てしまうくせで、自宅じたく以外の場所や人前ひとまえで出さないように気をつけているのだが、今は自宅じたくではないが誰もいないため出すがままにしている。

悠海のくせ影響えいきょうを受けたのか、お化け(仮)がれている気がする。


「んん?」


つぶやきを止めるとれもなくなった気がする。

もう一度「うむむむむ」と口に出すと、今度こんどは細く透明とうめいになっているひらひらとした部分が細かく左右にれていた。


「いやーーーー!!」


こしから首筋くびすじにかけてでられるように鳥肌とりはだが立った。

悠海はまたもうでをバタつかせお化け(仮)をがそうと必死ひっしだ。

今度こんどつくえ設置せっちされている水道の蛇口じゃぐちひねり、水で流そうとこころみる。しかし、いくら蛇口じゃぐちひねっても水の一滴いってきも出てくることはない。

児童昇降口じどうしょうこうぐち側にならんで設置せっちされている蛇口じゃぐちを順番に一つづつためしてみるが、どの蛇口じゃぐちからも水が出ることはなかった。


のどかわいたらどうしよう、そう頭にかんだ時、悠海はこの部屋から出られないという事を思い出した。

その事に落ち込み泣いていたのに、不思議ふしぎな本と手のひらにひっついたお化け(仮)のことで頭の中からすっかりちていたのだ。


「どうしよう」


水道から水が出ない。それを理解りかいした途端とたん、今まで気にもしていなかったのにのどかわいていることを自覚じかくする。

あれだけさけび、バタバタとあばれていたら当然とうぜんだろうが、自覚じかくしたことで悠海に危機感ききかん再燃さいねんした。


今度は手のひらのお化け(仮)のことが意識いしきからはずれ、何かないかと周囲しゅういを見回している。

悠海の意識いしきちがうものへとうつったと分かったのか、お化け(仮)は不機嫌ふきげんそうにれていて、気を引こうとしているようだが悠海は気づくことはない。

しびれを切らしたかのように全身を膨張ぼうちょうさせ大きくれると、ようやく悠海の意識いしきが手のひらへと戻る。


「えっ!?」


ふっくらとしたお化け(仮)は、手のひらほどの大きさから指を広げた手の全面ぜんめんほどの大きさにわっている。左右にグラグラとれていて、いきおいいをつけるための動作どうさにも見える。

悠海がハッと息を飲み込んだ瞬間しゅんかん、お化け(仮)がこちらを見ていた。


見ているというのは比喩ひゆではなくお化け(仮)に目がついているのだ。

つぶらなひとみで、無駄むだ可愛かわいらしい。うるうるしているように見えるのは気のせいだろうか。

悠海はおどろききのあまり目を見開みひらき、いきくことをわすれている。


「っ……!!……っ、はっ、はあああ、はぁ」


き出すことを思い出して呼吸こきゅうととのえると、あらためて自分の手を見てみる。

まんまるとしている形はそのままだが細くなっている部分ぶぶん成長せいちょうしていないようで、ボブテイルのねこ尻尾しっのようにちょこんとしている。


可愛かわいらしい。


お化け(仮)を可愛かわいいとみとめたくないという気持ちが悠海の中でしっかりと主張しゅちょうしているのだが、小さな尻尾しっぽ(仮)が可愛かわいらしいのがいけない。あとうるうるさせた目(仮)も。


誘惑ゆうわくに負けて左手の人差し指をそろりと近づけてみる。

うるうるさせた目の上、おでこであろうあたりに指を持っていくと、ふよんっという感触かんしょくを感じた。ビニールぶくろに水を入れたようなまれるやわらかさと、空気の入った風船ふうせんりが両立りょうりつしたような、何度もれたくなる感触かんしょくだった。

あつい夏の今、つめたさを感じるのもいただけない。さわるのをやめられないのだ。

左手の人差し指だけだったのが、中指がくわわり、親指に交代こうたいしたころには右手は若干じゃっかんお化け(仮)をにぎりしめるような動きをしており、最終的にはほおずりをするまでにいたっていた。


「はぁー可愛かわいいかも、つめたいし、まん丸で、尻尾しっぽ(仮)も可愛かわいいー!」


目は?というお化け(仮)からの意思表示いしひょうじがあったようにも感じられたが、悠海は無かったことにしてで続けている。


「名前は?あっ、つけてあげるよー♡」


お化け(仮)の可愛かわいさにすっかり籠絡ろうらくされた悠海は、気持ち悪さにさわいでいた警戒心けいかいしんの強い自分をて、両手りょうてでグリグリと全体をで回しながら、どんな可愛かわいい名前にするかまよっている。


「んー、ボブテイルみたいな尻尾しっぽ(仮)に似合にあ可愛かわいい名前を考えなきゃね!丸くて可愛かわいい、うーん…あっ!白い色!白い色ならこの名前しかないよね」


かがいた目とよろこびにちた表情ひょうじょうの悠海にお化け(仮)の期待値きたいちも上がっているようで、かなりのはやさで尻尾しっぽ(仮)をっている。

祖母そぼの家にいる犬の佐助さすけがご飯を前にした時のようだと、お化け(仮)を見て悠海のテンションもさらに上がった。


「タマ!あなたの名前はタマだよ!」


夏の海にきらめく太陽の光のようにさわやかな笑顔えがおはっした言葉は、最初、お化け(仮)の耳に上手うまとどかなかったようなのだが、お化け(仮)の反応はんのう心待こころまちにしている悠海の真っ直ぐなひとみを見て、聞き間違まちがいや冗談じょうだんなどではないのだとお化け(仮)は愕然がくぜんとした。

決められた名前におどろいたような雰囲気ふんいきがお化け(仮)…いやもうあきらめよう、タマからあふれ出ているが悠海は気づくことはない。

純粋じゅんすいまなこでタマのよろこ姿すがたを今か今かと待ちかまえている。

これはもう覚悟かくごを決めるしかない。

悠海以外にタマの様子ようすうかがえる者はこの場にはいなかったが、たとええるとするならばそういう表情ひょうじょうであったということは皆様みなさまにはつたえておこう。


大きく左右に尻尾しっぽにタマの気遣きづかいが見てとれる。

ウルウルしている目をニッコリと微笑ほほえみにえ、よろこびの反応はんのうを待つ悠海に全身をふるわせてタマはこたえた。


「わあ、こんなによろこんでくれるなんてうれしいー。タマ、名前気に入ってくれた?」


もっと大きく尻尾しっぽらしながら微笑ほほえむ目でタマは反応はんのうする。その姿すがたに悠海はねるようによろこんだ。


「良かったー。ねえタマ、可愛かわいいねえ」


タマをで回しながらでていると、手にいてはなれなかったタマがきゅうちゅうかんだ。


「えっ?」


自分の手を見てもそこにはタマはいない。

かんでいるタマを見るとパチッパチッとまばたきを二度した。

どこから来たのか白いもやがタマの周りをおおうように増えていきタマの姿すがたはすぐに見えなくなってしまう。


「えっ?!」


あわてた悠海は咄嗟とっさに白いもやの中へと右手をばすが何の感触かんしょくも感じとることはできない。

タマがいたであろう場所に左手もばすと、両手りょうてでなにかをつかむようににぎってせた。

手の中になにかあるような感じはしない。おそおそる広げて見るとビー玉ほどの大きさの赤い球体きゅうたいがあった。


「えっ?」


白いもやへと顔をけるとそこにはすでになにもなかった。

何かの気配けはいも、タマも、白いもやも、その場にはなく、外を映さない窓と見覚えがあるような無いような理科室がただ目の前に広がっているだけだった。


「タマ?」


手の中にある赤い球体きゅうたいに話しかけてみる。

返事はないがこの球体きゅうたいがタマなのではないかと悠海は感じていた。

姿すがたを変えたのだろうか?

これはなんだろうか?

左手をくぼませて赤い球体きゅうたい移動いどうさせると指先で感触かんしょくたしかめるようにコロコロところがしてみる。

光を通してかげに色がうつっているため石ではなくガラス、まさにビー玉と同じだ。

ころがすのをやめて手首を動かしながら赤い球体きゅうたい観察かんさつしていると、手のひらの中心部ちゅうしんぶに赤い球体きゅうたいころがっていきゆっくりと止まった。

その途端とたん、赤い球体きゅうたいが手のひらの中へとまれていく。

ギョッとした悠海は急いで赤い球体きゅうたいつまもうとするがあっという間に手に中へと消えていってしまった。


「えええええ?!」


自分の左手の中心ちゅうしんるように見ながら、悠海は目の前で起こった現象げんしょう戸惑とまどってさけんでいた。


一体何がどうなって体に中に赤い球体きゅうたいが入っていったのか悠海は見当けんとうもつかない。

しかし、目の前で自分の手の中に入っていったことは間違まちがいなく、どうやって取り出すのか、取り出せるのか、あんな物が体に入ってしまって自分の体は大丈夫なのだろうかと、頭の中でいろんな考えがグルグルと取りめなく回り、整理せいりをすることができずにいる。






炎属性ほのおぞくせいを取り込みました。炎魔法ほのおまほうフレイムを取得しゅとくしました。くわしくは特色ステータス画面がめんを確認してください。〕





「へっ??」


頭の中で声が聞こえると同時どうじに、手を軽くばしたあたりの視界しかいの右下にパソコンなどで使われるようなウィンドウがあらわれた。

この教室にある黒板もどきのような白いウィンドウにはいくつかの項目こうもくがあるが、ほとんどが灰色はいいろ表示ひょうじされている。

一番上の松永悠海まつながゆうみという字と、その下の魔法という字は水色で白く縁取ふちどられて表示ひょうじされており、存在感そんざいかんがあった。


「なにこれ?どういうこと?」


顔や目を動かしてみるが、悠海にいているかのように一緒に移動いどう視界しかいから外すことができない。

何度も挑戦ちょうせんするが一向いっこうに消えることがなく、悠海はだんだんとこわくなってきた。

目をぎゅっとつぶり、ウィンドウがかんでいるであろう場所で消えて欲しいとねがいながら両手ではらうようにる。

ゆっくりと目を開けると、そこにあったはずのウィンドウが消えて無くなっていた。


「良かった。ずっと消えないのかと思った。またあらわれたりするのかな?」


そうつぶやいた瞬間しゅんかん、またも右下に白いウィンドウがあらわれた。


「えっ?なんで?」


おどろいた悠海は、またウィンドウがいているであろう場所ではらうように両手をるが今度は消えることはない。


「さっきは消えたのに…」


さっきのように消えて欲しいとねがった瞬間しゅんかん、目の前からウィンドウが消えた。


「えっ?」


悠海はパチッパチッとまばたきをすると、軽くにぎったこぶしあごに当てて今起きた現象げんしょうについて考えてみた。

手をっても消えなかったが、消えて欲しいと考えたら消えて、あらわれたらどうしようと考えたらまたあらわれた。でも今考えているのにウィンドウはあらわれることはない。

この差はなんだろうか。


さっきは白いウィンドウがかんでいる様子ようすを思いかべながらあらわれたらどうしようかと考えていた気がする。

悠海はむねの前で軽く手をむと、白いウィンドウを思いかべながら心の中で言ってみる。


(あらわれて!)


すると、右下に白いウィンドウがあらわれた。

今度は消えてと心の中で言いながら白いウィンドウが消えるイメージをすると、たちまち目の前から消えていった。

想像そうぞうしながら現象げんしょうを心の中で言葉にするととその通りになるようだ。

声に出して見たらどうなんだろう?

考えていないとあらわれてないのか、ためしてみようと悠海は声を出してみた。


「白いウィンドウ」


声に出してみるが目の前にあらわれることはない。


「うーん、やっぱり想像そうぞうするしかないのか」


次は頭の中で白いウィンドウがかんでいる様子ようすを思いかべた後、声に出してみた。


「白いウィンドウ」


だが、今度も白いウィンドウが悠海の前にあらわれることはない。

もしかしたらもう白いウィンドウはあらわれないのではないかと思い、頭の中に白いウィンドウを思いかべながらあらわれろと考えると、白いウィンドウは悠海の目の前にあらわれた。


「どういうこと?」


その後、何度もためすが声に出すとあられることはない。

これは、頭の中で考えないと無理むりなのではないかと思ったが、もしかしたら名称めいしょうがあるのではないかと思いいたった。それは、頭の中で急に聞こえた声が言っていた言葉が白いウィンドウではなかったと思い出したからだ。


「確か…特色ステータス画面がめんって、わあっ!」


悠海の視界しかいの右下には白いウィンドウがあらわれている。


「声に出すときはちゃんと名称めいしょうで言わないとダメなんだね。消すときは?消えて…無理むりだなあ」


今度は声で消えないのかとためしたが、心の中で言っていた言葉では白いウィンドウ、特色ステータス画面がめんは消えることはなかった。


「なんか、これってゲーム?っぽいよね」


『ステータス』という言葉がゲームには出てきたはずだ、白いウィンドウもゲームっぽいと思えば、どんどんとそういう風に見えてくる。

しかし、ゲームといえば小さいころに女の子のヒーローやモデルの女の子が主人公しゅじんこうのゲームしかしたことがない悠海は、ゲームの内容ないようえやリズムゲームがほとんどで、知識ちしきなどは無いと言っても過言かごんでは無い。

『ステータス』という言葉も、その女の子の主人公しゅじんこうのゲームで魅力みりょくアップやお仕事のミニゲームの時に表示ひょうじされていたのを思い出しただけだ。

意味いみはなんとなくわかるがどうしていいのかわからない。


途方とほうにくれるように、悠海は特色ステータス画面がめんを見つめていた。










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