第19話真実はいつも一つ

「いいっ!?私は自分のメイド寮に戻るけど、絶対にッ!ぜっっったいに!ユウトにちょっかいかけたりしないでよねっ!」

「わかりました、アリナ先輩。こんな風に……ちょっかいを出したらダメなんですよね?」

「あっ……イルさん……」

「だぁぁぁっ!!何してるの!イル!私のユウ……ユウトに近付いたらダメッ!」


 腕を引っ張られて、その胸を押し付けられる。やばい…なんだこの感覚は……遊ばれてるん…だよな?


「なにユウトもデレデレしてんのっ!?それにイル!あんたはなんでメイド寮に帰らないの!?」

「シャワー室の故障により、私の部屋が水浸しで……ヨヨヨ」

「絶対嘘でしょ!ヨヨヨっていうのもムカつくからやめなさいっ!」

「ま、まあまあ。俺は構わないからさ」


 というよりは、イルさんが俺の部屋に居ることに抵抗はないんだろうか……?俺も男だし、襲うつもりなんて更々ないけど…


「ぐ……ぐぬぬ……もし明日一緒の布団に入ってたりしたら……っ!」

「入ってたりしたら……どうするんです?」

「どうするって……そんなこと言えるわけないじゃない!!」

「うふふ……アリナ先輩は表情豊かで面白いですね」

「遊ばれてる!ねぇユウト!私先輩なのに遊ばれてるんだけどっ!」

「ははっ、イルさん。勘弁してやってください」

「そうですね、うふふ」

「もうっ!二人して笑って!絶対ダメだからね!絶対!」


 日本人としては若干振りにも思えるようなことを叫びながら部屋を出ていく。一瞬にして静寂が襲ってくる。


「……」

「では私はシャワー室の用意を致しますね」

「あ、うん。よろしく……お願いします」

「はい」


 うわっ……なんだこれ凄い気まずい……こんなの初めてだ。よ、よし!別の楽しいことを考えよう!

 確か、シャワー室と言えばシュンが『浴室小さいしシャワーの勢いは調整できねえし大浴場は人が多くてゆっくりできねぇし、カスかよ』とか言ってたな……ふふ、シュンは神経質なところあるからなぁ。うふふ。


「ユウト様、シャワー室の準備が出来ました」

「あ、ありがとうイルさ……ん?」

「あぁ、すみません。お見苦しいものを見せてしまって。先程シャワーが謝ってかかってしまい……すぐに着替えますね」

「は……はい!」


 うわぁっ!うわぁっ!上半身全体が濡れちゃって肌に張り付いてる!……しかも、あれ、ブラジャー……だよな?


「ユウト様?シャワーは浴びないのですか?」

「あ!今いきます!」

「…?行ってらっしゃいませ」


 こ、これをシュンは毎日楽しんでるのか……少し羨ましい…かもな。




ーーーーーーーーーー


「すいません、私も浴びさせてもらって」

「いや、全然構わないんだけど……なんでタオル?」

「着替えを先程使ってしまったので、使い回しても良いのですが…少し今日は暑いですしね。風邪を引かない程度に薄着でも良いかと」


 薄着って言うかタオルじゃん!布一枚じゃん!はえぇ……お湯のせいで肌が赤く染まってて……めっちゃ色っぽい……


「では、本日の調査結果ですが……」

「あ、あぁ」

「犯人はこの内の二人でしょう」

「二人……ですか。もうそこまで分かっているんですね」

「はい、ご主人様の『情報』はかなりのヒントになりました」


 イルさんから渡された二つの結晶には見たことのあるような顔が写っている。


「これは…?」

「これは『写影結晶』といって、ある場面を切り取ったように結晶に収めることができる魔法結晶です」

「カメラみたいなものか」

「カメラ…ですか?それはよく分かりませんが、このように映像を切り取れるのですか?」

「うん。こっちの世界じゃ『写真』と呼ばれているけどね。よく見せてくれる?」

「はい」


 凄いな。どういう原理なんだろうか…。かなり綺麗に撮られている。さて、この二人は誰か……こいつは、矢田悟志、か。ヤンキーみたいだが、実際は情に厚い良いやつだったと記憶している。


「もう一人は……はっ?……なんで、この人が?」

「矢田悟志様は、二回の下着盗難事件の際にその場に居なかったので上げていますが……私の予想ではの方が犯人かと」


 嘘……だろ?


「証拠はご主人様の『情報』にあります。その情報の中に書いてあったことの一つにこんなことが書かれていました。事件の後には必ず『短い毛』が落ちていたそうです。そしてその時間帯は早朝から特訓中の留守を狙った犯行だったそうです」


「だから……どうなんです?」


「つまり、その時間帯に『自由』に動けて、毛が抜け落ちる『年齢』の方は、その人しか居ませんよね?」




ーーーーーーーーーー


 その日の夜、俺は一人である部屋に来ていた。


 コンコンと乾いた音を響かせてノックする。


「失礼します。

「なんだ?その声は……光ヶ丘か。入ってくれ」

「はい」


 ドアをゆっくりと開けて部屋に入ると、ベッドに座り込んで本のようなものを読んでいる担任の柏木先生の姿があった。


「どうした?こんな夜中に突然」

「先生、話があります」

「うん?悩みごとか?珍しいなぁ光ヶ丘が悩みごとなんて───」

「茶化さないでください。下着盗難事件について話をしにきました」


 まっすぐと見つめて、証拠を突き付ける。


「この髪の毛……先生のですよね?申し訳ないですが、先生が軽度の脱毛症ということは調べさせてもらってます」

「ひ、光ヶ丘……なんでそのことを……」


 正確には調べたというよりは、噂になっているだけなんだが…当たりみたいで先生は驚いたようにこちらを見ている。


「それに、犯行は全て、特訓の間や早朝の人目がつかないような時間帯に行われていました。その間、自由に動けるのは……先生であり、特訓が免除されている柏木先生……だけですよね?」

「……おいおい、光ヶ丘。もしかして先生を疑ってるのか?」


 呆れたような眼差しをこちらに向けて立ち上がる先生。ゆっくりとこちらへ近付いてくる。


「そこからこっちには来ないでください!それ以上近寄ると罪を認めたと判断します!」

「穏やかじゃないなぁ光ヶ丘?それじゃあまるで、俺が犯人みたいじゃないか?」

「まだ『容疑者』です。犯人断定はできません。証拠はその髪の毛しかありませんし、DNA鑑定なんてこの世界には無いでしょうから直ぐには分からないと思います」


 警戒しておきながら、淡々と考えておいた言葉を並べる。


「もし先生が無罪なら、すぐに解放されます。やましいことがないのなら、調べに対応してくれますよね…?」

「光ヶ丘……先生はなぁ、お前を天才だと思っていたよ」

「……急になんですか?」

「お前は頭が良く、行動に迷いが無いように見えていた。が、残念だ」

「何が言いたいんです?」





「────犯罪者を前に、一人で来る奴は『馬鹿』と思われても仕方ないだろう?なぁ、光ヶ丘ぁ!!」


「っ!?」


 瞬間、先生の姿が消えた。視界には揺れるカーテンと少しくたびれたベッドなど、無機物しか写らない。


「どこに行ったんですっ!?」

「折角こんな能力を貰ったんだからな…光ヶ丘。これは神様が俺に与えてくれた『チャンス』じゃないのか?人生の転機…というやつじゃないのかなぁ…?」

「…………」

「俺は人を傷付けるようなことは大嫌いなんだ。でも仕方ないよな…仕方がないんだよな光ヶ丘。バラされたら俺の人生がおしまいなんだから」

「……どこにいるんですかっ!?」


意味のわからないことを…どこだ?どこから聞こえる……?くそっ、全く気配が掴めない…何故だ?なぜ見えない?隠れた…?いや!ずっと動きは警戒していた!なのに、まるで溶けるように見えなくなったっ!


「一体どこに……」

「ここだよ、光ヶ丘!」

「ぐぅっ!?」


 突然横腹に衝撃が走る。不意の攻撃に怯んでいると更に後ろから蹴られて地面に這いつくばる。


「いっ……せ、先生!なんでこんなことをっ!?」

「光ヶ丘は良いよなぁ!?女子にモテはやされてよぉ!先生はお前らが裏で『ハゲ』だとか『カッパ』とか、しまいには『ツルッパゲザムライマークII』と呼んでいたことを知ってるんだぞ!?」

「先生!涙を拭いてください!」


 何もない空間から水滴が落ちる。これは……透明化かっ!?


「エクスカリバーっ!!」

「おいおい、室内でそんな長剣を振り回せるのか?」

「……っ!」

「廊下へは逃がさねえぞ!残念だよ光ヶ丘。他の生徒たちに『光ヶ丘は行方不明になってしまった』なんて言わないといけないのはなぁっ!?」

「ぐふぁっ!?」


 腹へ鋭い蹴りが飛んでくる。やばいっ!……意識が……


「ほらよぉ!?いつもの余裕の表情はどうした天才っ!?それとも本当に動けない『馬鹿』になってしまったかぁっ!?」

「う……うぅ…」


 なんとか立ち上がろうとするが、見えない拳や蹴りが身体を沈める。もう……ダメか……?


 シュン……悪い……せっかく頼んでくれたのに……俺は負けちゃったみたい……





「────仕方ないですね、私、戦闘は苦手なんですが」

「……っ!?お、お前は誰だっ!?生徒じゃないな!?」


 イル…さん?あぁ……ダメだ…意識が途絶…え…………







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